ピーク・エンドの法則とは? 活用する3つの方法

ピーク・エンドの法則とは1

ピーク・エンドの法則とは、「ピーク」と「エンド」の経験が、物事の印象を大きく左右する傾向を表したもの。2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者・行動経済学者のダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)氏によって提唱されました。

ピーク・エンドの法則を押さえておくと、ビジネスや日常のさまざまなシーンで、お客さんや話し相手の記憶に強い印象を残すことができます。ピーク・エンドの法則とはどのようなものか、日常生活でどう活かせるのか、詳しく学んでいきましょう。

ピーク・エンドの法則とは

ピーク・エンドの法則とは、最も感情が動いたとき(ピーク)と、一連の出来事が終わったとき(エンド)の記憶だけで、ある経験についての全体的な印象が決定されるという法則です。

「高校時代を振り返ってください」と言われたら、何を思い出しますか? 多くの人は、文化祭など最も印象深い出来事(ピーク)や、受験や卒業式など高校生活終盤の思い出(エンド)を思い浮かべるのでないでしょうか。その「ピーク」と「エンド」という2種類の記憶が、高校生活全体の印象に大きな影響を与えるのです。

たとえば、「文化祭がとても楽しかった」記憶が「ピーク」として、「志望校に合格して最高の気分だった」記憶が「エンド」として残っている場合、全体的に「とても良い高校生活だった」という評価になるはず。もちろん、苦しい思いや悔しい思いもたくさんしたはずですが、「ピーク」でも「エンド」でもない細かい記憶は、全体的な印象にほとんど影響を与えないのです。

反対に、「いじめに遭っていてとても苦しかった」記憶が「ピーク」として、「受験に失敗して最悪だった」記憶が「エンド」として思い浮かぶ人は、「嫌な高校生活だった」という全体的な評価を下すでしょう。この場合も、3年間で起きたほかのポジティブな出来事は、「ピーク」でも「エンド」でもないため、全体的な評価にあまり影響を及ぼしません。

このように、過去の経験が「ピーク」「エンド」という2点で印象づけられる、という現象を定式化したものが、ピーク・エンドの法則なのです。

ピーク・エンドの法則とは2

ピーク・エンドの法則の実験

ピーク・エンドの法則の妥当性は、実験によっても明らかにされています。先述のカーネマン氏が行なった3つの実験をご紹介しましょう。

冷水を用いた実験

1993年の論文では、冷水に手を入れているあいだの不快感を計測した実験が紹介されました。

被験者は冷たい水(14度)に手を入れ、そのまま60秒待ちます。被験者が感じる不快感は機械によって計測され、0~14の点数で評価されました。これを「体験A」としましょう。

さらに、被験者には別の経験もしてもらいます。14度の水に60秒間手をつけるところまでは同じですが、その後の30秒間、水は15度まで少しずつ温かくなっていきました。つまり、60秒の不快な体験のあとに、30秒間の「少しはマシな」体験が加わったのです。これを「体験B」とします。

計測した不快度数を見ると、「体験A」の平均不快度は8.44、「体験B」における最初の60秒の平均不快度は8.34と、ほぼ同じだったそう。そして、「体験B」の最後の30秒は、水がぬるくなったぶん、不快度数が5.69と大きく下がりました

両方の体験を終えた被験者に「もう一度体験するならどちらがいいか?」と尋ねたところ、69%もの人が「体験B」だと答えたそう。つまり、「体験B」では最後の30秒間に不快度が下がったため、それが「エンド」の印象として記憶され、「体験B」全体の印象がよくなったと考えられます。

結腸内視術についての実験

2つ目は、1996年の論文における、結腸内視術という手術の痛みについての調査です。

調査では、施術中の患者に、今どれだけ痛いと感じているか60秒ごとに数値で報告してもらいました。そして施術後、全体としての痛みはどれくらいだったか、あらためて患者たちに評価させたそう。

結果を分析したところ、施術後に振り返った痛みの印象は、施術時間の長さとは関係なく、施術中に報告した痛みの数値と関連していたとのこと。つまり、「ピーク」時の痛みが、施術全体の印象を左右したわけですね。

