「嫌だけど嫌と言えない……」気持ちとは真逆の行動をしがちなあなたが、より快適に働くための大事なヒント

反動形成という心理メカニズムが働いている状況。嫌がっているのに積極的かつ好意的

そうしたいわけじゃなかったのに、なんだかそうなってしまった。望む方向とは真逆の方向に進んでいて、ひどくモヤモヤする――こんな感覚を経験したことはありますか?

たとえば「嫌な仕事ほどむしろ率先してやる」「嫌いな人ほど親切にする」、あるいは喉から手が出るほどそれが食べたいのに、自分はまったく興味がないフリをして、「残りの1個、誰か食べない?」などと心にもないことを言い、内心泣きながら人に譲ってしまう……、といった具合です。

心理学ではそれを「反動形成」というのだとか。時に必要で、時に困った防衛メカニズムだといいます。今回はその、困るけど必要な「反動形成」を探ってみました。

「反動形成」とは何か?

危険や困難、受け入れがたい状況にさらされ、自分を取り巻くまわりの世界と(自分の心と)の調整がうまくできないとき――私たちには心の不安を弱めるべく、無意識に働く心理的なメカニズムがあるそうです。それを防衛機制というのだとか(参考:後述の「看護roo!」・「ITmedia エンタープライズ」)。

2006年06月28日公開の「ITmedia エンタープライズ」記事内では、シニア産業カウンセラーの田中貴世氏がピースマインド株式会社のカウンセラーとして、その防衛機制をこんなふうに表現しています。

心の日焼け止め

(引用元:ITmedia エンタープライズ|第2回 「抵抗突破」で苦手な上司と仲良くなる

普通の日焼け止めは紫外線のダメージから肌を守りますが、防衛機制は外界ダメージから “心” を守るわけです。

この防衛機制にはいくつもの種類があり、そのなかのひとつに反動形成があります。組織人事コンサルタントの永井隆雄氏は、この反動形成について「自分が非常に憎んでいる人に対し、かえって親切な言葉や丁寧な態度をとることがあります」としたうえで、

抑圧するだけでは処理しがたい強力な嫌悪感や衝動を防衛するために、意識の上では正反対な傾向や態度を表すこと

(カギカッコ内含む引用元:株式会社アイ・イーシー|人事教育の穴|職場の中の「困った人たち」分析(4)

だと説明しています。

また、筑波記念病院 救急科・診療医長の小森大輝氏(資料の2018年当時は順天堂大学大学院医学研究科 総合診療科学大学院生)は、反動形成の例として、

相手に好意を抱いているのに、悟られないために素っ気ない態度をとる

(引用元:看護roo!|防衛機制

といった状況を挙げています。絶対に知られたくない本心がヒョッコリ顔を出さないよう、真逆の態度でフタをしてしまう、といったところでしょうか。

いずれにせよ、嫌いなのに親切な態度をとり、好きなのに素っ気なくしてしまうわけです。なんだか厄介なメカニズムですね。

ボーダーのTシャツを着た、不機嫌な表情の若い女性

「反動形成」のいいところ

しかし、臨床心理士の南舞氏は、あらゆる人間関係において、常に本心と行動が一致している人よりも、そうでない人のほうが多い(であろう)と述べ、

人間関係をスムーズにするために、無意識に反動形成を行うことが結果として、自分の立場や心を守ることにつながっています

(参考および引用元:ヨガジャーナルオンライン|「辛いけど人前では明るくしなきゃ…」気持ちと行動が一致しない【反動形成】との付き合い方

と説明しています。

たとえば、愛すべき善人から贈られたプレゼントが、まったく好みに合わなくても、それを悟られないよう「ありがとう!」と、むしろすごく嬉しそうにしてしまうことも反動形成と言えるわけです。

あるいは同僚だけが上司にほめられ、自分には厳しい言葉だけが向けられたとき、悔しい気持ちを(悟られないよう)奥に追いやり、同僚を称え、上司に指導の感謝を伝えさせるのも、反動形成と言えるはずです。

相手を傷つけず、それによって自分も嫌な気分にならず、なおかつ真摯で寛大な姿を与えてくれるならば、たしかに反動形成は私たちの人間関係・立場・心を守っていますよね。

良好な人間関係を築いているチーム。じつは反動形成が働いている。

「反動形成」の弊害とは何か?

とはいえ、自分の本音を内側に閉じ込め、まったく逆の行動をとるので、やはり悪い影響が出てくる懸念もあるそうです。前出の南氏によると、

気をつけなければいけないのは、常に気持ちと行動が反対で、そのことでストレスや心にかかる負荷が高まってしまうこと。その状態が長く続くと、精神疾患を引き起こす可能性や、そうまでは行かなくても、常に生きづらさを抱えながら日々を過ごすことになってしまうかもしれません。

(引用元:前出の「ヨガジャーナルオンライン」)

とのこと。

また一方で前出の田中氏は、防衛機制が働くことによってもたらされる状況を「仮の安定」とし、次のように警鐘を鳴らしています。 (防衛機制=無意識の防衛メカニズム / 反動形成は防衛機制に含まれる)

無意識の防衛メカニズムによってもたらされる仮の安定にいつまでもとどまっていると、自分が本当は何を望んでいるのかが分からなくなってしまいます。

(引用元:前出の「ITmedia エンタープライズ」)

