「新近効果」と「初頭効果」の違いは? 使い分けを丁寧に解説!

新近効果とは1

新近効果とは最後に提示された情報が印象に残りやすいという心理効果。相手から最初に受けた「第一印象」よりも、「最後印象」のほうが記憶に強く影響する場合があるそうなのです。

心理学の知識をうまく利用すれば、ビジネスや日常のシーンで活用できます。今回は、「新近効果」を理解して使いこなすためのアドバイスをご紹介しましょう。

新近効果とは

「新近効果(recency effect)」とは、最後に提示された情報のほうが印象に残りやすい、という心理効果です。新近効果は、米国の心理学者、N・H・アンダーソン氏が1976年に行なった実験結果を元に提唱されました。

新近効果の実験では、模擬裁判で各証言が提示されたとき、弁護側・検察側それぞれ証言を聞く順番によって陪審員の判断が変化するかを調べました。

【パターンA】
一方の証言を2つ出したあと、もう一方の証言を2つ出す。これを3回繰り返す。

例:弁護側の証言2つ→検察側の証言2つ→弁護側の証言2つ→検察側の証言2つ→弁護の証言2つ→検察側の証言2つ

【パターンB】
一方の証言をまとめて6つ出したあと、もう一方の証言をまとめて6つ出す。

例:検察側の証言6つ→弁護側の証言6つ

実験の結果、陪審員はいずれの場合も “最後の” 証言の側に有利な判決を下したそう。この実験結果により、人は異なる情報源から複数の情報を与えられると、最後に提示された情報の影響を強く受けることがわかりました。

また、新近効果は、間を置いて情報をひとつひとつ提示するよりも、まとめて提示したほうが強くなるようです。 英国の心理学者、D・ブロードベント氏らが1978年に発表した実験では、被験者を2つのグループに分け、実験者側が読み上げる単語15個を聞き取らせました。一方のグループに対しては、15個を一気に聞かせ、もう一方のグループには、1つ読み上げるごとにそれまでの単語を全て繰り返し、それから次の単語に移る……というステップを繰り返したそう。そして、それぞれのグループが単語をどれだけ覚えているかを調査したのです。

実験の結果、一気に読み上げられる単語を聞き取らせたグループは、リスト末尾の単語を最も正確に記憶していました。10番目の単語から最後の単語に向かうにつれて、記憶が次第に正確になっていったそうです。一方、とぎれとぎれに単語を聞かせたグループは、あまり正確に記憶できなかったとのこと。つまり、複数の情報を断続的に提示するよりも、連続して提示するほうが、新近効果を高められると考えられます。

新近効果とは2

新近効果と対照的な初頭効果とは

新近効果と対にして語られることが多い「初頭効果」について説明します。初頭効果は、新近効果とは真逆の心理効果です。

初頭効果は、ポーランド出身の心理学者、S・アッシュ氏によって、1946年に提唱されました。アッシュ氏は、情報を提示する順序によって、受ける印象が変わることを実証したのです。

実験では、被験者を2グループに分け、ある人物を複数の形容詞で説明する文を提示しました。使われている言葉は同じですが、【パターンA】ではポジティブな形容詞が先、【パターンB】ではネガティブな形容詞が先です。

【パターンA】
知的で、勤勉で、衝動的で、批判的で、頑固で、嫉妬深い人

【パターンB】
嫉妬深くて、頑固で、批判的で、衝動的で、勤勉で、知的な人

実験の結果、【パターンA】を見たグループは、この人物に対して好印象を抱いた一方、【パターンB】を見たグループは、悪い印象を持ったのだそう。【パターンA】では最初に提示された「知的」という情報が、【パターンB】では「嫉妬深い」という情報が強い影響を及ぼし、同じ人物に対して真逆な印象を抱かせたのです。

【パターンA】では、「知的」というポジティブな情報が頭に残りつづけることにより、あとから提示された「嫉妬深い」というネガティブな情報は、イメージ形成に大きな影響を及ぼさなかったわけです。【パターンB】では、「嫉妬深い」という情報が頭に残りつづけ、「仕事はできるかもしれないが、性格に問題がありそうな人」という悪い人物像の形成に寄与してしまいました。

これが、新近効果とは反対の「初頭効果」なのです。

新近効果とは3

新近効果と初頭効果の使い分け

対象的な「新近効果」と「初頭効果」の概要を確認しました。本当に伝えたい情報は、最初と最後、どちらで提示するべきなのでしょうか。

相手の関心度合い

重視すべきなのは、メッセージを伝えたい相手が、あなたにどれくらい関心を持っているかです。あなた自身や、あなたが勧める商品・サービスに興味がある相手なら、重要な情報を最後までとっておくのが効果的。すると、「新近効果」によって、最後に提示された情報がより説得力を増し、同意を得やすくなります。ポイントは、主張の根拠を順番に展開することです。

