人生100年時代を見据え、文部科学省は社会人の学び直し(リカレント教育)など、生涯学習の推進に取り組んでいます。
しかし、マイナビ転職が2020年に行なったWEB調査によれば、全国の会社員800名(20~50代)のうち8割以上が学び直しに関心をもちながら、実践したのはたったの16.9%。さらに、学び直しで得られた成果は「特にない・わからない」などと答えた人が、半数近くを占めていたのだとか。
こうした状況だからこそ、大人は「自分の内なる声に従って学び直すこと」が大切かもしれません。識者らの言葉を参考に、その理由を説明しましょう。
1.「内なる声」は生き生きさせてくれる
慶應義塾大学名誉教授で経済学者の岡部光明氏によると、「自分の内なる声」は日常的な自分の感情や考え方とは違い、心のなかのより深いところから聞こえる「ささやき」を意味するそうです。また、米国CTI認定コーチ・慶應義塾大学SFC研究所上席所員の長井雅史氏は、その自分の内なる声を、大きくふたつに分けて解説しています。
ひとつは何かを大切にしたい、何かを実現したいといった「内側から湧き出てくる声」。 もうひとつは、こうなったらどうしよう、こう思われたらどうしよう、こうするべきかも? といった、他者からの評価や視線を気にして生まれる「外側を気にする声」です。
同じ内なる声でも、その影響は大きく違うのだとか。 「内側から湧き出てくる声」に従った選択は人を生き生きとさせる一方で、「外側を気にする声」に従った選択は、自分のエネルギーを低下させてしまうそうです。
たとえば歴史に夢中で、「もっと知りたい」と心の奥底から自分がささやいているのに、周囲のすすめや雰囲気で金融系の資格勉強を始めたところ、結局は頓挫し、自分にとって楽しくない時間を過ごしたうえ、自己嫌悪に陥ってしまった――といったところでしょうか。
金融関係に強い興味があるのに、流行っているから歴史を学んでみるといった、逆のケースも然りです。自分の心の奥底に耳を傾けておけば、そうした状況は避けられるはず。
2.「内なる声」を聞けば道に迷わない
前出の長井氏は、自分の内側から湧き出てくる声を大事にする象徴的な言葉として、Apple創立の中心人物であるスティーブ・ジョブズ氏の言葉を挙げています。
その言葉とは、限りある自分の人生なのに、誰かの人生に従って時間をムダにしてはいけない、誰かの意見に掻き乱されてはいけないと説いたもの。最も大事なのは、自分がどうしたいのか知っている「内なる声」および「直観(感)」に従う勇気をもつことだとジョブズ氏は言います。
よく映画やドラマなどで、人生に迷った主人公が「自分はいったいどうしたらいいのか?」と助言を求めた際に、相手がこう返すシーンがあるのではないでしょうか。
――「それは自分が一番よく知っているはず」
自分の「内なる声」に耳を傾けておけば、人生にも迷いにくいのです。
3. 悔しさに基づく「内なる声」もある
ブランド戦略コンサルタントの水野与志朗氏の体験談をふまえると、何かで味わった悔しさが、のちに自分の欲求――いわゆる「内なる声」となり、よき方向へと導いてくれることもあるとわかります。
水野氏はむかし、本社がフランスにある会社で、シャンパン関連のブランドマネージャーになったことがあるそう。その際、フランス人の上司が、たびたび本社とのやりとりで日本人スタッフの悪口を言っていることに気づいたのだとか。しかし、仕事は英語で事足りていたため、フランス語がわからず、なんだか嫌な思いをしたそうです。
それから時を経て、ある時期に仕事で使う予定はないのにフランス語の勉強を始め、中級レベルを取得したのだとか。たまたま発生したフランス出張の際には大いに役立ったとのこと。嫌な体験で生まれた内なる声の「ささやき」に応えて、見事に結果を出したわけです。
水野氏いわく、「やらなくてはならない」と取り組む勉強は身につかないとのこと。「これを学びたい」という自分の欲求と向き合うことが、大人の学び直しには必要だと同氏は述べます。
しかし、普段生活していて「自分の内なる声に耳を傾けなさい」と言われても、なかなかピンとこないものですよね。次項では、ちょっとした作業で “心の声” を聞きやすくする方法を紹介します。
◎ 自分の価値観を思い出すコツ
前出の長井氏は、自分の内なる声がよくわからないという人に対し、自分の価値観を思い出す作業を紹介しています。ちなみに長井氏は「価値観」を、自分が本当に大切にしていること、それが満たされると自分のエネルギーが高まることと定義しています。手順はこうです。
- 次の言葉のサンプルからピンと来たものをひとつでも複数でも選ぶ
(自分の価値観だと感じるなら、下にない言葉でもいい) - その言葉通りの状態が満たされた体験を思い出す
ちなみに筆者は「ユーモア」「自由」「創造性」「信頼」を選びました。この価値観で思い出したいくつかの共通する体験は、「私を信頼し、自由に創造させてくれたクライアントは、おおむね私のユーモアも理解してくれる。それがとても心地いいので関係に持続性がある」といったことです。
じつは、これまでの分野(クリエイティブ系)とはまったく違う勉強を始めたいと考えていましたが、このステップを経て少し考え直すことにしました。自分の深いところでは、それを望んでいないと感じたからです。みなさんは、どんな「価値観」を選びましたか?
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大人は「自分の内なる声」に従って学び直したほうがいい理由と、そのコツを紹介しました。生き生きと学べるといいですね。
(参考)
キャリアトレンド研究所(マイナビ転職)|学び直し(リカレント教育)の「理想」と「現実」に大きなギャップ? 学び直しでキャリアアップに成功した人は少数
ログミーBiz|ジョブズも重視した、自分の直感に従う勇気 コーチングにおける「自分との対話」の一歩
PRESIDENT Online|大人の学び直しに必要な「内なる声」を聞く力 興味を持たないと、身につかない
岡部光明のホームページ|「チャペルでの奨励(5)自分の内なる声を聴く」
文部科学省|第3章 生涯学習社会の実現
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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