日々仕事に励んではいるけれども、自分には何ら秀でたスキルはない。やっぱり、大きな仕事を任せてもらうには、MBAの学位や高い英語力がないとダメなのだろうか……。
自分とスキルのレベルにそう変わりない同期が、大プロジェクトのメンバーに抜擢されたのはなぜなのだろう。あいつ、いつの間にか特別な能力でも身につけたのかな……。
上司から信頼を得て大きな仕事を任される人と、そうでない人との違いは、いったい何なのでしょうか。どんどん先へ行くライバルと、パッとしない自分との差に悩んだことがある方に、その差を埋めるために今すぐ磨くべき「ブランドイメージ」についてお伝えしたいと思います。
ブランドとは何か?
皆さんは、ブランドと聞いて、何を想像するでしょうか? “一流のたしなみ”をイメージする人は多いかもしれませんね。
静岡県立大学経営情報学部教授でマーケティングを専門とする岩崎邦彦氏の著書『小さな会社を強くする ブランドづくりの教科書』の中に、次のような調査結果があります。2012~2013年に消費者1,000人を対象に「ブランドという言葉を聞いて、思い浮かべる言葉は何か」についてアンケートを取ったそうです。その結果がこちら。
1位 高級・高価(219人)
2位 ルイ・ヴィトン(99人)
3位 シャネル(79人)
この結果から、多くの人は「ブランド=高級なもの」だと考えていることがわかります。
しかし実は、ブランドとは特別な高級品にしか当てはまらない言葉ではありません。岩崎氏によると、人はあらゆる商品の購入を決める際、信頼度によって判断をくだしているのだそう。
例えば、自動販売機で量・値段・品質すべてが同じコーラが売られているとしましょう。その中から1本のコーラを買うとき、あなたは、名高いコカ・コーラを買うこともできますし、聞いたこともないゴラコーラを買うこともできます。この場面ではおそらく、ほとんどの人がコカ・コーラの製品を選ぶのではないでしょうか。また、仮にゴラコーラのほうが値段が安かったとしても、やはり信頼できるコカ・コーラを選びたくなりますよね。
岩崎氏曰く、ブランドは「タイブレーカー」と呼ばれるとのこと。これは、テニスの試合で同点の際、勝ち負けを決める延長戦のことを「タイブレーク」と呼ぶのにかけたものです。岩崎氏は、「品質が『同点』ならブランド力で勝負が決まる」と断言しています。
ビジネスパーソンとしてのブランドづくりのステップ
ここまで、商品を例にしてブランドの意義を説明してきましたが、人材に当てはめた場合でも、ブランドは大いに価値を発揮します。例えば企業の社長にはブランドという信頼が重要であるように、個人のビジネスパーソンもブランドを持つことは大切なこと。MBAの学位や高い英語力のような特別なスキルを持たない平凡な人材であっても、ブランドを手に入れれば周囲からの信頼を得ることができるのです。
ではどうすれば、自分をブランド化することができるのでしょうか。それについて考える前に、岩崎氏が著書で解説している「アメーラ」というトマトの例を使って、商品のブランドづくりのステップを紹介します。そのステップとは、簡単に言うと「設定→明文化→共有→実践」の4ステップです。
新ブランドを立ち上げたい生産者が、どのようなブランドアイデンティティにしたいか決めること。この段階では抽象的な言葉でも可。
(例)「フルーツ並みかそれ以上のトマトを作る」というブランドアイデンティティを設定。
【2】明文化:
新ブランドの提供者の間で、ブランドアイデンティティを理解できる形で共有すること。この段階でブランドアイデンティティを具体的にする。
(例)先ほどの抽象的なブランドアイデンティティを、「最高品質の高糖度トマトで、おいしさの感動をお届けする」というように、提供者全てにわかりやすい形で言語化しなおす。
【3】共有:
提供者の間に浸透したブランドアイデンティティを消費者の間に普及させること。
(例)広告の出稿をはじめとするマーケティングにより、消費者にアメーラトマトの良さを伝える。
【4】実践:
提供者と消費者の間にでき上がったブランドイメージの軸を、ブレさせないように維持する。
商品のブランドづくりのステップを、人材のブランドづくりに当てはめて考えてみます。あなたが今の仕事で大きな仕事を任せてもらえる人になりたいなら、以下のステップを踏んでブランディングをしていきましょう。
【2】明文化:その分野なら社内の誰にも負けないと会社の仲間に伝える。
【3】共有:あなたの強みを曖昧にせず、より多くの人に伝える。
【4】実践:あなたが任せてもらいたいと設定した仕事が回ってきたときは、何が何でもやり遂げる。
例えば、あなたが営業の仕事をしているならば次のような具合になります。
【2】明文化:部内の他のセールスパーソンよりも多く飛び込み営業している事実を部内に浸透させる。
【3】共有:上層部にもあなたの営業件数が知れ渡るよう、直属の上司などに働きかける。
【4】実践:以後、誰にも営業件数を抜かせない。
