やっぱり「書く習慣」は最高だった。脳が疲れた現代人こそペンと筆を持つべき理由。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える、ストレスが消える書く習慣01

インターネットやスマートフォンの普及により、現代人が触れる情報量は急激に増えています。そのことが引き起こすのが「脳の疲れ」。「脳の疲労は現代病といっていい」と語る、精神科医であり禅僧でもある川野泰周(かわの・たいしゅう)さんは、脳の疲労を抑え、心を整えるための方法のひとつとして「書く」ことをすすめています。書く行為が脳や心に与える好影響、そしてその具体的なメソッドとはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

ToDoリストが脳の疲労を軽減させる?

脳の疲労を軽減させるということを考えれば、「書く」ことを重視することも大切です。ビジネスパーソンのみなさんであれば、やるべきことを「ToDoリスト」にしている人も多いでしょう。でも、ToDoリストはやるべきことを整理するためだけのものではないのです。じつは、脳の疲労を軽減させ、心を整えるにもToDoリストはとても有効です

脳は、何もしないままでイメージを保持しておくことはとても苦手です。そこで、何度も反すうして考えることで記憶をとどめようとします。家族に「帰りにカレーの材料を買ってきて」と頼まれたとき、買い物リストに書き込んでおかなければ、常に「ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、肉」というふうに何度も暗唱しながら買い物をすることになります。

一方、買い物リストに書き込んでおけば、そうやって思い返す必要はありません。すると、当然、脳が使うエネルギー量には大きな差が出てきます。バックグラウンドで稼働している脳のエネルギー消費量をなるべく抑え、脳の疲労を軽減できるというわけです。

また、ToDoリストの項目をひとつひとつこなしていくと、自己効力感が高まることにもつながります。自己効力感とは、ある状況において「わたしは必要な行動をうまく遂行できるんだ」と自分の能力を認識していること。やるべきことをきっちりできたという達成感を、ToDoリストの項目にチェックを入れていくたびに感じるのですから、脳を疲れさせる要因のひとつであるネガティブな感情を自分に対して持ちにくくなるのです(『“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。』参照)。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える、ストレスが消える書く習慣02

「視覚優位」の人におすすめの「マインドマップ」

それに加えておすすめしたいのが「マインドマップ」です。ただ、そのマインドマップを使うかどうかは、自分の脳のタイプのちがいによって判断する必要があります。人間の脳には、先天的に、視覚情報に頼ってタスクを処理する「視覚優位」と、聴覚情報に頼ってタスクを処理する「聴覚優位」というふたつのタイプがあると考えられています。

これは、簡単なテストで見わけることができます。たとえば、誰かに「5、7、8、9、1」というふうにランダムな5桁の数字をいってもらって、それを逆からいってみるのです。メモを取らずにやってみてください。

そのとき、頭のなかにその数字をビジュアルとしてイメージして、それをひとつひとつ逆から読むといった手法をとる人は、視覚優位の可能性が高いでしょう。一方、わたしもそうなのですが、聴覚優位の人の場合は視覚的にイメージを保持することが苦手ですから、このテストも3、4桁まではできても、5桁以上になるとなかなかうまくできません。

こうして視覚優位の可能性が高いとわかった人は、ただやるべきことを羅列したToDoリストだけではなく、絵に近い「マインドマップ」をつくることをおすすめします

やり方は、木を描いていくイメージ。いちばん下の根っこの部分に日付を書き込んだら、そこから午前と午後の枝にわけ、それぞれに9時、10時、11時というふうに時間ごとの枝を書く。それらの枝に、何時から誰と打ち合わせだとか、何時からはプレゼン資料の作成だとか、帰りにカレーの材料を買うとか……(笑)、1日にやるべきことをすべて書き込むのです。

すると、1日のタスクを紙1枚に集約し、ひと目で全部見ることになるので、視覚優位の人にとっては自分のやるべきことを空間的なイメージとして一括してとらえられます。そのことによって安心感を得られ、脳の疲労を軽減させることにもつながるのです。

一方、聴覚優位の人の場合、マインドマップをつくることで精一杯になりますし、パッと見て全体像をとらえにくいので、やはりToDoリストが向いているといえるでしょう。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える、ストレスが消える書く習慣03

仏の教えを丁寧に書き記す写経が心を整える

そして、わたしの立場としてぜひおすすめしたい「書く」行為としては、やはり「写経」を挙げておきたいですね。ひと文字ひと文字に向き合う写経は、それこそ手で書くという行為の醍醐味ともいえるのではないでしょうか。

毛筆に慣れていないという人なら、ボールペンを使ってもいいでしょう。大切なのは、綺麗に書こうとすることではなく、ひと文字ひと文字、丁寧に書くこと。なぜなら、ひとつの文字を書くことに注力することで、文字を書いていること以外のことに対しては気持ちが向かなくなり、マインドフルネスとしての効果を得ることができるからです(『“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。』参照)。

仏教を学んだことがない多くの人には、ご自身が書いている内容はわからないでしょう。でも、書き記すお経は仏の教えに根ざした言葉ですから、たとえ意味がわからない人でもなんとなく心が落ち着くということをしばしば体験できます。

これについては、科学的なエビデンスがあるわけではありません。それでも、多くの人が写経に親しみ続けているということを思えば、疲れた脳を癒やし、心を整える効果が写経にはあると考えてもいいと思うのです。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える、ストレスが消える書く習慣04

【川野泰周さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。
「疲れすぎた脳」が休まる最高の習慣はあるのか? 精神科医の禅僧に聞いてみた。

【プロフィール】
川野泰周(かわの・たいしゅう)
1980年生まれ、神奈川県出身。精神科・心療内科医。臨済宗建長寺派林香寺住職。2005年、慶應義塾大学医学部医学科卒。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行を行う。2014年末より臨済宗建長寺派林香寺の住職となる。現在は寺務の傍ら、都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。また、ビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代など幅広い対象に講演活動も行う。『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『ずぼら瞑想』(幻冬舎)、『ぷち瞑想習慣』(清流出版)、『悩みの9割は歩けば消える』(青春出版社)、『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方』(インプレス)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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