騒音を用いた実験

2000年の論文では、騒音に対する不快感の変化が調査されました。

実験の流れは、冷水を用いた実験とほとんど同じ。被験者を2つのグループに分け、最初のグループには不快な騒音を大音量で8秒間聞かせます。もう一方のグループには、最初のグループと同じ騒音を8秒間聞かせたあと、「いくらかマシな音」をさらに8秒間聞かせました

その結果、やはり最後に「マシな騒音」を聞いた2つ目のグループのほうが、1つ目のグループよりも不快度が低かったのだそう。これも、ピーク・エンドの法則によって最後の「マシな騒音」の印象が強く残り、結果的に全体の不快度が低くなったものと考えられます。

ピーク・エンドの法則とは3

ピーク・エンドの法則の例

次は、私たちの身近なところから、ピーク・エンドの法則の具体例をいくつか紹介しましょう。

行列に並ぶ

ディズニーランドや富士急ハイランド、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなどのテーマパークに行くと、アトラクションには長い行列ができています。人気のアトラクションなら少なくとも1時間、長いものでは2~3時間に及ぶことも珍しくありません。

しかし、せっかく2時間ものあいだ並んでも、アトラクションに乗れる時間はせいぜい5分程度。冷静に考えれば、とても不合理に思えます。

なぜ私たちは、たった5分間の楽しみのために、膨大な時間を行列に捧げてもいいと思えるのでしょうか? じつは、そこにもピーク・エンドの法則が隠れています。

「長い行列に並んでアトラクションに乗る」という一連の体験において、アトラクションに乗っている5分間はもちろん「ピーク」であり、同時に「エンド」にもあたります。つまり、行列に並んでいるあいだの苦痛や退屈は、すべて最後の5分間によってかき消されてしまい、ほとんど記憶に残らないので、全体としては高い満足感を得ることになるのです。

実際にあなたがアトラクションに乗ったときのことを思い出してみてください。アトラクションを楽しんでいる5分間の記憶は鮮明に思い出せる一方、並んでいたあいだの記憶は薄いのではないでしょうか。

もちろん、人気の飲食店などに並ぶときにも同じことがいえます。おいしい料理を食べた喜びがピークかつエンドの体験として残り、並んでいた時間に味わった苦痛を圧倒するため、「並んでよかった」といういい思い出だけが記憶に残るのです。

映画

映画のおもしろさにも、ピーク・エンドの法則があてはまります。映画がおもしろかったかおもしろくなかったかを判断するとき、「クライマックス(ピーク)」と「ラストシーン(エンド)」によって印象が左右されるはず。たとえ途中まで退屈な内容が続いていたとしても、終盤で大いに盛り上がったり、ラストにどんでん返しが用意されていたりすれば、映画の内容に十分納得できるはずです。

たとえば、大ヒット映画『天空の城ラピュタ』なら、ラピュタ(天空の城)で始まった戦闘シーンが「ピーク」、滅びの呪文(バルス)によってラピュタが崩壊するシーンが「エンド」にあたるでしょう。「ピーク」と「エンド」に大きな山場が用意されていると、印象が観客の記憶に強く残り、映画全体が「おもしろかった」と評価されやすくなるのです。

極端な例としては、2018年に大ヒットした『カメラを止めるな!』があります。筆者の印象では、前半までは安っぽいB級ゾンビ映画という感じで、わざわざ劇場まで足を運んだことを後悔するほど退屈な内容でした。しかし、後半に用意されていた、ある「仕掛け」によって、話は一気におもしろくなりはじめます。 「おもしろい」と感じていた時間より「退屈だ」と感じていた時間のほうがずっと長かったのですが、「ピーク」と「エンド」の印象があまりに強かったために、大いに満足して劇場を後にしました。

このように、ピーク・エンドの法則の具体例は、日常のいたるところに見つけることができるのです。

ピーク・エンドの法則とは4

ピーク・エンドの法則の活用法1:営業

では、ピーク・エンドの法則を知ったところで、どのように活かせるのでしょうか。3つの活用例をご紹介します。まずは営業(セールス)の場面です。

セールストークにおいては、商品の価値をいかに強く印象づけ、顧客の心を動かせるかが重要課題です。ピーク・エンドの法則を意識し、セールストークに「ピーク」と「エンド」を用意することで、商品の魅力をより効果的に伝えられます。