一方、相手があなた自身やあなたが勧める商品に対してさほど関心がなかったり、あなたをよく知らなかったりする場合、話を最後まで聞いてくれる保証はありません。なので、重要な情報は最初に提示して、「初頭効果」を狙いましょう。

仕事のメールや個人のブログなどでもありがちですが、最初に相手の興味を惹きつけておかないと、最後まで読んでもらえず、本当に伝えたいことが伝わらないまま終わってしまいます。口頭でも文面でも、最初に聞き手・読者の心をつかむことが大事なのです。

相手の認知的複雑性

新近効果と初頭効果を使い分ける基準には、相手の興味の度合いだけでなく、「認知的複雑性」も関係します。認知的複雑性とは、インターネットを活用した集客コンサルティングサービスを運営している横山直宏氏によると、「物事を多角的に見ることができる能力」のこと。つまり、複雑なことを複雑なまま認知できる人は、認知的複雑性が高いといえるでしょう。

反対に、認知的複雑性が低い人は、物事を極端に判断する傾向があります。心理学博士の榎本博明氏によれば、「敵か味方かといった短絡的な見方をする」とのことです。

そのため、認知的複雑性が高くないと思われる相手に対しては、新近効果を利用しましょう。メリットのみをわかりやすく説明しつづけたあと、最もアピールしたい要素を最後に打ち出すのです。コツは、とにかく簡潔な話しぶりを心がけること。余計な情報をあれこれ盛り込むと、認知的複雑性の低い人を混乱させてしまうからです。

いずれにせよ、重要なのは、最初の印象と最後の印象。相手の関心度や認知的複雑性がよくわからない場合は、最も重要なメッセージを最初と最後の両方で繰り返し、初頭効果と新近効果の両方を狙ってみましょう。

新近効果とは4

新近効果の活用シーン

実際に新近効果を活用できそうなシチュエーションを想定してみましょう。

1. プレゼン・営業

たとえば、プレゼンテーションや営業の場面。相手が、あなた自身や、あなたが紹介する商品・サービスに少しでも興味を持っている場合、次のように説明すると効果的です。

新サービスは、従来のサービスに比べて高めの価格設定です。しかし、事前調査によると、ユーザー満足度は非常に高く、80%ものユーザーが従来のサービスから乗り換えたいと回答しました

このように、重要な情報を後半でアピールすれば、新近効果の発生が狙えるでしょう。

2. 広告にクチコミを載せる

自社のWebサイトやチラシに、商品・サービスのクチコミを掲載する場合にも、新近効果が関係してきます。

慶應義塾大学大学院商学研究科で行なわれた実験では、Webページの先頭に【ネガティブなクチコミ】をまとめ、ページの最下部に【ポジティブなクチコミ】を表示したところ、ページを通読した人は、【ポジティブなクチコミ】をより印象的に感じたそう。わざわざインターネット上でクチコミを読もうとする人は、すでにその商品に強い興味を抱いています。そのため、初頭効果よりも新近効果が表れやすいのですね。

あなたも、自社の商品・サービスのアピールをすることになったとき、情報の受け手が知識や興味を持ってくれているのであれば、ネガティブ→ポジティブの順に情報を提示してみては?

3. アフターフォロー

新近効果を利用すれば、あなた自身やお店、会社が、顧客から良い印象を持ってもらうことができます。別れ際に笑顔で丁寧な挨拶をするのはもちろんですが、商談や販売が終わったあとのフォローも効果的です。

たとえば、手書きの礼状を送ったり、感謝の気持ちを込めたメールを送ったり。あなた自身や会社に良いイメージを残してもらえれば、顧客は次も商品・サービスの購入を検討してくれるかもしれません。

ここまで新近効果の重要性を解説してきました。しかし、最後の瞬間だけに力を注げばいいというわけではありません。むしろ、最後の勝負に出るまでに、話の流れが自然になるように組み立てたり、インパクトの強いエピソードを事前に考えておいたりと、相応の準備が必要です。新近効果をうまく活用するため、商談や接客の前には入念な準備をしておきましょう。

***
他人を説得したり、伝えたいメッセージをしっかり受け止めてもらったりすることは、簡単ではありません。しかし、新近効果を意識し、情報の伝え方に注意を払ってみると、驚くほど結果が変わるかもしれませんよ。

(参考)
慶應義塾大学学術情報リポジトリ|消費者の情報取得・製品評価行動におけるeクチコミの影響
コトバンク|記憶
コトバンク|対人認知
ダイヤモンド・オンライン|「トランプ型職場」の心理学、なぜ感情が爆発し攻撃し合うのか
経営者の集客術|初頭効果と親近性(終末)効果をマーケティングに活かす方法を徹底解説

【ライタープロフィール】
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