主要な国際ジャーナルに研究を発表しているアリス・ボーイズ(Alice Boyes)博士によれば、「不安」と「先延ばし」は手をつないで行動しているそうです。そのなかで、しばしば見過ごされたり、誤解されたりする “先延ばし” があるのだとか。
今回は、正しく認識されにくい「不安による先延ばし」と、「不安による先延ばしの改善に役立つこと」、その理由を紹介します。
多くの人が先延ばししている?
米イリノイ州 シカゴの大学・デポール大学の心理学教授であるジョセフ・フェラーリ(Joseph Ferrari)氏は、自身の研究に基づき、成人の約20%が “先延ばしの常習犯” であると主張しています。
大学生の慢性的な先延ばしにいたっては、70%に達する可能性があると示唆する研究もあるのだとか……!
「先延ばし」の陰に「不安」あり
1997年11月に『Psychological Science』で発表された研究には、「先延ばし」に関連するとして、次の5点が挙げられています。
- 精神的な病気
- 筋の通らない信念
- 低い自己評価
- 不安
- 応力
また、20歳で3つの会社を立ち上げたマーケティング・コンサルタントのヴィク・ニフィー氏も、物事を「先延ばし」してしまう背景に、「不安」があると説明しています。
たとえば、目の前の課題に対して恐れや「不安」を感じると、「闘争・逃走反応」を司る脳の扁桃体が活発化し、高次機能の中枢と言われる前頭前皮質が機能しなくなるのだそう。
つまり、「このタスクは不安。とても不安だ。よし、逃げよう!」といった具合に、「逃走反応」が働くわけです。
物事を先延ばしすること自体も、軽度の不安反応を引き起こすといいます。まさに「不安」と「先延ばし」が手をつないで行動している状態ですね。
そのなかに、見過ごされたり誤解されたりしやすい、“不安による先延ばし” があるのだとか。ボーイズ博士が教えてくれた内容を、かみ砕いて説明します。
不安による先延ばし1:周囲に八つ当たり
不安が原因で物事を先延ばしする場合、不安を認める代わりにイライラして、周囲の人に八つ当たりすることがあります。
他者を非難することで、自己責任が曖昧になるからです。
しかし、八つ当たりするとますますストレスが強くなり、むしろ不安を誘発するのだそう。 人に八つ当たりしても、物に当たり散らしても、何ひとついいことはありません。
必要なのは、自分の不安を認めることです。
不安による先延ばし2:成功経験があるのに不安
何度も経験し、成功しているタスクに対し、なぜか不安を覚えることがあります。前回そのタスクを実行してからだいぶ時間が経っている場合や、リスクが大きい場合、あるいは同じタスクでも、通常とは異なるかたちで評価される場合などです。
そんなときは、
- 今回のタスクが今までとどう違うのか
- このタスクをこなすために必要な基本スキルとは何か
- このタスクをこなすために必要なことは何か
を考えてみましょう。
不安の根源(前回との違い)を認識でき、自分の客観的な事実(スキルが足りているのかどうか)を明らかにできて、必要なことを明確にできます。
不安による先延ばし3:ほんの小さな側面が不安
タスクのなかの、ほんの小さな側面に対する不安が、全体の進捗を妨げている場合があると、ボーイズ博士は説明します。
たとえば、タスクの最初にかける電話に「相手は協力的だろうか?」「失礼がないように行なえるだろうか?」などと不安を感じているとき、その小さな側面のせいで、タスク全体が困難なものに感じてしまうことがあります。
自分を不安にさせているものが電話だとわかれば、そのステップを通過することで、何ら問題なくその後のタスクを進められるでしょう。
不安による先延ばし4:タスクの側面に憤りを感じる
たとえば、目の前のタスクが時間の無駄だと感じる場合、あるいは非論理的で、不公正で、思いやりのないシステムや手順に従う必要がある場合、そのタスクの側面に憤りを感じ、先延ばししてしまうことがあります。
憤りに覆い隠されていますが、実際には、目の前にあるタスクの背景やシステムが自分の仕事を邪魔するように感じるとき、不安も引き起こされているのです。
あるいは、煩わしく厳しいルールがあるタスクを、しっかりと遂行できるかどうか、不安になってしまう場合もあります。その憤りや煩わしさが、不安です。
不安による先延ばし5:完璧主義になる
不安による先延ばしに陥る人は、自分の不安に対し、しばしば完璧主義で応えてしまいがちです。より正確に仕上げたいときなどは、自分の限界をはるかに超えたタスクを設計してしまうかもしれません。
一般的な人がタスクのために準備し、段取りを組んで遂行しようとする方法と比較して、心配性な人は、まだ始まってもいないのに、タスクにアプローチする方法が完璧すぎることに気づきません。
本当はそれほど難しいタスクではないことを認識できていないのです。
結果として、「うーん、これは、なかなか難しいぞ」などと、ますます先延ばしに精を出してしまいます……。
不安を認めることが役立つ理由
では、どうしたらいいか?
各項でも触れていますが、とにかく「不安を認める」ことが大切です。
不安を認めることが、不安による先延ばしをやめる際に役立つ理由について、ボーイズ博士はこう説明しています。
問題(先延ばしの原因)が不安だとわかれば、
- チャンクダウン(タスクを細かくして明確にする)
- ベビーステップ(ものすごく少しずつ前進する)
- 運動(気分転換でき、不安の軽減に役立つ)
といった不安解消のための戦略を立てられる。
また、自分の不安を認める(原因が自分の気持ちにあると認める)ことは、自分の責任で現状を打ち破ろうとすることに役立ち、他人やシステムを非難することをやめさせ、他者との会話を生産的にする。
そして、不安があるとわかれば自分を思いやれるようになる。自分を思いやる気持ちが生まれれば、他者にサポートを求めることも可能になる。
毎回毎回、同じ業務で誰かに助けを求めるのはNGだが、普段は助けを求めないような仕事であれば、他者にサポートを求めることが十分に許されるはずであり、適切である可能性が高い。
(※How to Recognize Anxiety-Induced Procrastinationの内容をわかりやすい表現でまとめています)
ぜひ参考にしてみてくださいね。
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ジョセフ・フェラーリ教授らが22,053人を対象にした研究によると、先延ばしの習慣を持つ場合、低賃金と失業の可能性が高いと予測されているそうです。予測どおりになんかならないよう、「先延ばししているなぁ」と感じたら、すぐに自分の不安と向き合いましょう!
(参考)
Psychology Today|How to Recognize Anxiety-Induced Procrastination
WSJ|To Stop Procrastinating, Look to Science of Mood Repair
Medium|The Startup|How I Beat Procrastination By Doing This 1 Thing
未来を変えるプロジェクト by iX(アイエックス)|先延ばしの心理メカニズムと絶対に先延ばししない対処法とは
ログミーBiz|先延ばしにする理由とその対処法とは?脳の働きから解明する
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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