やる気が高まって仕事や勉強がサクサクと進んでいるとき、「今の好調をキープできたらいいのに」と、多くの人が思うことでしょう。しかし実際は、“嫌な出来事に遭遇した” “思ったように物事が進まない” といったことが引き金となり、モチベーションが下がってしまうケースがほとんどです。
モチベーションを維持し、良いパフォーマンスを発揮し続けようと思ったら、一時の感情に振り回されないよう自分をコントロールする必要があります。自然と沸き上がる感情を受け入れ、そのうえで自分をコントロールするにはどうすればいいのでしょうか。3つの方法をご紹介します。
“自分をコントロール=感情を押し殺す” ではない
“自分をコントロール” というと、感情自体を押し殺すことをイメージする人もいるはず。しかし、感情が沸き上がることそのものを否定してはいけません。オリンピックメダリストでメンタルトレーニング上級指導士の田中ウルヴェ京氏は、感情を調整することで自分をコントロールすべきと述べます。
コントロールとは「抑制」ではなく「調整」のこと。感情を抑えるのではなく、ほどよい程度に調整し、よい方向に向かわせることを目的とします。喜怒哀楽は人として自然な感情であり、大切なものです。それを無理に抑えてはストレスがたまるばかり。たまったストレスは倍になって、感情の爆発を引き起こすかもしれません。
(引用元:日立|第8回 最終回 メンタルスキルを最大化する感情コントロール術)
感情を押し殺すと、自分の感情に無関心になって、喜怒哀楽に鈍感になってしまう可能性があります。結果的に、それが無気力を招いたり、受け身で人の言いなりになってしまったり……など、悪循環にもつながりかねません。
“自分をコントロール=感情を押し殺す” ではないという図式は、大前提として忘れないようにしましょう。
【自分コントロール術1】心の状態を客観視できるようにする
先述の田中氏は、「自分をコントロールする第一歩は、今の自分の心の状態を客観視すること」だと述べます。感情を揺さぶられる出来事があったときは、喜怒哀楽の直接的な原因を見つけることが大切です。
たとえば、上司に叱られ落ち込んでいるとき。同僚から「契約が取れた」「業績が上がった」といった自慢話をされると、嫌な気分になりませんか? そして、適当に相槌を打ったり、つい嫌味を言ったりした結果、相手の気分を害して人間関係のトラブルにまで発展する……ということも起こり得ます。
自慢話に不快になったかのように思える上記のケースも、自分を客観視すると別の答えが出てきます。つまり、問題は自慢話そのものではなく、叱られたばかりという悪いタイミングにそのような話をされたことなのです。
そうは言っても、同僚は自分が上司に叱られたことは知らないのですから非はありません。だからこそ、嫌な気分になった原因を客観視し、的確に相手に伝える必要があります。つまり、「今は上司に叱られたばかりで落ち込んでるから、その話は後でゆっくり聞くね」と言えば、相手も不快にならないというわけです。
田中氏によると、心の状態は体にも現れるのだそう。何となく気分が悪い、落ち込むというときは、鏡で自分の顔を見てみるのも有効です。
イライラしていて集中できなかったり、体が緊張してこわばっていたり、眉間にしわが寄っていたり、そんな状態の場合は、感情も良くない状態にある場合が多いのです。そうした体の変化に気づくことで、「ああ、今、怒りで満ちているな」とか、「悲しみで自分を見失っているな」とか、自分の感情の状態を冷静にとらえることができます。
(引用元:同上)
【自分コントロール術2】イラっとしたら6秒間だけ間を置く
日本アンガーマネジメント協会の代表理事・安藤俊介氏によると、人は怒ったとき最初の6秒間にアドレナリンが強く出るのだそう。アドレナリンが出たと同時にカッとなって感情をあらわにしたら、火に油を注ぐように事態はどんどん悪化します。
このコントロールできない6秒という時間をやりすごせば、だいたいなんとかなります。
(引用元:リクナビNEXTジャーナル ||「怒り」をモチベーションにできるアンガーマネジメントを学ぼう)
だからこそ、イラッとしたときは最初の6秒間の過ごし方が大事です。安藤氏は、アドレナリンが出てカッとなりそうになったら次のことをすると良いと述べます。
- 心の中で「たいしたことない」「なんとかなる」など自分を落ち着かせる呪文を唱える
- 怒りの度合いを温度に例えて客観的に「今度の怒りは30℃くらい」と数値化する
- 深呼吸をする
怒りを数値化し続けると、以前の怒りに比べて今回は大したことないといった分析で気持ちを落ち着かせることもできます。どれが自分に合っているか試してみましょう。
【自分コントロール術3】良い行動で感情も良い状態にさせる
臨床心理士の岡村美奈氏は、スポーツにおけるメンタルトレーニングのひとつである “行動から感情へ働きかける方法” が自分をコントロールするうえで有効だと述べます。
たとえば、落ち込んでいるときほど笑顔を作る、自信がないときほど背筋を伸ばして堂々とするなど…。このように、行動によって感情をベストな状態まで引っ張ってくるのです。
テニスプレーヤーの大坂なおみ選手が、全米オープンテニス女子シングルス優勝を果たしたときも、この方法が実践されていたと岡村氏は分析します。
ラケットを振り上げ、投げそうになったが、ギリギリでその行動を止めた。感情に任せて怒りそうになるが、にこっと笑う。手を喉にあててこみ上げる感情を抑え、自分に何かを言い聞かせる。人は、自らの行動によって、自分が今どう感じているのかを強く自覚する傾向がある。そして、その自らの行動は、自覚した感情をさらに高めてしまうのだ。
(引用元:NEWSポストセブン|大坂なおみを勝利に導いた行動から感情に働きかける方法)
悪いイメージがある作り笑いも、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンを分泌させる効果があるとされています。つらいときにこそ、あえて笑顔を作るように心がけましょう。
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どんなに固い意志を持っていても、モチベーションを維持するのは容易ではありません。感情的になりやすい人や気分に波がある人はなおさら、モチベーションを維持するのに苦労するでしょう。
しかし、感情そのものを否定して押し殺す必要はありません。上手に自分の感情をコントロールして、モチベーションやパフォーマンスを高水準で保ち続けましょう。
(参考)
日立|第8回 最終回 メンタルスキルを最大化する感情コントロール術
リクナビNEXTジャーナル ||「怒り」をモチベーションにできるアンガーマネジメントを学ぼう
タウンワークマガジン|【2/28はバカヤローの日】イライラも6秒待てば収まる!? アンガーマネジメントのすすめ
NEWSポストセブン|大坂なおみを勝利に導いた行動から感情に働きかける方法
日本クリニック株式会社|「続・笑いの効用」|食養相談室 健康コラム
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。