「ストレスは感染する」は本当だった。他人のイライラに毒されないための3つの方法。

ストレスの感染を防ぐ3つの方法01

あなたの周りには、いつもイライラと不機嫌そうな人はいませんか?

じつは「ストレスは人から感染する」ということが、最近の研究によってわかっています。「もらい泣き」ならぬ「もらいストレス」。イライラしている人がいると、イライラしている人の近くにいる人まで影響を受けてしまうのです。ひょっとしてあなたも、知らぬ間に誰かのストレスを受け取ってしまっているかも?

今回は、他人のストレスから「感染予防」するための対策を3つご紹介します。

「ストレスは感染する」は本当だった

ポジティブ心理学の第一人者、ショーン・エイカー氏は、ストレスの感染力について調べた実験結果を紹介しています。

被験者の26%が、ストレスを感じている人を見ただけで自身のコルチゾール(ストレスホルモン)のレベルが高まったという(英語論文)。この「セカンドハンド・ストレス」の感染力は、見知らぬ他者からより恋人からのほうが強かった(40%)。

(引用元:ハーバード・ビジネス・レビュー|他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法 ※太字は筆者が施した)

つまり、気のせいや比喩などではなく、ストレスを感じている人を見るだけで、生理的なレベルでストレス値が上がってしまうことが、実証的に示されているのです。

さらに、エイカー氏の研究結果からわかるのは、ストレスの感染源との関係性が密であるほど受けるストレスも多くなるということ。特に、毎日のように顔を合わせる上司や同僚が相手だった場合は、指摘することが難しいため、職場で受けたストレスはつい溜め込みがちになってしまいます

では、ストレス感染をブロックするには、どうすればいいのでしょうか?

ストレスの感染を防ぐ3つの方法02

1. 会話の第一声をポジティブに

エイカー氏が提唱するのは、とにかくポジティブな言葉で会話を始める、という方法です。

会話の第一声は、話の流れを左右する場合が多い。電話で最初の言葉を、「もういろいろ大変で」とか「とにかく忙しいんです」などと始めることはやめよう。深呼吸して穏やかに、「話ができて嬉しい」と言ってみるとよい。

(引用元:同上)

相手がイライラとした雰囲気を発していると、ついこちらも同調してしまいがち。しかし、同調ばかりでは相手の機嫌がさらに傾き、増幅したストレスがまた向けられる……という悪循環に陥ってしまいます。

ストレスが増えるばかるの悪循環を断ち切るには、まず言葉の上だけでもポジティブな表現を心がけましょう。特に、ひと言めに気をつければ、会話全体の雰囲気をガラリと変えられるかもしれません

会話を楽しくするヒントとして、「グッド&ニュー」という方法論をご紹介しましょう。「グッド&ニュー」は、教育学者ピーター・クレイン氏が提唱したもので、会議の空気を和ませる(アイスブレイク)方法として多くの企業で採用されています。

やり方は簡単で、最近見つけた「良かった出来事」または「新しい発見」を報告する、というもの。本来は、会議の始めにひとりずつ1分程度で発表していくのですが、普段の雑談にも応用できます。漠然と「何か話さなきゃ!」と考えるよりは、「良かった出来事、新しい発見を報告しよう」と具体化したほうが、会話のネタが思い浮かびやすくなるはずです。

例えば、こんなことを話してみてはいかがでしょうか。

  • 近所のラーメン屋に入ったらすごく美味しかった。岩海苔が入った一風変わったラーメンだった。
  • この土日は久しぶりに本を読めた。以前話題になった『サピエンス全史』という本で、人類の脳が発達したいきさつが興味深かった。
  • 芸人のKさんに密着したドキュメンタリー番組を観た。今までは変な人としか思っていなかったけれど、とても真面目な側面があることを知った。

内容はほんの些細なことでかまいません。とにかく、自分が本当に嬉しいと感じた、本当におもしろかった、という気持ちさえ伝われば、いつもより会話がスムーズに滑り出してくれるはずです。よっぽどでない限り、相手も「へえ、それってどんな?」という具合に話を広げてくれることでしょう。

ストレスの感染を防ぐ3つの方法03

2. ストレスの「予防接種」をする

例えば、風邪を予防するためには、手洗いうがいをする、ワクチンを打つ、マスクを着けるなど、さまざまな方法があります。ならば、人に会う前にしておくべき「心の予防接種」があってもいいはずと、エイカー氏はストレスから身を守るための5つの予防策を提唱しています。

