仕事や勉強のプラスになるとわかっていても、読書が苦手……そんな人は少なくありません。「子どもの頃から本が嫌い」という人も、なかにはいることでしょう。こうした本嫌いの人は、次の思い込みによって、読書で苦痛を味わったことがあるのかもしれません。
- 手にした本は「最後まで」読むべき
- 本は「1冊ずつ」読むべき
- 本嫌いは読書を「習慣化」できない
- 「身になる読書」には、特別な技術が必要
しかし、これらは読書に対する大いなる誤解です。その理由と、もっと楽しく、かつ効率的に本を読む方法をお教えしましょう。
1.【×】手にした本は「最後まで」読むべき
→【○】つまらない本は途中で読むのをやめていい!
読書が重荷になっている人にとって、「一度手にした本は、最後まで読まないといけない」という考えは、当たり前のものかもしれません。しかし、「つまらないと思った本は、最後まで読まなくていい」と、ベストセラー『嫌われる勇気』の著者・岸見一郎氏は言います。
その本がおもしろくないのは、内容が悪いのではなく、いまの自分に必要ないから。そんな本に時間を割くのは無駄ですよね。そこで岸見氏は、「つまらない本に見切りをつけること」を「本を閉じる勇気」と表現しています。
同様の意見を述べる、青山学院大学教授で経済学者の榊原英資氏によると、本を見極めるポイントは「はしがき」「あとがき」「目次」。「はしがき」や「あとがき」には、著者がなぜこの本を書いたかという思いが込められているので、ここに共感できなければ、本文にも引き込まれません。そして、「目次」にある見出しを見て、興味があるところから読み始めればいいとのこと。
つまり、本を最初から最後まで丁寧に読む必要はないのです。たとえ5~6ページしか読まなかったとしても、たしかな情報を得て自らの糧にできれば、読書の目的は達成していると榊原氏は言います。必要なところだけ読めば、速読をしなくても、効率的にいろいろな本が読めるようになりますよ。もちろん、読書が重荷になるということもありません。
ここでのポイントは次のとおり。
- つまらない本は、最後まで読む必要なし
- 本を見極めるポイントは「はしがき」「あとがき」「目次」
- 本は「必要なところだけ」読めばいい
2.【×】本は「1冊ずつ」読むべき
→【○】複数の本を同時に読んでもいい!
「読書好きでも、1冊だけを読んでいると気力が続かなくなることがある」と、岸見氏は自身の経験から言います。本好きの人であっても、1冊を読みきる集中力を持続するのは困難なのですから、読書に苦手意識がある人なら、なおさらですよね。
そこで岸見氏は、いろいろなジャンルの本を同時に読むことをすすめています。本を変えれば気持ちが切り替わり、再び読み続けられるからです。また、幅広いジャンルを読めば、視野が広がるというメリットも得られるとのこと。
これには、明治大学文学部教授の齋藤孝氏も同意見です。実際に齋藤氏は、実用的な本と純粋に楽しむための本を同時に読むことで、読書にメリハリをつけているそう。たとえば、ビジネス書と映画化された小説を同時に読んでみると、無理なく読書が楽しめるかもしれませんね。
ここでのポイントは次のとおり。
- 1冊の本を集中して読むのは、本好きでも困難
- いろいろなジャンルの本を同時に読んでみよう
- 「実践向きの本」と「楽しむための本」を並行して読む
3.【×】本嫌いは読書を「習慣化」できない
→【○】誰でも読書を習慣にできる!
読書を習慣にしたいと思っても、そもそも本が嫌いなのだから、読む気なんて起きるはずもない……という人もいることでしょう。読書を習慣化できるのは、もとから本が好きな人だけなのでしょうか? この問いに岸見氏は「NO」と答えます。
読書の習慣化に本の好き・嫌いは関係ない、と岸見氏。たとえば、読書好きの人のなかには、家だと意外に本を読むことができない人もいるのだそうです。ゲームやテレビなど、ほかの楽しいことに気が向いてしまうのは、読書好きでも変わらないとのこと。
本の好き・嫌いが関係ないと言うのなら、どうすれば読書を習慣化できるのでしょう。コツはふたつあります。
ひとつは、本を読む時間を「ルール化」してしまうこと。岸見氏は、誘惑が少ない家以外で読むことをすすめており、通勤・通学時間の活用を提案しています。
リモートワークのため通勤がない人や、家での読書習慣をつけたい人のためのもうひとつのコツが、「本棚」を用意することです。齋藤氏は、「読書をライフスタイルに取り込むには、本棚は必需品」と言います。本棚があると、常に本が視界に入り、自然と読書を意識づけられるからです。最初から大きな本棚を用意することは困難なので、ブックエンドを買って、デスクやたんすの上に小さな本棚をつくるところから始めてみてはいかがでしょうか?
「ルール化」と「本棚」をプラスすれば、家でも本を読みやすくなることでしょう。たとえば、リモートワークの人であれば「始業前の朝8時から30分本を読む」とルール化してみるといいかもしれませんね。
ここでのポイントは次のとおり。
- 「いつ読むか」をルール化して、読書を習慣化
- 誘惑が少ない場所で読むのがおすすめ(できれば家以外)
- 「本棚」を用意して、常に本の存在を意識しよう
4.【×】「身になる読書」には、特別な技術が必要
→【○】必要なし!
世間では「身になる読書術」がさまざま挙げられていますが、本嫌いの人にとってはハードルが高く、苦痛に感じるかもしれません。しかし、「読みながら考える」ことだけを徹底すれば、特別な技術がなくても、仕事や勉強に活かせる実践的な読書ができると、岸見氏は言います。なかでも反論は効果的だとのこと。なぜ著者の意見に違和感があるのかを考え、本の情報を咀嚼することで、本への理解度を高められるのだそうです。
自身も読書が苦手だと語る精神科医の名越康文氏は、「読む」「考える」に加えて、自分の考えを「書く」こともしていると言います。書くといっても、Twitterでツイートする程度の文字数なので、メモ帳感覚とのこと。
たとえば、ある業界の売上動向について「低迷しているのは若者に原因がある」と本に書かれていた場合。「若者に原因があるとは思わない。アメリカは価格設定を見直して、1年後には売上回復に成功している。日本の商品はデザインにも問題があるので、若者の購買意欲を高めるために、価格とともにトレンドにも配慮すべきではないだろうか。」といった具合に、100文字程度で考えをメモするのです。読書が苦手な名越氏が実践している方法なので、これならできるかもしれませんね。
ここでのポイントは次のとおり。
- 身になる読書のコツは「読む→考える」の反復
- 「書く」を加えれば、理解度がより高まる
- 自分の考えを「100文字程度のメモ」にまとめよう
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読書を苦痛にする誤解を取り除けば、本を読む楽しさに目覚めるかもしれません。しかも、ちょっとした工夫で、身になる読書を習慣化することもできます。さっそく、できることから始めてみましょう。
(参考)
岸見一郎(2019),『本をどう読むか 幸せになる読書術』, ポプラ社.
榊原英資(2018),『見る読書』, ベストセラーズ.
齋藤孝(2014),『大人のための読書の全技術』, KADOKAWA/中経出版.
名越康文(2018),『精神科医が教える 良質読書』, かんき出版.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。