顧客の心を動かし、セールストークの「ピーク」と「エンド」を盛り上げる具体的な方法は以下のとおり。

「特別感」を出す

「今回だけ特別に……」「ここだけの話……」といった言い方をされると、嬉しさやワクワク感を感じますよね。今だけですよ、あなたにだけですよ、という特別感があると、顧客は「特別扱いしてもらっている」と思い、商品や話の内容に対する関心を高めやすくなるのです。

「お客様だけ、特別に5%引きにしちゃいますね」「今回だけ、特別に裏話を教えちゃいますよ」など、顧客が「お得感」を感じるような言い回しを使ってみましょう。

ピーク・テクニックで興味を惹く

ピーク(pique)は「興味を惹く」という意味の英単語です。紛らわしいですが、ピーク・エンドの法則の「ピーク(peak=絶頂)」とは別物。ピーク・テクニックとは、要するに何か「引っ掛かり」になることを言い、相手の興味をかき立てる技術なのです。

たとえば、「今なら23%引き!」と言われると、「なぜそんなキリの悪い数字なんだろう」と、少し気になりませんか? ちょっとした違和感をあえて与えることで、相手が話に食いつきやすくなるのです。「33秒だけ話を聞いてください」と言って交渉やプレゼンテーションを始めるのも、ツカミとしては有効です。

要望をいったん断る

米国の認知心理学者マックス・H・ベイザーマン氏が提唱した心理学の概念に「勝者の呪縛」というものがあります。勝者の呪縛とは、要求を相手に飲ませることに成功したものの、なぜか不満感が残ってしまう心理のこと。

家電量販店で新しいノートパソコンを買う場面を想像してみてください。気に入った商品が見つかったものの、価格は10万円。もう少し安くなればと思い、店員に値段交渉をしてみました。すると、店員はすぐに快諾。「定価より1,000円安くしますね」と言ってくれました。あなたは交渉に勝ったわけです。

しかし、こうもすぐに値引きを快諾されてしまうと「もともと値引きありきの価格だったのではないか?」「本当はもう少し安くなるのではないか?」などと疑問が残ってしまいますよね。つまり、値引き交渉に成功したという満足感がないのです。このような「勝ったのに勝った気がしない」というモヤモヤ感が、勝者の呪縛と呼ばれるものです。

同じ1,000円引きでも、「30分の交渉の末ようやく勝ち取った1,000円引き」となると、まったく満足感は違うでしょう。店員に対しては「無理を押してまで要望を聞いてくれた」と感じ、感謝の気持ちもひとしおのはずです。

心理学者の内藤誼人氏は、顧客の要望は何でもすぐに受け入れるのではなく、あえていったん断ったり、渋ったりしてみせることで、かえって満足感をアップできると解説しています。ピーク・エンドの法則を、ほかの心理学の概念と組み合わせると、絶大な効果を発揮するわけですね。

ピーク・エンドの法則とは5

ピーク・エンドの法則の活用法2:顧客満足度を高める

ピーク・エンドの法則を意識しながらサービスを提供することで、サービスに対する顧客満足度を高め、リピート率の向上を目指すことができます。

レストランの例で考えてみましょう。顧客にとって「ピーク」とは何でしょうか? 当然、料理を食べるシーンですね。料理のおいしさや見た目はもちろん、接客担当者によるもてなしやインテリアによる空間演出、BGMなどのさまざまな要素に気を配り、「ピーク」時の思い出を少しでも印象深いものにすることで、リピートしてもらえる可能性が高くなります。

そして「エンド」は、食事を終えたあとのお見送りです。会計を済ませて店を出るとき、店員が深々とお辞儀をして見送ってくれると、気分がいいですよね。店によっては、グッズやお菓子などのちょっとしたお土産をもたせてくれることもあります。

