「いつも心に余裕がある人」になるために、頼っていいこと、ダメなこと。

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」01

「頼る」ことは甘え――そう考え、仕事で助けを求めることをためらう人も少なくないはず。あなたはなんでも自分で抱え、心に余裕がなくなってはいませんか?

『頼るスキルの磨き方』(KADOKAWA)を上梓した医師の吉田穂波氏は、「『人に頼る』スキルは、社会人にとって最も必要な能力の一つ」だと述べます。ビジネスパーソンが「人に頼る」ことは、甘えではなく、仕事を効率化するうえで大切なことなのです。

では、どのようにして頼るといいのでしょう。いつも心に余裕がある人は “こんな頼り方” をしているようですよ。一方で “これには頼らない” というものも。両者を念頭に置けば、あなたも頼るスキルを磨けるかもしれません。詳しくご紹介しましょう。

「仕事の3割」は人に頼る

「ひとりでやるほうが早い」と、キャパシティぎりぎりで仕事をしていませんか? 余裕のある人ほど、上手に手を抜いているもの。あなたもできれば、“仕事の3割” を誰かに任せてみましょう

心理カウンセラーの根本裕幸氏は、「一人でなんでも抱え込むクセ」「抱え込み症候群」と表現し、その原因は「自己完結グセ」にあると述べます。その思考パターンの一例がこちら。

  • 「自分がガマンすればいい」
  • 「これくらいのことは、自分でやらなければ」

(上記カギカッコ内引用元:ダイヤモンド・オンライン|「頑張らない・断る」で心がラクに、抱え込み症候群を脱出する方法とは

“自分で解決する” というまじめさが、苦しい状況を生み出してしまうのです。

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」02

根本氏は「余裕がある自分」になるための仕事量について、こう述べています。

理想の仕事量は、自分のキャパシティの60~70%だ。このくらいの量なら、アクシデントなどが発生しても、冷静に対処できる。

(引用元:同上)

つまり、「ここまでいける」と思う仕事量のうち3~4割は、人の力を頼りにするほうがいいのだということ。

そこで役立つのが、前出の吉田氏が提案する「KSK」というテクニックです。これは「相手が依頼を受け入れやすくする」伝え方。KSKは以下の頭文字をとっています。

(上記カギカッコ内引用元:WORK MILL|「頼る」ことは大人の社会スキル 「助けたい」を引き出す上手な頼り方と頼れる人の探し方  以下枠内は同資料よりまとめた)

  1. K(敬意)
    「あなただから相談したい」
    と相手を信頼していることを表明する。ポイントは「名前」を呼ぶこと。
    例「〇〇さん、いまお手すきでしょうか?」
  2. S(存在承認)
    「相手がただ向き合ってくれる」ことを認める。相手側の「役に立たねばならない」という心理的なハードルを下げる効果。
    例「お時間を割いてくださり、助かります」
  3. K(感謝)
    相手が力になってくれるか否かにかかわらず
    、感謝の言葉を最大限伝える。
    例「最後までお聞きくださり、ありがとうございます。〇〇さんに話せただけで、心がほっとしました」

「KSK」で大事なのは、謝罪ではなく感謝の言葉を述べること。

頼ったことを申し訳なく思い、つい「お手数をおかけして申し訳ありません」と言ってしまうことはよくあるものですが……、

謝罪すると、相手が「謝ってほしいわけではないのに謝らせてしまった」という気持ちになり、依頼を受け止めづらくなります。

(引用元:同上)

と吉田氏。相手の気持ちにも配慮した表現で、自分の仕事のうち3割ぐらいは人に頼る――ぜひ、実践してみてください。

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」03

「弱音を吐いて」頼る

「愚痴や弱音を言うのは心が弱い証拠」と考え、本音を言わずに抱え込むのも注意が必要。心に余裕をもつには、“弱音を吐く” ことでストレスを上手に発散するほうがいいのです。

働き方やキャリア構築などについて情報を発信するキャリアバイブル(株式会社NEXER運営)の調査によれば、「仕事での悩み」を「誰にも相談しない」ビジネスパーソンは、36.2%にものぼったのだそう。同社は「誰かに相談したとしても悩みの解決にはならないという理由で、誰にも相談しないという方が多いよう」だと分析しています。(カギカッコ内引用元:CAREER BIBLE|【相談しても無意味?】仕事での悩みは「誰にも相談しない」が36.2%で最多

