ビジネス、芸術、スポーツなど各界で活躍する超エリートの中には読書家が多い、というのはよく知られていることですよね。読書によって自分の視野が広がると言いますが、読書家のエリートたちは、さまざまな分野の本を読むことで、簡単には結びつかない点と点をつなげ、大きなビジネスチャンスをつかんできたのではないでしょうか。
StudyHackerではこれまで、『人生 “最良の1冊” を。ビル・ゲイツがすすめる7冊の本』や『「超エリート」はどんな本を読んでいるのか? 愛読書を知れば思考がわかる。』などの記事で、成功者たちの愛読書をご紹介してきました。今回、読書家のエリートとして取り上げるのは、宇宙開発の分野でその名をとどろかせるスペースXの創立者イーロン・マスク氏です。
マスク氏の弟のキンバル氏が言うには、マスク氏は9歳の頃から1日10時間、週末には2冊の本を読破していたという昔からの読書家。また、以前彼がインタビューで語ったところによれば、実業家として多忙な日々を送る今でも、移動時間にはiPhoneで本を読んでいるのだそうです。
そんな読書家のマスク氏が、必読書として私たちにすすめる本を4冊紹介していきましょう。
1.『指輪物語』
イギリスの作家J.R.R.トールキンによる『指輪物語』は、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作としてもよく知られるファンタジー小説。現代ファンタジーの基盤となった作品だと言われています。
マスク氏は南アフリカで生まれ、17歳でカナダに移住するまでの期間を南アフリカで過ごしていました。マスク氏はあるインタビューの中で、南アフリカにいたときに読んだ『指輪物語』が彼自身の将来像を形作ったと述べています。「本の中の英雄たちのように自分も世界を救わなければいけないと感じた」と言い、彼が起業したスペースXもテスラも、『指輪物語』の主人公たちのように、彼自身が地球の未来を救うためにつくった企業なのだそうです。
いくらマスク氏がすすめるからとはいえ、大人になって今さらファンタジー小説を読むのは気がひけると考える読者の方もいるかもしれません。ですが、先ほども書いたように、『指輪物語』は現代ファンタジーの「源流」、言い換えれば「古典」です。
アメリカ最大の書店チェーンであるBarns & Nobleによれば、古典を読むことはすなわち、今の時代に読まれ書かれている本のコアとなる部分に直接触れること。古典的作品としての『指輪物語』を読むことは、想像世界の中で繰り広げられる物語を楽しむ以上の価値があると言えるでしょう。
今読まれている様々なファンタジー作品と、その基盤である『指輪物語』との間に共通点が見つかれば、令和の時代に流行する物事も、一見突飛なようでいて実はどこかに源流があるものなのだ、ということに気づくことができるのではないでしょうか。
2.『フランクリン自伝』
『フランクリン自伝』は、アメリカという国が始まった頃に生きていた実業家のベンジャミン・フランクリンの半生が綴られたもの。フランクリンが自分自身で良い習慣を作り出すまでにどのような過程を経たか、そしてその習慣はどのようなものなのかを説明している本です。
マスク氏が語ったところによると、アメリカ創立の父であり、全てを0から始めた素晴らしい投資家でもあるベンジャミン・フランクリンは、彼にとってヒーローだったそうです。
また、科学者としてのフランクリンが凧を使う実験で稲妻が電気であることを証明し、避雷針を誕生させたことは著名な逸話です。さらに、実業家としての印刷業での成功に始まり、図書館や大学の設立、アメリカ独立への貢献など、ステップアップしながら次々と成功をおさめていきました。こうしたフランクリンの半生に、マスク氏は大いに刺激を受けたのでしょう。
私たちビジネスパーソンがこの本から学べることとして、フランクリンが実践していた「13徳」を紹介しましょう。13徳とは、フランクリンが信念としていた13の項目のこと。フランクリンは「1.節制 2.沈黙 3.規律 4.決断 5.節約 6.勤勉 7.誠実 8.正義 9.中庸 10.清潔 11.平静 12.純潔 13.謙譲」の徳を1週間に1つずつ実践し、1年間で4周していたそうです。
この中で特に私たちが大事にすべきなのは、「勤勉」と「決断」の2つではないでしょうか。「勤勉」とは、どれだけお金持ちになったとしても1日24時間なのは変わらない事実なので、無意味な時間を作らず、自分が成長できることを続ける時間を確保することが重要だという意味。
そして「決断」は、なすべきことをきちんと決心し、決心したことは必ず実行すべきだという意味です。実際、マスク氏には、一度宇宙開発が人類の未来のために重要だと考えたらそれを絶対に成し遂げる行動力があります。決めたことをやり抜くマスク氏の姿勢は、ビジネスパーソンとして大いにまねしたいものですね。
