「本の内容を理解するのが大変」「時間が経つと何が書いてあったか忘れてしまう」こうした悩みは、効果的な読書術を実践すれば解決できるはず……と思いますよね。でも、自分に合った読書術はそう簡単に見つからないもの。
そんなみなさんのお役に立つべく、今回は、STUDY HACKERが紹介してきたなかでも特に反響が大きかった「SQ4R読書術」と「KWL表を使った読書術」に、筆者が実際に挑戦しました。両者の効果的な活用方法や使い分け方を掘り下げてみましたので、ぜひ参考にしてください。
「SQ4R読書術」とは
「SQ4R読書術」とは、下記の6ステップで能動的に本を読み、内容を記憶に定着させる読書術です。
- Survey(調査する)
目次、サブタイトル、章末の要約などを読む。
→本の構成や特徴、重要箇所を把握。 - Question(質問する)
知りたいことや疑問点を質問文にする。目次の言葉をそのまま質問文にしてもOK。
→読書中の目的意識、注意力、集中力をアップ。 - Read(読む)
質問の答えを探しながら本を読む。 - Respond(回答する)
本を閉じて、先の質問に自分の言葉で答える。
→答えられなければ、該当箇所を再読。
→答えられるようになるまで繰り返す。何度か試しても答えられなければ、質問の内容を変えてもOK。 - Record(記録する)
本にマーカーを引く、メモをとるなど、自由な方法で回答を記録する。広範囲に渡らないように注意。 - Review(見直す)
記録した箇所を中心に定期的に復習する。
SQ4R読書術の効果は、実験で確かめられています。トルコのエスキシェヒルオスマンガジ大学が、小学校4年生を対象にSQ4R読書術を実施したところ、実施しない場合に比べ読解力の向上が見られたそうです(2017年に発表)。この実験の対象は小学生でしたが、大人でも十分に効果が見込めると考えてよいはず。実際、カナダのウォータールー大学では、学生が教科書を読むときのマニュアルとしてSQ4Rが示されています。
「KWL表」を使った読書術とは
「KWL表」とは、教科書やテキストを効果的に読むために書く表のこと。アメリカの教育学者Donna Ogle氏が提唱しました。
- K=Know(What I know):この本について知っていること
- W=Want(What I want to learn):この本から知りたいこと
- L=Learn(What I learned):この本から学んだこと
これら3つを紙に書き出しながら、以下の手順で読書を進めます。
- ノート1ページか紙1枚に、左から「K・W・L」の順で3つの枠をつくる
- 読書前に「K」列を埋める
→本への好奇心を高めるため。未知の内容を学ぶ場合でも、既にある知識を手がかりに読み進められる状況をつくっておく。 - 読書前に「W」列を埋める
→読書の目的意識を高めるため。何を知りたいのかはっきりさせると、それに関連した情報が目に入りすくなる(これを「カラーバス効果」という) - 本を読む
- 読書後に「L」列を埋める
→どれほどの知識を得たのか可視化するため。
特にポイントとなるのがK列。精神科医の和田秀樹氏は、古い情報を新しい情報に結びつけると、理解力が確実に高まると言います。大人がよりよく記憶するには、古い知識を活かす意識が大切なのだそう。新たな学びにも、古い知識が意外と重要なのですね。
「SQ4R」と「KWL表」で勉強のための読書を実践してみた
「SQ4R読書術」と「KWL表を使った読書術」両方の効果を深く検証するため、筆者が実際に勉強のためにこれらの読書を実践してみました。用意したのは、以下2種類の本です。
- 慣れ親しんだ分野の本
『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』成毛眞著(以下「書き方本」と呼びます) - 新しく学ぶ分野の本
『となりのイスラム』内藤正典著(以下「イスラム本」と呼びます)
「SQ4R読書術」をやってみた
まずは「SQ4R読書術」です。
- Survey(調査)
目次とサブタイトルから、この本の肝と思われる部分をまとめました。
- Question(質問)
知りたいことを10の質問にしてみました。1で作成したメモに、自分なりの切り口が考えつくものは自分の言葉で。そうでないものは、メモをそのまま質問文に。
- Read(読む)
質問表をそばに置いて、答えが書いてありそうな箇所を狙って拾い読み。次のステップに備えて、該当ページに付箋を貼りました。 - Respond(回答)
質問を見る→答えを思い浮かべる→答えられなかったら再読。本の記述の暗記ではなく、自分の言葉で淀みなく答えられるまで繰り返し、再読した回数を質問の横に正の字で記録しました。
- Record(記録)
質問に答えるのに苦戦した内容を中心に、記録を作成。情報カード(125mm×75mm)を使用し、「表面に質問、裏面に答え」と単語帳の要領で書き込み、該当ページに挟んで保管しました。
- Review(復習)
「情報カードの表面の質問を見て、答えを思い出す」という方法で復習。最初の復習は翌日中に行ない、その後は1週間に1回のペースで続けました。
「KWL表」をつくってみた
次は「KWL表」を使った読書術について。
- 読書前:K列を埋める ※「K」と「W」はSQ4Rに取り組む前に記入
知っていることを思いつく限り書き出しました。 - 読書前:W列を埋める
本を手に取った時点で知りたいと思っていたことのみを書き込みました。KとWを埋めた時点で、まだいっさい本は開いていません。 - 本を読む ※SQ4Rのステップ3(Read)と同時に実施
W列の書き込みの答えがありそうな箇所を目次から探しながら、拾い読みしました。 - 読書後:L列を埋める
読み終えたあとで、学んだことを書き込みました。
完成したそれぞれのKWL表がこちらです!
