「幸せなキャリアを築ける人」がもつ「巻き込む力」。伸ばすためのシンプルな心がけとは

力を合わせるビジネスパーソンたち

「ビジネスパーソンとして幸せなキャリアを築きたい」誰にも共通する思いではないでしょうか。

ではそのためにはどうすればいいでしょう。たくさんお金を稼ぐ? 自分ひとりの力でプロジェクトを成功させる? どちらも考えつきそうな答えですが、日本における「非認知能力」のパイオニアとして知られるボーク重子(ぼーく・しげこ)さんの答えは違います。ボークさんが大切だと語るのは、周囲を「巻き込む力」。本当の意味での幸せのつかみ方を教えてもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

日本人とアメリカ人それぞれの思考の決定的違い

「幸せ」の基準は人それぞれですが、ビジネスパーソンとして幸せをつかむには、周囲を「巻き込む力」が鍵となると私は考えています。ですが、日本においては、よく聞くひとことが、「巻き込む力」を伸ばしにくい環境にしてしまいがちだと感じます。

子どもをもつ日本人の親に「自分の子どもにどんな大人に育ってほしいですか?」と聞くと、回答のなかに多いのは「他人に迷惑をかけない大人になってほしい」というものです。「人に迷惑をかけちゃ駄目!」と、みなさんも一度は言われた、あるいは自分が口にしたことがあるでしょう。

一方、同じ質問をしても、私が子どもを育てたアメリカで目立つのは、「社会のために役に立つ大人になってほしい」という回答です。そして、「迷惑をかけない大人になってほしい」という回答は聞いたことがありません。だから、「迷惑をかけない大人」を英語でなんと言うのかもよくわからないくらいです。「役に立つ大人」の英語表現は4つも5つもあっという間に浮かぶのに。

それぞれのご家庭に違いがありますから、「日本では」「アメリカでは」とは一概には言えませんが、「迷惑をかけない大人になってほしい」というひとことを聞いて育った人が、日本には多いのではないでしょうか。

そして、この違いは、本当に大きいものです。行為自体は同じに見える場面でも、そこにある思考が違うからです。たとえばゴミの分別をする場面だと、「他人に迷惑をかけてはいけない」と育てられた場合、「分別しないとマンションの管理人さんに迷惑がかかっちゃうから、仕方ないけどやるか……」などと考えます。

一方、「社会のために役に立てる人間になってほしい」と育てられた人は、「自分がしっかりゴミを分別すれば、環境問題の解決につながって社会のためになるから、きちんとやろう」といったふうに考えます。

ゴミをきちんと分別しているという点では、両者に違いはありません。また、「他人に迷惑をかけない人間」も「社会のために役に立てる人間」も、それぞれ利他主義と言える点も共通しているように思えます。

でも、そこには決定的な違いがあります。「他人に迷惑をかけてはいけない」と考えることは、一歩間違うと「他人に迷惑をかけさえしなければ、なにをしてもいい」という発想にもなりかねず、結局は利己主義に走ってしまう可能性があるのです。

ちなみに私は当初、「文句を言われたら面倒だから」ゴミの分別をしていました。いま? はい、「SDGsのために自分ができることをしよう」と実践しています。

社会のために役立とうと考えることが大切だと語るボーク重子さん

人間が本能的に感じる「誰かの役に立っている」という喜び

「他人に迷惑をかけさえしなければ、なにをしてもいい」という自分勝手な人間に、はたして周囲が協力してくれるでしょうか? 答えは言うまでもありませんね。そして、この周囲の協力こそが、これからのビジネスパーソンには欠かせないものです。

なぜなら、これからのキャリア構築は、ひとりでは難しいものだから。ビジネスシーンにおける課題はどんどん複雑化しています。そんな課題をひとりで解決することはできません。さまざまな分野のスペシャリストを巻き込んで協力をとりつけ、チームとして解決しなければならないのです。

