「上司によく思われたいから、やりたくない仕事も引き受けてしまう」
「場の空気を読んで、つい同調してしまう。本当は違う意見なのに……」
「本当は自分の意見を貫きたいけれど、いつも相手に忖度してしまう」
人から好かれたい。でも、自分の意見も貫きたい――そんなジレンマを抱えているビジネスパーソンは少なくないのではないでしょうか。
ふたつの願望を両方とも叶えるのは難しいように思えるかもしれませんが、嫌われることなく、自分の意見をはっきりと主張するのは不可能なことではありません。ではそのためにはどうすればよいのか、ご紹介します。ぜひ参考にしてくださいね。
【ライタープロフィール】
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。
リクナビNEXTジャーナル|もう泣き寝入りはしたくない! 反論上手だけが知っている「うまい反論の仕方」とは?
リクナビNEXTジャーナル|相手の機嫌を損ねないように「反論」し、自分の主張を納得させる3つのステップ
平木典子(2021),「三訂版 アサーション・トレーニング:さわやかな<自己表現>のために」,精神技術研究所.
Reme|【臨床心理士ワンポイント解説】職場でのアサーションDESC法を実践例でご紹介
自分を貫きながらも好かれる人は「反論がうまい」
「会議中に同僚が出した意見にどうしても納得がいかず、反対の意見を述べたら、その後同僚の態度が冷たくなった。どうすれば、嫌われずにすんだのだろう……」
そんな悩みを抱える人がいる一方、自分の意見を貫いてもまわりから嫌われない人もいますよね。
後者のような人の特徴は、反論がうまいことです。下手な反論をすると関係が悪化しかねないもの。ですが、嫌われることなく自分の意見を貫ける人は、上手に反論することで、互いが納得できる着点を見いだしているのです。
その反論について、気配りのプロフェッショナルとして多くの著書を手がける後田良輔氏は、以下のように述べています。
反論とは相手を打ち負かすための技術ではありません。共通のゴールを建設的に見つけていく交渉術です。とはいえ意見の対立は感情的になりやすいもの。だからこそ相手の感情を逆なでしない「大人の言い方」を身につけたいものです。
(引用元:リクナビNEXTジャーナル|もう泣き寝入りはしたくない! 反論上手だけが知っている「うまい反論の仕方」とは? ※太字は編集部が施した)
つまり、反論は相手の意見を否定するものではなく、お互いが納得するための “交渉” だと認識するのが大切なのですね。
反論というと、一方的に自分の意見を押し通したり、頑なに相手の意見を否定したりするようなコミュニケーションを想像する方もいるでしょう。ですが、そうした反論では相手を納得させられるはずもありません。そこで重要となるのが、建設的な反論だというわけです。
では、相手を納得させる建設的な反論をするには、どうすればいいのでしょうか。ポイントは、最初に相手の意見を受け入れることです。
「相手を傷つけず、相手の立場を尊重しながら、自分の主張を通す」ようすすめるのは、コミュニケーションスキルの専門家として年間300回以上のセミナーを実施する箱田忠昭氏。上手な反論の方法として、「CER話法」を挙げています。(カギカッコ内引用元:リクナビNEXTジャーナル|相手の機嫌を損ねないように「反論」し、自分の主張を納得させる3つのステップ)
CER話法とは、以下の3つを意識して話す手法です。
C:Cushion…反対を受け止める
E:Example…具体例を挙げる
R:Reason…理由を説明する
(引用元:同上)
たとえば、取引先から「価格が見合わない」と言われた場合を例に考えてみましょう。
取引先:
「ちょっと価格が見合わないな」
自分:
「そうですね、みなさん最初はそうおっしゃいます。【反対の受け止め】
実際、最初は価格について疑問を持たれるお客様も多いのです。
しかし、A社のケースでは、導入後の運用効率の向上で初期コスト以上の価値があったと高く評価していただきました。【具体例】
この素材は手に入りにくく上質な〇〇なので、長持ちします。【理由1】
だから、メンテナンスの手間が大きく省けるんです【理由2】」
また、会議で「企画を受け入れてもらえなかった」場合は、以下のような反論が考えられるでしょう。
