「勉強がはかどらない」「思うように成果が出ない」とお悩みなら、それは知らぬ間に “思考停止” 状態に陥り、勉強のやり方が惰性的になっているせいかもしれません。
今回の記事では、勉強の効率低下につながる4パターンの思考停止行動をご紹介。以下4つのいずれかに当てはまった方は、勉強のやり方を見直すことをご検討ください。
【1】勉強量を「時間」で測っている
「今日は○○時間勉強しよう」
「今週は××時間も勉強できたぞ」
こんなふうに、勉強の目標や実績を「時間」だけで管理しているなら要注意。「勉強を頑張る=たくさんの時間をかける」という思い込みによって思考停止し、自分の勉強量を正しく把握できなくなっている恐れがあります。
700以上の資格をもち “資格・勉強法アドバイザー” として活躍する鈴木秀明氏は、勉強においては「何時間やったか」よりも「何をやり、どれだけレベルアップできたか」という結果を重視すべきだと解説しています。
というのも、長時間の勉強が常態化すると、「頑張っているつもりなのに、なぜか結果がついて来ない」という、努力が空回りした状態に陥ってしまう可能性があるためです。
仮に10時間勉強したとしても、ダラダラとやっていたために、実質的にはたいして進んでいないケースも考えられますよね。にもかかわらず「10時間」という時間を見ると、「今日はよく頑張ったなぁ」という自己満足を得て終わってしまいかねません。それだけ、「時間」という尺度は、勉強量を測る尺度として不確かなものなのです。
そこで、勉強量を適切に管理するために、鈴木氏の言うように「何をやり、どれだけレベルアップできたか」がわかるような記録をつけてはいかがでしょうか。
- 問題集の設問をいくつマスターできたか?
- テキストを何ページ進められたか?
- 用語をいくつ記憶できたか?
といった、勉強内容や成果を尺度にするのです。「長時間やってこそ勉強だ!」という思考停止状態からは、なんとしても脱しましょう。
【2】他人の勉強法をうのみにしている
「○○をすると記憶効率が上がる」
「最速で資格をとるには○○するとよい」
このような勉強法は、世のなかに数多くあふれていますよね。有識者がすすめる勉強法をヒントとして活用するのは、勉強を効率化するうえで大切なことです。
しかしながら、他人の勉強法をそのままうのみにし、愚直にまねようとするのはおすすめできません。人にはそれぞれ個性があり、ものの感じ方や考え方が異なります。誰かに適している勉強法が、ほかの人にも同じく有効とは限らないのです。
たとえば、脳内科医の加藤俊徳氏によると、記憶のタイプは「言語系記憶」「視覚系記憶」「運動系記憶」の3種類に大別でき、どのような記憶の仕方をするとよく覚えられるかは人それぞれとのこと。
一例として、「運動しながら覚えると記憶に残りやすい」という勉強法は、運動系記憶型の人の見解と考えられます。このタイプでない人が同じ勉強法を実践しても、あまり効果が出ないかもしれません。ちなみに、言語系記憶型の人は言葉から記憶するタイプで、視覚系記憶型の人は見たまま覚えるタイプです。
また、株式会社カルペ・ディエム代表で東大生の勉強法に詳しい西岡壱誠氏は、納得感が薄く、やりがいを感じにくくなるので、他人の勉強法をただまねたとしても効果はないと指摘しています。実際、とある東大生は「他人に言われたとおりにだけ勉強するのは、思考停止だ」と言ったそう。
ですから、人に教わった勉強法がしっくりこないと感じるなら、自分に合ったやり方にアレンジする、または別の勉強法を試してみることを検討しましょう。
では、自分に合った勉強法を見つけるにはどうすればいいのでしょうか? 西岡氏は、日々の勉強の「振り返り」を行なうのが近道であると述べています。
- 今日は何を目標に、どんなやり方で勉強したのか?
- その結果どうだったのか?
- (うまくいかなかった場合)なぜうまくいかなかったのか?