3.『構造の世界―なぜ物体は崩れ落ちないでいられるか』
この本は、イギリス人の材料工学家ジェイムス・エドワードゴードン氏が1978年に著した、デザインの理由を歴史と身近な具体例をもとに簡単に解説する本です。
内容は学生や一般の人にもわかりやすく解説されています。この本を読めば、たとえば「なぜねじれが起きるとアーチ構造が簡単に壊れるか」といったことを理解できるようになるでしょう。
もともとコンピューターサイエンスを学んでいたマスク氏は、ロケット工学の基礎を学ぶ際にこの本を手に取りました。読書家で天才として扱われる彼でもいきなり専門書から始めるのは難しかったようで、マスク氏はこの本について「デザイン工学の入門書としてすばらしい本だ」と述べています。デザイン工学を学びたい人は、ぜひ読んでみるとよいのではないでしょうか。
また、私たちは、歴史的な事例をもとにデザイン工学を解説しているこの本を通して、今存在する複雑な科学も、歴史と理由をもとにできあがっているということを学ぶことができます。マスク氏は、伝記をはじめとする歴史を読むのが好きなのだそうで、最先端のビジネスを行なううえでも、歴史からインスピレーションを受けることは重要なのだということがわかりますね。新しいインスピレーションの助けとして、この本を手に取ってみてはいかがでしょうか。
4.『Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence』
この本は、2017年にスウェーデン出身のMIT教授マックス・テグマーク氏によって出版されたものです。人類を超える知性をもつAIが生まれたとき、いかにしてコントロールすべきか、ということを解説している本です。
実はマスク氏は、しばしばAIに対する不安を述べています。そのため「AI=悪」と考える本を支持することが多いのですが、この本は「AI=良いもの」として考える本として、彼が推奨する数少ない本のひとつです。
一般的に、人は人知を超えたAIをコントロールすることができず、一般労働者の仕事を奪う存在として認識されています。ですがこの本では、実態を持たないAIは全ての人間に対する脅威ではあるものの、動物園の虎のようにはじめから上手に管理すれば、人間の問題解決を大いに手助けしてくれる存在となり得る、と述べられています。そのためには、どのようにAIを制御し、どのように問題解決に取り組めばいいのか。それがこの本の大事な話であり、普段AIに対して恐怖を語るマスク氏が支持する所以です。
この本の内容は、目の前の課題を乗り越えることに集中しがちな私たちの目線を、より遠い未来へと向けさせてくれます。日頃、目下のタスクの消化に追い込まれているビジネスパーソンにとって、10年先、20年先の未来予想を立てるきっかけになると思います。
2019年6月時点でまだ和訳本は出版されていませんが、洋書に挑戦できる方でしたら、ぜひ読んでみてください。マスク氏が想定する未来の可能性に触れることができるでしょう。
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ファンタジーと歴史の源流、新しいインスピレーションを与えてくれる本、AI論を通してこれからのことを考える本。今回ご紹介したマスク氏の愛読書のジャンルは、実に幅広いものです。彼のような成功者になるには、過去を知り次の時代を予想することが重要なのかもしれません。その真髄を、これらの本から学ぶことができるのではないでしょうか。
(参考)
BUSINESS INSIDER|12 books Elon Musk thinks everyone should read
Wikipedia|ベンジャミン・フランクリン
TED|マックス・テグマーク AIに圧倒されるのではなく、AIから力を得る方法
アシュリー・バンス著, 斎藤栄一郎訳(2015),『イーロン・マスク 未来を創る男』,講談社.
CNN|Why Elon Musk reads on his iPhone
Barns & Noble|Why Read the Crassics?
Max Tegmark (2017), Life 3.0: Being Human in the Age of Artificial Intelligence, the United States, Knopf.
【ライタープロフィール】
渡部泰弘
大阪桐蔭高校出身。テンプル大学で経済学を専攻。外出時は常にPodcastとradikoを愛用するヘビーリスナー。