「SQ4R読書術」と「KWL表」上手な使い分け方をご提案!
実践してみて、どちらの方法でも読書効率は確実にアップすると実感しました。そのうえで、これらふたつの読書術の使い分け方を筆者なりに提案したいと思います。
すでに知識がある分野の掘り下げには「SQ4R読書術」
「SQ4R読書術」は、自分がある程度精通している分野の学習に取り入れることをおすすめします。理由は次の2点。
1点めは、「Survey」で本の構成を把握し、「Question」で質問をつくるのが、高度な作業だと感じたからです。筆者の場合、知識のある「書き方本」では「Survey」も「Question」も短時間で行なえたのに対し、まったく知識のない「イスラム本」ではその3~4倍もの時間がかかってしまいました。
2点めは、そこそこ知っているがゆえに陥りがちな「わかったつもり」の防止になると感じたから。「自分の言葉で」質問に答えることを重視する「Respond」のプロセスにおいて、本を読んで「わかった」と思ったのにじつはちゃんと理解できていなかった……と多々気づきました。この気づきのおかげで、再読が有意義なものになったのです。
ちなみに、筆者が今回記録と復習に利用した「情報カード」は、知識レベルを問わずおすすめです。特に復習効率は抜群。実際、心理学で「テスト効果」と呼ばれる効果によれば、勉強内容を “意識的に” 思い出すことは、ただ読み直すのに比べ記憶定着効果が高いことがわかっているそうです。
新しい分野の勉強には「KWL表」
「KWL表」を使った読書術は、新しい分野の勉強にチャレンジするときにぜひ実践してみてください。筆者が特に恩恵の大きさを感じたのは、「知っていること」を書き込むK列です。
まったく知識のない「イスラム本」を読むにあたり、K列には書けることがほとんどなく、やむなく「誤っていそうな知識や認識」「聞いたことがある程度のこと」を書くことに。すると、「誤っていることは正したい」「もっと知っておきたい」という好奇心が生まれ、注意力アップと理解促進につながったのです。
一方、すでに知識のある「書き方本」では、K列に書く内容を選別するのが意外と大変で、「イスラム本」の3倍も時間がかかってしまいました。また、あえてモチベーションを刺激しなくても、読み慣れた分野の本は苦労せずに読める――そんなことも確認できました。
そして何より、「成長がひとめでわかる」というメリットはとても大きいと実感。定期的に同じ本のKWL表を更新していけば、成長具合がわかり、勉強を続けるモチベーションになるとともに、本の内容をあますところなく自分のものにできるはずです。
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「SQ4R読書術」「KWL表」ともに、紙とペンさえあれば即実行できるのも大きな強み。ぜひ目的に合わせて取り入れてみてくださいね!
(参考)
University of Waterloo|Building Your Reading Skills: A Guide for Students
University of Guelph|Reading Textbooks with SQ4R
ResearchGate|Effect of the SQ4R Technique on the Reading Comprehension of Elementary School 4th Grade Elementary School Students
READING QUEST|Strategies for Reading Comprehension K-W-L
本田直之(2006),『レバレッジ・リーディング』, 東洋経済新報社.
株式会社日立ソリューションズ|忙しいビジネスマンへ!絶対に挫折しない!和田式オトナの勉強術 Chapter 7 効果や知識の定着 忘れない脳をつくる和田式「暗記術」
成毛眞(2021),『バズる書き方 書く力が、人もお金も引き寄せる』, SBクリエイティブ.
内藤正典(2016),『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』, ミシマ社.
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【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。