つまり、たとえば――自分がその仕事を嫌がっていることを、無意識のうちに悟られないようにし続けていると、本当にやりたい仕事がわからなくなってしまう可能性があるわけです。これは由々しき事態ですよね。

ふと、「私、本当にこの仕事好きなのかな?」という言葉が頭に浮かんだビジネスパーソン

「反動形成」の弊害を打破するコツ

でも、きっと大丈夫。なぜならば、ちょっとした行為で1歩前進できるからです。

前出の田中氏は、先の「ITmedia エンタープライズ」記事内に防衛機制の種類と特徴の一覧を示して(そこに反動形成も含まれる)、読者がその内容に思い当たる節があったと仮定し、

自分の防衛パターンに気付いたいま、あなたは「無意識の意識化」ができたことになります。自分を振り返り、洞察し、受け入れることができて、「仮の安定」から「向上による安定」に一歩近づきましたよ。

と説明しています。

つまり、防衛機制を自分の経験に重ね合わせ、自分がそうやって守られてきたなどと解釈するだけで、よい方向へと変化が生まれるわけです。

また、田中氏によれば、

仮の安定から抜け出し、向上による安定を望むならば、キーワードは「抵抗突破」です。

とのこと。抵抗突破とは、

それまでにできなかったことを思い切って行い、心が動揺してもある程度の時間耐え続けると、次第に動揺が収まってきて、「このくらいはやれる」と自信

がつくことなのだとか。また、そうすると

行動を起こす前よりも、心が向上して安定した状態に

(参考および引用元:前出の「ITmedia エンタープライズ」)

なるのだそうです。

これまでの内容や、田中氏が挙げた実例などを参考に、反動形成に関わる抵抗突破がどんなふうになるか、ひとつシュミレーションしてみましょう。

苦手な上司が「いま急ぎの仕事がない人は、〇〇を手伝ってほしい」と言うと、それが最もやりたくない仕事でも、じつは急ぎの仕事があっても、「はい、私やります!」といつでも率先し、引き受けてきた。
ストレスを抱えながら、パソコンや書類を前に仕事をするビジネスパーソン
やがて、そうした日々に大きなストレスを感じ始めた頃、その不可解な行為が、無意識に働いていた反動形成の作用だと知った。自分の本心(苦手・やりたくない)を悟られないように、防衛メカニズムが働いていたのだ。

そこで、あるとき同じような状況になったとき、「はい、私やります!」と手を挙げそうになるのグッと堪えてみた。上司の目が自分を責めているような気がしてとても苦しかったが、「忙しいのだから、申し出ない理由はちゃんとあるんだ」と自分に言い聞かせて、なんとか頑張ってみた。

そうした試みを続けていたら、だんだん自信がついてきて、名指しで「〇〇さんは手伝えないの?」と言われたときにも、思わず「すみません、今日は急ぎの仕事があるので」と言葉にすることができた。

もっとすごいのは、「今日は急ぎがないので私やります」と、自分の意志で対応できるようになったことだ。その結果、苦手だと思っていた上司からの信頼を得ることができ、ストレスも緩和した。その上司に対する苦手意識まで消えた気がする……。

上司とのコミュニケーションが良好なビジネスパーソン

もちろん、こうトントン拍子にいくのは難しいですが、よい方向へと進むイメージが具体的になれば、実現する可能性は高まるのではないでしょうか。

「反動形成」と上手に付き合うために

なお、前項のシュミレーションでは、忙しいなか、最もやりたくない仕事をなぜか率先して引き受けてしまうビジネスパーソンが、それは “自分の苦手・やりたくないといった本心を、悟られないための行動だった” と気づきました。

前出の南氏によれば、

いい面も悪い面もある反動形成と上手に付き合っていくためのポイントは、【自分の気持ちに気づくこと】

なのだそうです。そのために “できること” として同氏は、

  • 紙に書いて整理すること
  • 声に出してみること
  • 【今ここにある】の自分の気持ちを観察すること(ヨガ・マインドフルネス)
  • 専門機関などで話してみる

(カギカッコ内含む引用元:前出の「ヨガジャーナルオンライン」)

といった行動を挙げています。感情のアウトプットおよび観察が大事なのですね。

また、思うに、反動形成を自分ではなく相手に当てはめ考えてみると、仕事のコミュニケーションの助けになるかもしれません。なぜならば、仕事で関わる人の本心が、まったく逆の言動になって出現している可能性もあるからです。それで人の心がわかるわけではありませんが、自分の客観性――つまり、人の言動を冷静に見る力は与えてくれるはずです。

***
困るけど必要な「反動形成」を探ってみました。少しでも何かのヒントになれば幸いです。なお、自分でストレスの対処が難しい場合は、すぐ専門家に相談してみてくださいね。

(参考)
ヨガジャーナルオンライン|「辛いけど人前では明るくしなきゃ…」気持ちと行動が一致しない【反動形成】との付き合い方
ITmedia エンタープライズ|第2回 「抵抗突破」で苦手な上司と仲良くなる
株式会社アイ・イーシー|人事教育の穴|職場の中の「困った人たち」分析(4)
看護roo!|防衛機制

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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