自分もそう思うという方もいるかもしれませんが、精神科医の樺沢紫苑氏は、「相談しても意味がない」と考えるのは「誤り」だと指摘。その理由を次のように説明します。

たった一度、30分相談しただけでも不安やストレスが相当取り除けます。相談自体に「ガス抜き効果」があるからです。

(引用元:ダイヤモンド・オンライン|精神科医が呆れる「他人に相談できない人の残念な考え方」ワースト1

たとえ問題の根本原因が解消されなかったとしても、“誰かに話を聞いてもらう” という行為自体に、不安感の軽減や、デトックス効果があるわけですね。

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」04

加えて、内科医の國松淳和氏によると、「つらい」と弱音を吐ける人ほど、ストレス回避力が強いそう。

「つらたん」(と感じること)は悪いことばかりじゃないんです。実は「つらたん」(という感情)は、脳や体に行動として働きかける。人間は考える生き物なので、負担を抑える行動を取れる。それによって負担を減らす。

(引用元:ログミーBiz|すぐに弱音を吐いちゃう人ほど、実はストレス回避力が高い?“つらたん”状態からは「無理しないこと」でしか抜け出せない

(※「つらたん」は「つらい」の意味。参考:Weblio辞書|つらたん

たとえば、「ああ、仕事つらい」とすぐ弱音を吐ける人は、デスクから離れて休憩をとったり、人と会話をして気を紛らわせたり……それ以上の負担を抱えないような行動をとれるということです。反対に、弱音を吐けないでいると、そのまま頑張り続けてしまうため、ストレスがたまったまま。

國松氏いわく「ストレスは自然消滅しない」。時には弱音を吐き出して、リセットする必要があるわけですね。

なお、弱音は言う相手も重要です。心理カウンセラーの高見綾氏によれば、弱音を吐く相手を間違えると、「『そんなこと言ってないで頑張りなよ』と理解してもらえ」ない可能性があるとのこと。「好意的に思ってくれている人や、信頼の置ける人」を選ぶとよいそうです。(引用元:マイナビウーマン|弱音を吐くのは悪くない。うまくストレスを解消するには

弱音を聞いてくれる相手に上手に頼りながら、ストレスはつど解消することが大切です。心の余裕をもつためには、「強い人間でいなければ」という思い込みは不要ですよ。

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「やる気」には頼らない

心にも働き方にも余裕のある人には、あえて「頼らない」ものもあるようです。そのひとつが “やる気” 。「仕事の進捗が遅いのはやる気が出てこないせいだ……」と考えがちな人は要注意。

株式会社フロンティアコンサルティング代表取締役社長で、脳科学に詳しい上岡正明氏いわく、「行動するから、脳がやる気になる」。やる気の有無にかかわらず行動を起こせば、脳の側坐核に刺激を与えることができ、その結果「やる気の脳内物質であるドーパミンが脳の行動中枢を刺激して、行動喚起のモチベーションに転換される」――という仕組みなのだとか。(カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|仕事が遅い人が「良いと信じている3大悪習慣」

たとえば、「アポをとる必要があるけど、先方の担当者が苦手で……」「情報収集はしてみたけど、資料をまとめるのが面倒……」などと、やりたくない理由を挙げては行動を先延ばしにすることはないでしょうか。「やる気が出たらやろう」と思うだけでなんの行動も起こさなければ、いつまでたっても脳はやる気にならないのです。

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」06

行動によってやる気を起こすには、上岡氏が紹介する「5秒ルール」を試してみてください。アメリカの弁護士兼テレビ司会者メル・ロビンズ氏が考案した手法です。やり方は以下のとおり。

  1. 「何か行動しようと思ったときに、すぐさま『5、4、3、2、1』と、(できれば口に出して)カウントダウン」する
  2. 「『0』になるまでに必ず行動を起こす」

(カギカッコ内引用元:同上)

いたって簡単なルールですが、「カウントダウン」が行動の発端となり、やる気を起こすトリガーになってくれるのだそう。ですから、「腰が重い……」と感じて動けないときは、いつ湧いてくるかわからないやる気を頼りにするのではなく、5、4、3……と数えて行動のスイッチを入れ、自らやる気を生み出しましょう。

なお、「悩んで行動せずにいる」よりも「思いきって行動する」ほうが幸福度が高まることが、シカゴ大学の経済学者の研究で明らかになっています。人生の大きな決断(転職、起業など)について、バーチャルのコイントスで「変化」を決めた人は、「現状維持」を決めた人と比べ、数か月後の幸福度が高かったとのこと。(Oxford Academic|Heads or Tails: The Impact of a Coin Toss on Major Life Decisions and Subsequent Happinessより)