  1. 2分間で知人の誰かを称えるメールを書く
  2. ありがたい、と感じる何かを3つ書き出す
  3. 2分間でポジティブな体験を書き記す
  4. 30分の有酸素運動をする
  5. 2分間の瞑想をする

(引用元:同上)

1~3は、紙に書くという行為を通じて思考をポジティブに持っていくやり方。紙に書くことを少なくとも21日間続けることで、物事からまずポジティブな側面を見つけようとする思考パターンが身につくそうです。エイカー氏は、思考をポジティブに保つことで生産性が31%上昇する、という検証結果も報告しています。

例えば、2の「知人の誰かを称えるメールを書く」を実践するなら、以下のようなイメージになります。

『A君はとにかく気配りが上手だ。例えば入社したばかりの頃、同期での飲み会を真っ先に企画してくれたのもA君だった。その飲み会の中でも、A君はひとりひとりに話を振り、みんなが楽しめるように盛り上げてくれた。昼休みや帰り道などに一緒になったときも、退屈しないよういつも新しい話題を提供してくれて助かっている』

もちろん、このように感謝を書き出したメールは特に送信する必要はありません。文章にするのが難しければ、箇条書きでもいいので書き出してみてください。すると、今まで気がつかなかった同僚の良い面を発見できるはず。感謝を書き出す方法を苦手な人について実践したら、苦手意識を緩和させることができるかもしれません。

4の「30分の有酸素運動」は、身体の調子そのものを整えるやり方です。有酸素運動がストレス軽減に良いことは知られています。激しい運動が難しければ、軽いスクワットや散歩で構いません。とにかく身体を動かすことで「セロトニン(通称:幸せホルモン)」という神経伝達物質が分泌され、リラックスした状態を作り出すことができます

5の「2分間の瞑想」は、脳の機能を整える効果があります。私たちは日々膨大な情報にさらされ、やるべきことや考えるべきことを常に複数持っています。つまり、「あれもやろう、これもやろう」というマルチタスクの状態に陥っており、脳には大きな負荷がかかっているのです。エイカー氏によると、インプットされる情報量を瞑想により減らすことで、頭の中がすっきりと整理されるのだそう。

『世界記憶力グランドマスターが教える 脳にまかせる超集中術』の著者・池田義博氏によれば、瞑想をする際のポイントは以下の3点です。

  • 背筋を伸ばして椅子に座る。
  • 息は鼻から吸い、口から吐く。秒数は気にせず、楽に呼吸する。
  • 意識は呼吸だけに向ける(鼻や口を通る息や、肺の膨らみなどを感じる)。

池田氏によると、少しずつでも毎日続けることで脳に変化が起き、ストレスを緩和したり、集中力を高めたりする効果が期待できるのだそうですよ。

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3.おおげさに笑ってみる

最後に紹介するのは、「とにかくおおげさに笑う」という方法です。脳研究者・池谷裕二氏によると、無理にでも笑顔を作ると、脳の「ドーパミン系」という機能が活性化するのだそう。ドーパミン系といえば、快楽ややる気を司る神経系。つまり、「笑っていれば自然と楽しくなる」ということが、脳科学的にも示されているのです。

楽しくなくても、少しイラっとしたときも、とりあえず笑ってみる。笑顔を作ってみれば、いつもより楽に受け流せることでしょう。

加えて、ストレスだけでなく、笑顔や楽しい気持ちも伝染します。前述したように、まずこちらからポジティブな気分を差し出せば、相手にも少なからず影響を与えるのです。

たとえば、先輩の話に対して、これでもかというくらい笑って見せる人がいますよね。単にゴマを擦っているだけ、と見てもよいのですが、互いの関係性や職場の雰囲気を和ませることに役立っているのです。

作り笑い、と言うと偽善的に感じられるかもしれませんが、笑顔を向けられて嫌な人はいないはずです。ひとつでも多く、少しでも大きく笑おうとしてみる習慣を心がけてはいかがでしょうか。

***
仕事にもプライベートにも、人間関係は常に伴います。他人の気持ちはコントロールできないからこそ、誰かのストレスにうっかり感染してしまわないよう、対策をしておきましょう。

(参考)
ハーバード・ビジネス・レビュー|他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法
PLOS ONE|Chemosignals of Stress Influence Social Judgments
furi-kake|会話が続かない人必見!会話が弾むと、仕事も上手くいく?「良い雑談」のコツを教えます!
TED|ショーン・エイカー 「幸福と成功の意外な関係」
ダイヤモンド・オンライン|「マインドフルネス」を利用して、脳の注意力を上げる
デイリー新潮|「笑う門には福来たる」は本当か 脳研究者が解説する「笑顔の効果」

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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