「ストレスがたまっていて、仕事のモチベーションが上がらない」
「嫌なことがあると、なかなか立ち直れない」
「気分が落ちていて、本来の力を発揮できていない気がする」
……そんなふうに感じている人は、ストレスとの「付き合い方」が間違っているかもしれませんよ。
じつは、ストレスについて一概に「悪いもの」とは言い切れません。むしろ、付き合い方次第で、ストレスは「味方」にもなりうるのです。
今回は、ストレスとの上手な付き合い方をご紹介しましょう。
そもそも、ストレスは体に悪いの?
「ストレスは体に悪い」と認識している人は、多いのではないでしょうか。これまでストレスは、神経症、胃潰瘍、がんといった病気になるリスクを高めると考えられてきました。しかし近年、研究者らの間では、ストレスそのものが体に悪影響を及ぼすわけではなく、考え方次第では「ストレスを味方につけることも可能である」と言われているのだそう。
それを証明するのが、アメリカで約3万人を対象に行なわれた調査です。強いストレスを抱えている人たちのうち、「ストレスは体に悪い」と思っている人たちは、そうでない人たちに比べ、死亡リスクが43%高かったのだとか。
つまり、「ストレスが体に悪い」という考えを持っていること自体が、体にダメージを与え、病気などを引き起こしてしまうよう。ストレスを避けることよりも、ストレスをどう定義づけるかが重要なポイントのようです。
人生の満足度を上げるためにはストレスが必要
ストレス自体が体に悪いわけではないと知ったところで、やはりストレスはつらいですし、避けたいと考える人もいるでしょう。
しかし、じつは、幸福な人生を送るためにストレスは必要不可欠なものなのです。それを証明したのが、ストレスの意義を調べたニューヨーク州立大学バッファロー校の心理学者マーク・シーリー氏らの研究。逆境を多く経験した人と、ほとんど経験していない人の幸福度を調べたところ、人生に対する満足度が最も高かったのは、ほどよく逆境を経験している人だったのです。
(※画像は編集部にて作成)
逆境体験があまりにも多い人は、人生の満足度が低いのですが、それと同時に逆境をほとんど経験していない人も、同様に満足度が低い ということがわかりました。加えて、逆境をほとんど経験していない人は、幸福感が低いうえに、健康状態も良くなかったそう。
ほどよい逆境、つまり適度なストレスにさらされている人こそ、幸福な人生を送れているということですね。
「自分は逆境体験が多すぎる」と感じている人も、悲観する必要はありません。この調査によると、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を起こすレベルの激しい逆境を体験した人でも、時が経ち、その経験を乗り越えることによって、人生の満足度を高められることがあるそうです。また、過去に大きな逆境を体験してきた人ほど、現在の逆境にあまりダメージを受けないということもわかっています。
ストレスを味方にする「マインドセット」とは?
