ビジネスでも勉強でも、文章力は大事ですよね。メールに企画書にレポート。文章を書く力が試されるシーンはいくらでもあります。
さて、文章力を鍛えるには読書が有効だと聞いたことはありませんか? そして、自分はよく本を読むほうなのに、なぜかうまい文章が書けない……とお悩みの方はいないでしょうか。
じつは、単に本を読みさえすればいいのではありません。文章力を伸ばすための読書にはコツがあるのです。何をどのように読んだら文章力がつくのか、秘訣をお伝えします。
文章力が伸びる本のジャンルは “この3つ”
本はよく読むのに文章力があまりない人に、まず知ってほしいことがあります。それは、本なら何を読んでも文章力につながるわけではないということです。
フロリダ大学ビジネススクールの研究チームが、65人の学生を対象に調査を行ないました。普段よく読むコンテンツのジャンルを答えてもらい、彼らのライティングサンプルと照らし合わせるというものです。
すると、文章力が高いと評価されたのは、ノンフィクション、純文学、学術書を読む学生たち。これに対して、ミステリーやファンタジーの読者、ブログなどインターネット上の文章ばかりを読む学生たちの文章力は低い評価を受けました。この研究から、数あるジャンルのなかでもノンフィクション・純文学・学術書を読むことが、文章力の向上につながることがわかったのです。
この3つのうち、どのジャンルをどのように読むべきであるかは、文章を書くことのどんな点が苦手かによって変わってきます。1つずつ見ていきましょう。
ノンフィクションで「わかりやすい文章」の書き方を学ぶ
まずはノンフィクション。わかりやすい文章を書けるようになりたい人におすすめです。作家で経済ジャーナリストの渋谷和宏氏いわく、文章の書き方を学ぶのに最適なのはスポーツノンフィクション。スポーツのファン層は子どもから大人まで幅広く、多くの人を魅了するわかりやすい文章が求められるためです。
渋谷氏は、「文の順番」と「改行のリズム感」を意識して読むことをすすめています。
1.「文の順番」
渋谷氏によれば、文は「リーダーとしての文」と「フォロワーとしての文」に分類されるそう。わかりやすい文章は、「リーダー」が言いたいことを簡潔に述べたあとに、「フォロワー」がそれを補足する構造になっていると言います。
たとえば、この項目の最初の段落は、次のような構造になっています。
- 1文目「まずはノンフィクション。」リーダー
→話題をポンと提示してリード - 2文目「わかりやすい文章を〜」リーダー
→1文目に説明を追加 - 3・4文目「作家で経済ジャーナリストの~」フォロワー
→1・2文目を、3・4文目が具体的な説明で補足
この順番がぐちゃぐちゃになると、何が言いたいのかわからない文章になりますね。
2.「改行のリズム感」
適切に改行がなされている文章には、読みやすいリズム感があります。音読するなどして、文章のリズム感に着目して読む。そして、内容がすっと入ってくる「よい文章」に出合ったら、徹底的に読み込んでその文章のリズム感を身につける。そのような読み方を、渋谷氏は提案しています。
だらだらと伝わりづらい文章を書きがちな方は、スポーツノンフィクションを読んで、わかりやすい文章とはどういうものなのかを知りましょう。渋谷氏のおすすめは、文藝春秋社の雑誌『Sports Graphic Number』、山際淳司氏の『江夏の21球』などだとのこと。ぜひ読んでみてください。
純文学で「表現力」を高める
次に純文学。語彙力がない、表現や言い回しの幅が狭いと感じている人におすすめです。コンサルタントで複数の著書をもつ永江一石氏は、文章力を上げたければ明治~昭和の純文学や文芸作家のエッセイなどを読むことをすすめています。
良質な作品の作家は「こう書いたら読者はどう受け取るのか」を意識した上で、読み手の想像力を膨らませるように文章を書いています。ですから、読んでいるだけでも文章作成のスキルの向上に役立ちますし、実際受験生時代に現国の成績が落ちると小説を読んでました。
(引用元:まぐまぐニュース!|書くよりも読書せよ。人気コンサルが説く文章力向上の秘訣 ※太字は筆者が施した)
