自分や相手の感情を認識して、自分の思考と行動を方向づける能力をEQ(心の知能指数・Emotional Intelligence Quotient)と呼びます。EQは他者と良好な関係を築くのに欠かせません。仕事で成功したいなら、EQは IQ(知能指数)よりも重要なのだとか。
しかしEQは睡眠不足によって失われてしまう可能性があります。どうすれば睡眠不足に陥ることなくEQを保てるのでしょうか?
寝不足だと、相手が悲しんでも気づかない?
米アリゾナ大学とウォルター・リード陸軍研究所は、健康な成人男性29人と女性25人を対象に、「幸福」「驚き」「恐怖」「悲しみ」「嫌悪」「怒り」といった基本的な感情を判別する能力が睡眠不足によってどのような影響を受けるか評価しました(※1)。参加者らは次の3つの条件下で120の表情を見分けたそうです。
A:通常の睡眠をとったあと
B:睡眠不足になったあと
C:睡眠不足を回復するための睡眠をとったあと
すると、睡眠不足の状況下では、「幸福」と「悲しみ」の表情を識別しにくくなっていたのだとか。一方で「驚き」「恐怖」「嫌悪」「怒り」には影響がなかったそうです。
つまり、睡眠不足は、生きるか死ぬかにつながる原始的な表情(驚き・恐怖・嫌悪・怒り)の認識には影響しないけれど、他者を助ける際に見分けなければならない表情(いま幸せか? 悲しんでいるか?)の認識には悪影響を及ぼすわけです。対人関係においては大きな問題だといえるでしょう。
ちなみに、回復のための睡眠をとって寝不足を解消したあとは、見分ける精度が通常に戻ったとのことです。
(※1:William D.S.Killgore, Thomas J. Balkin, Angela M.Yarnell, Vincent F.CapaldiII(2017),「Neurobiology of Sleep and Circadian Rhythms」, Vol.3, pp.10-16.)
睡眠不足はEQ(心の知能指数)を低下させる
コンサルティング会社タレント・スマートの共同創業者2人によれば、集中力、時間管理、意思決定やコミュニケーション力など、ほとんどの重要なスキルはEQ(心の知能指数)に含まれるのだそう。でも、睡眠不足だとストレスを感じやすくなり、すぐイライラして、笑顔が少なくなってしまうのだとか。これではどんどんEQを低下させてしまいます。
とはいえ、テレビ、インターネット、コンビニ、飲食店、メールやチャットなどから絶えず刺激を受け、とても忙しい現代人。ついつい寝不足になってしまうのも仕方がありません。
そこで、作業療法士・菅原洋平氏による正しい睡眠管理が役立ちます。寝不足を解消するだけでなく、仕事の効率がアップするそうですよ。
作業療法士が教える「正しい睡眠マネジメント」とは?
菅原洋平氏によると、睡眠は3つの生体リズムで成り立っているそう。3つの生体リズムとは、睡眠物質の分泌・脳の眠気・深部体温。この3つの生体リズムに合わせて睡眠を管理するのが重要なのだとか。菅原氏は3つの生体リズムに合わせた睡眠の法則を“4―6―11の法則”と表現しています。
●【起床から4時間以内に日光を】
寝ている間に蓄積した、睡眠をうながす脳内物質は、光を浴びることで減らせるそうです。つまり、日光に当たれば自然に覚醒できるということ。菅原氏は、目覚めたらすぐに窓から1m以内に入るよう勧めています。光を浴びる時間は長ければ長いほどいいそうです。
●【起床から約6時間後は仮眠を】
たとえば朝6時に起きたのなら、6時間後というと12時ですね。昼食のあとは、10〜15分間ほど仮眠しましょう。
「さあ寝るぞ!」と意気込まなくても、自分のデスクで椅子に座ったまま、静かに目を閉じるだけでも脳は休憩できます。ただし、夜の睡眠と同じ脳波が出てしまうと逆効果なので、30分以上の長すぎる仮眠はNGです。
●【起床から約11時間後は背筋をビシッと】
起床から11時間後は、深部体温が下がり一番眠くなる時間帯なのだとか。朝6時に起床したなら、夕方17時あたりです。多くの場合、終業直前でラストスパートをかけている時間なのに、脳と体は早々に休息へと向かってしまっているのです。
そこで菅原氏は、「椅子に座ったまま5分間、背筋をビシッと伸ばし、肩甲骨を下げて肛門をしっかり締める」ようアドバイスしています。背筋をビシッと伸ばせば、ビシッと集中できるはず。
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正しく睡眠を管理して、ぐっすりと寝てくださいね。もれなく心の知能指数も上昇します!
(参考)
NTTラーニングシステムズ西日本営業部|相手と自分の心を正しく読む力「EQ」は、ビジネスにどう影響するのか
プレジデントオンライン|"心の知能指数"を訓練で伸ばす4つの方法
脳リハ.com|睡眠と感情処理の脳科学
ScienceDirect|Sleep deprivation impairs recognition of specific emotions
マイレピ|3時間睡眠でもパフォーマンスを発揮!忙しい男のための睡眠法とは?
日本睡眠学会|8.2種類の異なる睡眠調節機構―神経機構と液性機構
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版|睡眠不足が人間関係を壊しかねない理由
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