これが、自分というブランドを成長させるためのステップです。ここに、特別なスキルは必要ありません。大切なのは、時間がかかっても愚直に取り組み続けること。そうすれば、「大きな仕事を任せるなら、この人にお願いしよう」という評価と信頼を得ることができるでしょう。
時代の変化に合わせてブランドを刷新するには
このように自らのブランドづくりに成功しても、全てが急速に入れ替わる社会の中では、昨日まで必要とされた才能が今日には必要なくなるということもあるかもしれません。そうならないためには、どのような手段をとれば時代を超えて生き残っていけるブランドになることができるのでしょうか。
このことを考える良い事例が、イタリアのファッションブランド・GUCCIのブランド復活劇です。
1921年創業のGUCCIは、1953年に2代目社長が就任した頃から、長い年月にわたって続いたお家騒動によりブランド低迷期にありました。80年代にディレクターに就任したトム・フォード氏(現在、自己ブランドをもつファッションデザイナー、映画監督)により、GUCCIのブランドはファッションの最前線に復活。しかし、彼が退任した90年代からは2度目のお家騒動により、再び低迷期に。その後、2016年にアレッサンドロ・ミケーレ氏がクリエイティブ・ディレクターに就任すると、GUCCIはブランドロゴを強く押し出す新しい文化の担い手として再度の復活を遂げました。
エイベックス代表取締役会長CEOの松浦勝人氏は、GUCCIのブランド復活劇の背景にあったものを踏まえ、時代に合わせてブランドを刷新していくことの重要性について次のように述べています。
ファッション業界はデザイナーの交代はよくありますが、グッチのようにCEOも代わり、ブランドコンセプトまで根本的に刷新するケースはほとんどない。次の時代への勝負だったのでしょうが、そうした変革を行える企業こそ次世代に残っていくのだと思います。
(引用元:web版ゲーテ|【特集グッチ】エイベックス松浦勝人が考える 「なぜ、GUCCIは成功したのか?」)※太字は筆者にて施した
つまり、時代に応じて新しいブランドアイデンティティを設定することが必要だということ。GUCCIは、単にロゴを押し出すブームに乗っただけではなかったのです。また、クリエイティブディレクターで元博報堂デザイナーの佐藤可士和氏は、GUCCIは明確な意思を込めたブランディングを世界に発信したと分析しています。GUCCIは、新たに設定したブランドアイデンティティの軸をブレさせることなく世界に共有したからこそ、再び成功することができました。
低迷の時代を乗り越えてブランドの刷新に成功したGUCCIに学べば、あなたのビジネスパーソンとしての強みを時代に合わせて変化させていく方法を知ることができます。
例えば、あなたが「誰よりも飛び込み営業をする」というブランドを誇りに仕事をしていたものの、同じような強みをもつ人が社内に複数現れたことにより、ブランドを刷新する必要性が出てきたとします。そのような時は、以下のようにして新たなブランドアイデンティティを確立し、自分だからこそできる仕事があることを周囲に知らしめてみてはいかがでしょうか。
【2】明文化:好かれる営業になるために、相手企業の担当者とのコミュニケーションを密にとり、商品や顧客について詳しくなるほか、悩みなどを徹底的にヒアリングしていることを、部内に浸透させる。
【3】共有:いくつもの飛び込み営業と顧客を知る努力を重ねた結果「あらゆる企業の情報を持つセールスパーソンになった」という事実を、部署を超えて社内に知らしめる。
【4】実践:その取り組みを実践し続けることで、「新たな取引先が欲しいときにはまずこの人に相談せよ」という全社的な信頼へとつなげる。
こうすることで、単に「飛び込み営業に長けた人」から、「飛び込み営業として好かれるよう努力した結果、あらゆる企業について詳しい情報をもつ人」へとブランドを刷新することができます。あなたのブランドは、社内のどのライバルにも負けないものへと成長することができるでしょう。時代や環境の変化に合わせてブランドに変革を加えつつ、任せられた仕事をやり遂げることが、時代を超えて生き残っていけるブランドになるために重要なのです。
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何の取り柄もないと悩んでいるビジネスパーソンのみなさん。特別なスキルを身につけようとするよりも、まずは今の仕事の中で自分が磨き上げられるブランドを模索することから始めてみてはいかがでしょうか。
(参考)
岩崎邦彦(2013),『小さな会社を強くする ブランドづくりの教科書』,日本経済新聞出版社.
「各界のトップランナーが解く 『なぜ、GUCCIは成功したのか?』」,GOETHE, 2018年9月号, pp60-61.
web版ゲーテ|【特集グッチ】エイベックス松浦勝人が考える 「なぜ、GUCCIは成功したのか?」
StudyHacker|大きな仕事を呼び込もう。ディズニー・ハリーポッターに学ぶ、あなたを “ブランド” にするルール
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。