「まだやる気が出てこないから……」などと言って行動しないよりもサッと行動に移してしまうほうが、結果的に満足できるわけですね。

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」07

「人に対する期待」には頼らない

職場で苦手な人ともうまく接しようとする努力は尊ばれるもの。ですが「嫌な態度をとってくるあの人のことが苦手だけど、仲良くなればそういう態度もなくなるはず」と、“人に期待する” のはやめたほうがいいかもしれません。

精神科医の井上智介氏は、2種類ある「人間関係の悩み」のパターンのひとつに、「上司が攻撃的だったり、ネチネチ揚げ足をとったりするようなタイプで、自分が傷つくパターン」を挙げています。(カギカッコ内引用元:プレジデントオンライン|「嫌いな人にまで好かれようとする」いつか"爆発してしまう人"の特徴

たとえば、“これがわからない? 同期の〇〇君はすぐ理解するのになあ” などと上司に言われて悲しくなる――といったケース。そして井上氏はこう助言します。

職場の人間関係で悩まされている人に、大前提としてお伝えしたいのは、相手を変えようとしたり、相手が変わることを期待したりしないこと。これは絶対にやめたほうがいいです。

(引用元:同上 太字は編集部にて施した)

オーストラリア出身の精神科医・心理学者のアルフレッド・アドラー氏が、以下の名言を残しているように、他人の行動は、自分の思い通りにコントロールできるものではないのです。

健全な人は、相手を変えようとせず自分が変わる。
不健全な人は、相手を操作し、変えようとする。

(引用元:ダイヤモンド・オンライン|いつも愚痴を言ったり腹を立てているあなたへ「アドラーからの警告」

“いつも心に余裕のある人” が「上手に頼っていること」「頼らないこと」08

井上氏も、相手を変えようとするより「自分の受け止め方を変える」ほうが正解だと言います。しかし、その変え方を間違わないように注意する必要があるとのこと。

自分にとって明らかに嫌いで苦手な相手なのに、「仲良くなれば、自分への攻撃がなくなるのではないか」と期待して、「相手のいいところを探そう、仲良くしよう」といった方向に考えを変えようとするのは間違っているそうなのです。(カギカッコ内:「プレジデントオンライン」の記事より引用)

先の例で言えば、“上司はきっと、自分のためにあえて厳しく言ってくれているんだ” など、よい面を無理やり探そうとする――といったこと。これでは、自分の感情に蓋をしたままで、対人関係に苦しむ悪循環から抜け出せません。

そして井上氏は、こう述べています。

でも人が人を嫌いになることは、全く悪いことではありません。嫌いなものは嫌いで、それ以上でもそれ以下でもない。相手が嫌いなら嫌いと認めて、変な加工はしないことが大切です。
そのうえで、物理的にも心理的にも距離をとりましょう。

(引用元:プレジデントオンライン|「嫌いな人にまで好かれようとする」いつか"爆発してしまう人"の特徴

いつか相手が自分への接し方を変えてくれるだろう……といった期待は手放し、相手に対する不快感は素直に認め、不快な相手とは距離を置く――自分に嘘をつかないでいれば、心に余裕をもちながら働いていけますよ。

***
心に余裕がなくてしんどいな……と思うときは、自分の気持ちを大事にしながら、上手に周囲を頼りましょう。“頼る力” を高めれば、仕事がいっそうはかどるはずです。

(参考)
吉田穂波(2022),『「頼る」スキルの磨き方』,KADOKAWA.
ダイヤモンド・オンライン|「頑張らない・断る」で心がラクに、抱え込み症候群を脱出する方法とは
WORK MILL|「頼る」ことは大人の社会スキル 「助けたい」を引き出す上手な頼り方と頼れる人の探し方
CAREER BIBLE|【相談しても無意味?】仕事での悩みは「誰にも相談しない」が36.2%で最多
ダイヤモンド・オンライン|精神科医が呆れる「他人に相談できない人の残念な考え方」ワースト1
ログミーBiz|すぐに弱音を吐いちゃう人ほど、実はストレス回避力が高い?“つらたん”状態からは「無理しないこと」でしか抜け出せない
Weblio辞書|つらたん
マイナビウーマン|弱音を吐くのは悪くない。うまくストレスを解消するには
東洋経済オンライン|仕事が遅い人が「良いと信じている3大悪習慣」
ツギノジダイ|判断に悩んだとき、選ぶべきは「現状維持」か「変化」か 実験で分かった結果とは
Oxford Academic|Heads or Tails: The Impact of a Coin Toss on Major Life Decisions and Subsequent Happiness
プレジデントオンライン|「嫌いな人にまで好かれようとする」いつか"爆発してしまう人"の特徴
ダイヤモンド・オンライン|いつも愚痴を言ったり腹を立てているあなたへ「アドラーからの警告」

【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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