ささいなことですが、何ももらわないのと比べると、印象は大きく異なるでしょう。食事中のサービスに気を配るのは当然としても、ピーク・エンドの法則を知らなければ、お見送り(エンド)の大切さまでは気がつかないかもしれません。

特に、接客でミスを犯してしまった場合には、リカバリーとしていつも以上に丁寧なサービスを心がける必要があります。接客でミスがあると、顧客の記憶には「ミスをされた」という悪い印象が「ピーク」として刻まれてしまい、全体の印象として「ダメな店だった」と認識されてしまうことになりかねないのです。

接客ミスをして顧客を不快にさせてしまったら、おわびとして料理を1品プレゼントする、見送りのときにお土産や商品券を渡して再度謝罪する、といった対策をとり、悪い「ピーク体験」をかき消す努力をしましょう。いずれにせよ、ピーク・エンドの法則にのっとり、ただその場で謝罪して終わりではなく、「エンド」の部分にもきちんと良い印象を残すことが大切なのです。

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ピーク・エンドの法則の活用法3:対人関係

ピーク・エンドの法則は、人に好印象を与えたいときにも利用できます。特に「エンド」の部分、つまり「別れ際」の振る舞いに気を配ることが大切です。なぜなら、どこを会話の「ピーク」だと捉えるかは相手しだいですが、「エンド」の印象ならばコントロールできるからです。

レストランの例でも述べましたが、店員が見送りのときに深々と頭を下げてくれると「心からおもてなししてくれているんだな」と誠意を感じ、その最後の印象が強く残りますよね。反対に、見送りが雑だったり、無愛想だったりすると、「これまでの接客はウソだったのかな?」と残念な気持ちになってしまいます。別れ際は、その人の印象を大きく左右する、とても重要なシーンなのです。

コンサルタントの石田健一氏は、著書『仕事の問題は30秒で解決できる』で、商談などの別れ際に良い印象を残すためのポイントを3つ紹介しています。

急いで立ち去らない

用件が終わったからといってすぐに立ち去ると、早く相手のもとを離れたいかのような印象を与えるため、「この場にいるのが嫌なのかな?」と思われてしまいます。別れるときには、帰るのがとても名残惜しいという様子を見せながら、最大限丁寧にあいさつをして立ち去るようにしましょう。

入り際は腰を低く、去り際は堂々と

別れ際には、できるだけ堂々と振る舞いましょう。相手が顧客や目上の人だと、ついペコペコと下手に出てしまい、弱々しい印象を与えてしまいがち。相手がどんな人であれ、別れ際にはきちんと胸を張り、堂々とした振る舞いを心がけましょう。

一方、入り際(相手と会って会話を始めるとき)には、警戒心を抱かせないよう、なるべく腰の低いスタンスをとるのがベターです。

感謝の気持ちを伝える

言葉で感謝の気持ちを伝えます。ただあいさつをして別れるのではなく、ちょっとしたことでもいいので、相手への感謝や褒め言葉を伝えるようにしましょう。

石田氏は、「相手や相手の会社についての好きなところ」「相手の話で感銘を受けたこと」などを具体的に伝えるのを推奨しています。「○○社さんのファンになりました!」など、会話の中で感じた率直な思いを伝えることも効果的なのだそうです。

***
ビジネスから日常的な人間関係まで、さまざまな場面に応用できるピーク・エンドの法則。相手の印象に何かを残したいときには、ぜひピークとエンドを意識した演出を考えてみましょう。

(参考)
長瀬勝彦(2008), 『意思決定のマネジメント』, 東洋経済新報社.
茂木健一郎(2013), 『幸福になる「脳の使い方」』, PHP研究所.
高田晋一(2015), 『自己啓発の名著から学ぶ 世界一カンタンな人生の変え方』, サンクチュアリ出版.
石田健一(2016), 『仕事の問題は30秒で解決できる』, かんき出版.
商業会ONLINE|セールストークに2つの山を作って販売力アップを!
株式会社日立ソリューションズ|「相手を説得するための心理テクニック -実践編-」
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Bizコンパス|一流の営業マンは、顧客の要望を断る交渉力がある
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【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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