そして、先の「社会のために役に立つ人間」を目指す人のように、周囲からの協力を得るだけではなく、自分自身もチームのために役に立ててこそビジネスパーソンとしての幸せを感じられます

というのも、人間はひとりでは生きていけない生き物だからです。古代ギリシャの哲学者・アリストテレスは、「人間は本性によって共同体を形成して生きる政治社会的な動物である」という言葉を残していますが、これはまさに真理だと思います。

原始時代の人間のまわりには、ひとりでは太刀打ちできない猛獣もたくさんいたでしょう。農耕や牧畜だってひとりではできません。自らを守り食料を確保するには、他者と協力することが欠かせなかったのです。そうするなかで、いつしか人間のなかでは、「自分は誰かのために役に立っている!」と感じることが無上の喜びとなっていきました。

だからこそ、本当の意味での幸せをつかもうとすれば、他人を巻き込んで集団を形成し、そのなかで「自分が役に立っている」と感じることが欠かせないわけです。

幸せを得るには「自分が役に立っている」と感じることが欠かせないと語るボーク重子さん

巻き込もうとせずとも、まわりが自分から「巻き込まれにきてくれる」

このことは、私自身の経験からたどり着いた結論でもあります。私の前職は、アメリカでのアジア現代アートギャラリーの運営でした。でも、最初からうまくいったわけではありません。

ギャラリーを開きたいと考えた当初の私のなかにあった思いは、「社会的地位を築きたいし、お金を稼ぎたい」というものでした。まさに利己主義そのものです。そんな私に協力してくれる人は誰ひとりいませんでした。

そんなとき、娘が通っていた幼稚園で、先生が子どもたちにこんなことを言ったのです。「みんなはまわりに住んでいる人たちのためになにができると思う?」と。本当にハッとさせられました。そして、私自身にその問いを投げかけてみたのです。

アジアからアメリカに渡った当時の私は、心のどこかに「アジア人は周囲と対等に見られていない」「アジアのパワーをまだ知らないアメリカ人が多い」といった思いをもっていました。

そこで、先生の言葉によっていろんなアイデアを出す幼稚園生たちを見習って考え方を変え、「社会的地位を築きたいし、お金を稼ぎたい」ではなく、「アジアの現代アートをひとりでも多くのアメリカ人に紹介することで、アジアの美しさやエネルギーを知ってもらおう」と思うようになったのです。アメリカに住む人が正しい情報を得ることが、アジア人の地位を高めることにもなると思ったからです。

その思いを周囲に伝えると、「アジアのアーティストを知っているよ」「ギャラリー向けの安い物件があるよ」「お客さんを紹介するよ」というふうに、それまでが嘘のように周囲の人たちがどんどん協力してくれるようになりました。そうして、とてもひとりではできそうもなかったギャラリーのオープンにこぎつけられたのです。

「人に迷惑をかけなければいい」ではなく、「社会のために自分はなにができるのか」という、本来の意味での利他の意識をもっていれば、協力してくれる人がどこからともなく現れるでしょう。「巻き込む力を身につけよう」などと思わずとも、自然とまわりが「自分から巻き込まれにきてくれる」はずです。

そのために、「人に迷惑をかけない大人になる」から「社会の役に立つ大人になる」へのマインドセットのシフトは非常に効果的です。

カメラに向かってほほ笑むボーク重子さん

【ボーク重子さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「自分のキャリア、どうすれば?」とモヤモヤする人に何より必要な「○○性」の磨き方
「なぜかうまくいく人」と「何もうまくいかない人」。決定的違いは「夢の見方」にあった

【プロフィール】
ボーク重子(ぼーく・しげこ)
福島県出身。Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が6か月の予約待ちとなるなど、好評を博している。『しなさいと言わない子育て』(サンマーク出版)、『子育て後に「何もない私」にならない30のルール』(文藝春秋)、『「パッション」の見つけ方』(小学館)、『世界基準の子どもの教養』(ポプラ社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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