ストレスが悪いものではないとわかっても、一度抱いたイメージはなかなか変えられないものですよね。ストレスへの認識を変えるには、「マインドセット介入」がおすすめです。
スタンフォード大学の心理学者 ケリー・マクゴニガル博士は、マインドセット介入こそがストレスへのベストな対峙方法だと提唱しています。
マインドセット介入の方法は、いたってシンプル。「ストレスは自分にとって良いものなのだ」と考えれば良いだけです。もしくは、そこにあるほかの事実に目を向けることがポイントだそう。
たとえば、職場でウマの合わない同僚に嫌味を言われたときは、腹を立てるかわりに「嫌な人が職場にいる、なんて多くの人が抱えている悩みだよね」「この人よりも成果を出してやる」などと、自分の気持ちを別の事実に集中させることがコツ。
ストレスとは、いわば「感覚」。同じ出来事でも自分がどう考え、どう感じるかは、自分次第なのです。「つらいことも、自分を強くしてくれる糧となる」と意識的に考えれば、ストレスは悪いものではなくなります。マインドセット介入は、新しい考えを定着させてくれるものなのです。
スタンフォード大学のグレゴリー・ウォルトン教授が提唱している、マインドセット介入を活用するトレーニング方法をご紹介しましょう。「ストレスは自分にとって良いものなのだ」という考えを定着させられますよ。
- 自分の中で、「ストレスは自分にとって良いものなのだ」と意識的に考えながら毎日を過ごしましょう。
- そこから、定期的にストレス度合いをチェックしていきます。週に1度、ストレスが限界レベルに達したときを10、ほとんど気にならないレベルを1として自分のストレスを数値化し、その推移を確認しましょう。
- 1週目はレベル9、次の週は8、次の週は6になり……とストレス数値の経過を可視化してみましょう。
自分の変化を数値化すると、自分の力でストレスをコントロールできるのだという自信がつき、マインドセットを変える手助けになりますよ。
ストレスを利用して成長する方法
「ストレスはマインドセット次第で悪いものではなくなる」「ストレスのない人生は満足度が低い」と説明してきましたが、次は、ストレスを成長につなげるコツをご紹介しましょう。心理学者のアリア・クラム氏が提唱する、ストレスをエネルギーに変換する3ステップです。
1. 体の状態を実況中継する
ストレスを感じたら、まず、自分の体がどのように反応しているか観察してみましょう。声に出してでも、心の中でも、どちらでもかまいません。「今、心臓がバクバクと激しく鳴っている、胃が痛くて吐きそう、甘いものがほしい」などと体に現れた反応を認識します。
嫌なことをされたら相手に苛立ち、仕事の締め切りが迫っているときはタスクのことで頭がいっぱいになり……と、ストレスを感じるとその要因だけに気を取られがち。そうではなく、一歩引いて、ストレスを感じたとき、自分の体がどのような反応をするか知ることが大切です。
2. 脅かされている大切なものに目を向ける
“ストレスを感じている” とは、自分にとって大切なものが脅かされているということ。たとえば、快適な空間、自由や自尊心、お金、家族との時間、将来の夢などが挙げられます。大切なものが脅かされていると感じるからこそ、防衛本能としてストレスを感じるのです。
そこで「今ストレスを感じている原因は大切な何かを脅かされているからだ。それはいったい何だろう?」と自分に問いかけましょう。ストレスを感じたときは、自分が本当に大事にしている価値観や、理想とする姿、達成したい目標、などが見えてくるチャンスなのです。
3. ストレスをプラスのエネルギーにする
ストレスを感じたとき、まずはそれを認識し、体の状態を観察します。次に、自分にとって大切な何かが脅かされていると知り、それが何かを探りましょう。そして、ステップ3では、そのストレスを活用して、大切なものを守るために行動します。
そこで、Aさんは通勤時間を1時間早めて、早朝の集中力が高い時間帯に仕事のタスクを早めに終わらせ、また、夕方に会議をセッティングされないよう、あらかじめ共有カレンダーに予定を書き込んでおくことにしました。
結果、通勤を早めたことでラッシュに追われなくなったため、電車内でも勉強できるようになりました。さらに帰りも早く上がれるようになり、夕方も学習に費やせるようになりました。
ストレスを感じたらそのままにせず、原因を探り、さらにそれを活用してプラスのエネルギーに変換させましょう。
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そもそも、皆さんも、試験に合格したときや、会社の面接に通ったときなど、何か大きな目標を達成した際には、何らかのストレスが付きものだったのではないでしょうか。目標を追いかけ、向上したいと思ったとき、目指している過程ではストレスや苦難があったはず。「ストレスは悪い」と決めつけずに、原因を探り、自分の糧にしてしまいましょう。
(参考)
SankeiBiz|考え方次第でエネルギーに! 「ストレスは害」と思う人は死亡率が高い
National Center for Biotechnology Information|Whatever does not kill us: cumulative lifetime adversity, vulnerability, and resilience
東洋経済Online|ストレスに強い人が実践する毎朝1分の習慣
メンタリストDaiGo(2018),『ストレスを操るメンタル強化術』, KADOKAWA.
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。