これらを毎日振り返れば、どんな勉強法が自分に合っているか・合っていないかがおのずと見えてくるのだそう。こうした自己分析を経たうえで「このやり方が自分に合っていそうだ」と納得できたら、それに合致したよりよい勉強法を探してまねしていく――こんなやり方がいいそうです。
誰かに言われた「おすすめ勉強法」をやみくもにまね続ける。そんな思考停止状態には陥らないよう気をつけましょう。
【3】「勉強=苦行」と思い込んでいる
仕事のスキルアップのため、あるいは転職(就職)のために、興味がないことを勉強しなければならないケースも多々あるもの。しかし「勉強は苦行である」と決めつけて嫌々取り組むのは、一種の思考停止状態と言えます。そこには「どうすれば勉強をおもしろくできるだろうか?」という考えがないからです。
「おもしろきこともなき世をおもしろく」とは、幕末の志士・高杉晋作の辞世の句として有名。勉強でも「つまらない」と嘆くばかりではなく、やりがいを見いだしたり、やり方に工夫を加えたりと、能動的に楽しめる方法を検討してみましょう。
勉強を楽しくするには、神経伝達物質の一種である「ドーパミン」の働きを利用することをおすすめします。別名 “脳内麻薬” とも呼ばれ、意欲や快感をつかさどるドーパミンをコントロールすれば、勉強をゲームのように楽しむことも可能。専門家がすすめる以下3つのアプローチを試してみてください。
「驚き」を探す
産業技術総合研究所主任研究員で心理・認知科学研究者の片平健太郎氏によれば、ドーパミンは予測からのズレ、つまり「驚き」を経験したときに分泌されることがわかっているとのこと。
勉強をするなかで、思ってもみなかった驚くべき事実を知り、「へぇ!」と感動した――そんな驚きこそが「学ぶ喜び」の本質。嫌々ながらに暗記するのではなく「その知識にどんな驚きが含まれているか」「その情報がどうすごいのか」に注目しながら勉強してみましょう。
達成感や喜びを味わう
ドーパミンは、何かを達成して喜びを感じたときにも分泌されると脳神経外科医の菅原道仁氏は伝えています。
たとえば、自分で設定した勉強ノルマをクリアする、復習テストに正解するなど、達成感を味わうチャンスをつくってはいかがでしょうか。
未来の報酬を期待する、用意する
さらに、菅原氏によれば、ドーパミンは未来のワクワクを想像するだけでも分泌されるとのこと。
昇進や昇給など勉強をやり遂げた先で得られるいいことを想像したり、勉強後の自分へのごほうびを用意しておいたりするのも、勉強のやりがいを高める方法のひとつです。
「つまらない……」と思考を停止させたまま勉強を進められない状態は、ぜひ「楽しむ工夫」によって解消しましょう。“好きこそものの上手なれ” の言葉通り、勉強の能率まで上げられるかもしれません。
【4】インプットで満足している
勉強というと、多くの方は「テキストや本を読む」「講義を聴く」といった “インプット” の作業をイメージされるでしょう。しかし、「よし、本を読んだぞ」「講義をちゃんと受けた」などと、インプットだけで満足しているなら要注意。
というのも、知識を長期記憶として定着させるには、学んだことを書く・話すなどのかたちで、より多く “アウトプット” することのほうが重要だから。精神科医の樺沢紫苑氏によると、脳には「使う記憶」だけをとどめ「使わない記憶」は忘れるという特徴があるそう。
たとえば復習の際には、次のようなアウトプット型の勉強法を用いましょう。
- 問題集や自作の小テストを解く
- 赤シートで答えを隠し、記憶を思い出す
- 何も見ずに、白紙に知識を再現する
- 知識を人に話す、またはそのつもりで独り言を言う
- 知識をSNSで発信する
なお樺沢氏によると、インプット:アウトプットの比率は「3:7」程度が理想的とのこと。単純に言うと、1時間勉強する場合、20分をインプットに、40分をアウトプットに充てるようなイメージです。
勉強はインプットこそが大事と一辺倒に考えていた人は、この「3:7」の原則をふまえて、覚えたことを積極的にアウトプットする習慣をつけましょう。
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以上、4つの思考停止パターンに当てはまってしまった方は、本記事でご提案した対策をぜひ試してみてください。
(参考)
鈴木秀明 (2012), 『ラクして受かる勉強法』,すばる舎.
プレジデントオンライン|記憶力がアップする! 「脳の強化」7つのメニュー
Sleep Styles|睡眠学研究レポート 記憶力アップの方法|自分の記憶タイプを知り「脳力」を上げる
東洋経済オンライン|「地方の怪物」東大生の勉強法が本質的すぎた
コトバンク|辞世の句
日本脳科学関連学会連合|第4回目 学習には「びっくり!」が必要?
新R25|ドーパミンで脳をダマせば続けられる。医師に聞く「三日坊主の解消法」
幻冬舎plus|快楽物質「ドーパミン」をコントロールして人生を変える
STUDY HACKER|記憶効率を上げる黄金比は「3:7」だ。勉強に脳科学を取り入れるべし。
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。