一方でビジネス本は、文章の美しさや個性が不要なジャンルであるため、読んでも文章表現の勉強にはならないのだそう。
また、児童文学作家のはやみねかおる氏も、文章力アップの基本は読書だと言います。その理由は、何かを説明・描写しようとするときに、それまで読んできた文章が参考になるからです。たとえば、ある食品の魅力を表現したいとき、表現力のない人は「おいしい」としか書けないものですが、多くの作品で食べ物にまつわる表現に触れてきた人なら、「舌触りがなめらか」「甘さ控えめ」「満腹感がある」などと多様な書き方ができます。
そうした参考となる表現にたくさん出合うのに、純文学は最適です。文学の達人が書いた文章をたくさん読み、書き方や言い回しをまねるなどするうちに、徐々に自分らしい文章表現ができていくのです。
豊かな表現で文章を書きたい人は、純文学やエッセイを読んで言葉をたくさん吸収しましょう。純文学を読み慣れていない人でも、夏目漱石や志賀直哉など耳にしたことがある文豪の作品や、現代の芥川賞受賞作品などから手をつけてみれば、きっと読みやすいはずです。
学術書で「構成力」を磨く
最後は学術書。文章全体の構成を組み立てるのが苦手な人におすすめです。教育評論家で都留文科大学特任教授の石田勝紀氏は、小説・物語と論説・学術書ではまったく文章の構成が違うため、読んでつく力も異なると言います。
石田氏いわく、小説の構造は「時系列」と「5W1H(Who、When、Where、What、Why、How)」が中心。また、「起承転結」もわかりやすい物語の構成としてよく知られていますね。
一方で論説は「序論・本論・結論」が基本。この構造はビジネス文書と同じです。文章力研修などを行なうコンピュータハウス ザ・ミクロ東京代表の豊田倫子氏は、「結論から書く」または「序論・本論・結論」が基本であるビジネス文書において、小説のような回りくどい「起承転結」は不要だと言います。
つまり、論理的で簡潔な文章を書くことが求められるビジネスパーソンにとって、文の構造を学ぶには、論説や学術書が大いに参考になるというわけです。勉強の記述問題やレポートなどでももちろん同様でしょう。
ビジネスで評価される文章を書きたい方は、学術書を読んで、「序論・本論・結論」のパターンを身につけましょう。学術書というとハードルが高い感じがするかもしれませんが、岩波新書、中公新書、ちくま学芸文庫などの新書・学術書レーベルから、心理学や社会学など、興味のもてそうなテーマの本を選んでみてください。
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ノンフィクション、純文学、学術書を読むことで、どのような力を伸ばすことができるかをご説明しました。「文章力」とひとくちで言ってもさまざまな要素がありますし、「本」とひとくちに言っても膨大なジャンルがあります。いまの自分に合ったジャンルの本を読んで、効率的に文章力を伸ばしましょう。
(参考)
Douglas, Yellowlees and Samantha Miller (2016), "Syntactic Complexity of Reading Content Directly Impacts Complexity of Mature Students' Writing," International Journal of Business Administration, Vol.7, No.3, pp.71-80.
THE21オンライン|「構造」を意識して読めば、文章を書く力が身につく
まぐまぐニュース!|書くよりも読書せよ。人気コンサルが説く文章力向上の秘訣
ダ・ヴィンチニュース|文章力アップの基本は「読書」! 誰よりも読書が上手になる“4つの視点”とは?/めんどくさがりなきみのための文章教室③
Wikipedia|純文学
東洋経済オンライン|読書好きな人がなぜか「国語が苦手」な真の理由
日経クロステック|ビジネス文書に「起承転結」はいらない、最初に書くべきことは何か?
バリューブックス|新書とは?文庫本や単行本とのサイズや内容の違い
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。