上司:
「このイベントは、あまり需要がないと思います」
自分:
「はい、その可能性はあると私も思います。【反対の受け止め】
ですが、〇〇新聞に出ていたこの記事によると、【具体例】
SNSでZ世代の意識を調べてみたところ、インフルエンサーが紹介したことで人気に火がついたようです。【理由1】
やるなら、いまだと思います。先週の類似のイベントは、〇〇人もの来場者数でした【理由2】」
上記のように、反対の受け止め・具体例・理由を詳しく説明すれば、相手に納得してもらえる可能性も高まるもの。相手の意見を受け入れる姿勢によって、好印象を与えることもできるはずです。悪く思われることなく自分の意見を貫ける人になるために、ぜひ反論の方法を心得ましょう。
自分を貫きながらも好かれる人は「自分も相手も尊重する」
「嫌われたくないけど、自分ばかり我慢するのはもう疲れた。自分の意見も尊重してほしい……」
このように、言いたいことを我慢してストレスがたまっている人におすすめしたいのが、「アサーション」です。アサーションとは、「自分も相手も大切にする自己表現」のこと。日本におけるアサーション・トレーニングの第一人者である平木典子氏は、著書でこう説いています。
アサーティブなやり取りでは、すぐさま意見を変えて相手に譲ったり、相手を自分に同意させようとするのではなく、面倒がらずに互いの意見を出し合って、譲ったり、譲られたりしながら、双方にとって納得のいく結論を出そうとします。
(カギカッコ内および枠内引用元:平木典子(2021),「三訂版 アサーション・トレーニング:さわやかな<自己表現>のために」,精神技術研究所.)
つまりアサ―ションとは、お互いが我慢することなく双方の意見を大切にできる、柔軟で建設的なコミュニケーション。自分だけが我慢したり、相手との関係性を悪化させたりすることなく、自分の意見を貫きたい――そんな人が身につけるべきコミュニケーション術と言えます。
そんなアサーションの実践には「DESC法」が役立ちます。これは「4つのステップに従って相手に伝えたいことを整理する方法」だと話すのは、臨床心理士・公認心理師の鈴木さやか氏。以下が、その4つのステップです。
① D(Describe:描写)
…その時の状況を客観的に(相手や自分の気持ちは含めずに)描写する② E(Explain:説明)
…客観的事実に対する自分の主観的な気持ちを説明する
③ S(Specify:提案)
…①②を踏まえて提案する
④ C(Choose:選択)
…相手の答えに対して次の選択肢を示す(提案を受け入れられた時とそうでない時の対応を考える)
(カギカッコ内および枠内引用元:Reme|【臨床心理士ワンポイント解説】職場でのアサーションDESC法を実践例でご紹介 ※太字は編集部が施した)
ポイントは、最後に “相手に選択してもらう” こと。状況を整理して自分の感情を説明し、解決策や代案を提案したうえで、相手に選択してもらう——まさに、自分の意見も相手の意見も尊重できる会話法だと言えますね。
たとえば、仕事を多く抱えているなか、上司から「来週から新しいプロジェクトにアサインしたい」と突然言われた場合。DESC法を使うと、以下のように対応できます。
- Descride:描写
「来週から新しいプロジェクトに参加するのですね。ただ、現在ほかにもプロジェクトを抱えている状況です」 - Explain:説明
「新しいプロジェクトに興味はあるのですが、現在のプロジェクトの責任も重く、両立が難しそうで不安です」 - Specify:提案
「現在のプロジェクトのタスクの一部をほかのメンバーに移管できれば、新しいプロジェクトと両立できると思います」 - Choose:選択
「もしくは、新しいプロジェクトのスコープを調整できますか?」
これなら、相手の意見も尊重しながら、自分の意見を明確に伝えられるでしょう。
状況に応じて自己表現を調節できれば、相手に嫌われることなくコミュニケーションをとることができますよ。
***
人から好かれたいけれど、自分の意見も貫きたい――そんなふたつの願望のバランスをとるテクニックとして、嫌われない反論方法と自他ともに尊重するコミュニケーション術をご紹介しました。ストレスをためることなく円滑な人間関係を築けるよう、ぜひ参考にしてみてくださいね。