「疲れすぎた脳」が休まる最高の習慣はあるのか? 精神科医の禅僧に聞いてみた。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える脳を休ませる方法01

過去には考えられないほど大量の情報にさらされるいまの時代は「脳が非常に疲れやすい時代」と語るのは、精神科医であり禅僧でもある川野泰周(かわの・たいしゅう)さん。脳をしっかり休ませるためには、「規則性だらけの人工物ではなく、不規則性だけで構成された自然に注目することが大切」だと川野さんはいいます。では、その具体的な手法を教えてもらいましょう。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

規則性のなかに置かれ続けると脳は機能異常を起こす

脳を疲れさせる要因としては、「ネガティブな感情」「マルチタスク」、それから「人口集中」が挙げられます。そして、同じ面積あたりに過ごしている人の数が多ければ多いほどうつ病や不安障害の罹患率が上がるという研究結果もあります(『“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。』参照)。だからこそ、とくに都市部に住む人の場合、脳の疲労を軽減しようと思えば、積極的に自然に注目することが必要です。

その自然が持つのが、よく知られている「1/fゆらぎ」というもの。これは、自然を構成している不規則性のことです。それに対して、都市部ではそれこそ周囲は規則性に従って「つくられたもの」に囲まれています。ビルは直線と直角でできていますし、その隙間から見える空もビルの直線によって切り取られたものですよね。

規則性のなかに置かれ続けた人間は、その脳に機能異常が起きる可能性が指摘されています。デジタル放送となったいまはもう観られませんが、かつては深夜にテレビ放送がすべて終わると、いわゆる「砂嵐」が流れていました。小さい頃、理由もわからないまま砂嵐が怖かったり嫌だったりした人も少なくないでしょう。それにはある理由があると考えられます。

砂嵐は「ホワイトノイズ」というものです。一見、不規則なものにも思えるのですが、ホワイトノイズは機械によって生み出された規則的なものです。だからこそ、観続ければ脳が疲れて不快に感じてしまうというわけです。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える脳を休ませる方法02

自然の色に注目することは日本的なマインドフルネス

一方、1/fゆらぎの不規則性は、ホワイトノイズなど規則性のあるものとは真逆の効果を持ち、脳を休めてくれます。では、都市部に暮らす人が1/fゆらぎに触れるにはどうすればいいでしょうか。わたしがすすめていることのひとつは、「雲を眺める瞑想」です。

子どもの頃には、多くの人が雲をなにかに見立てる遊びをしたでしょう。雲を眺める瞑想とは、まさにその遊びです。それこそ不規則にかたちが変わっていく雲をぼーっと眺めながら、「あれはアイスキャンディーに似ている」「ちょっと冷たいものを飲みたくなったな」というふうに、心が赴くままに連想をして、頭のなかで表現するのです。

あるいは、雲に限らず、川の流れを見てもいいですし、裸足になって足の裏が感じる砂や土の感触に注意を向けることでもいい。できるだけひとつの情報に注力して観察することが、脳を休めるマインドフルネスになります。

また、周囲にある自然の色に注目してもいいですね。黄色といっても、クリーム色がかった黄色もあればレモンイエローもあり、色というものには絶対値がありません。それこそ、自然が持つ不規則性といえるでしょう。具体的な方法としては、周囲にあるものの色だけに集中して、「これはこんな色」というふうに頭のなかで言葉にするのです。

わたしたちが暮らす日本では、伝統的に微妙な中間色を表す言葉が多く使われてきました。墨の濃淡だけで表現する水墨画が芸術として成立してきたことなどからも、言葉だけではなく、私たちの心にもこうした微細なニュアンスに対する感性が育まれているのだと思います。

そんな日本で生まれたわたしたちは、色に対する感性が研ぎ澄まされているのではないでしょうか。そういう意味では、周囲にある自然の色に注目することは、とても日本的なマインドフルネスの手法となり得るのかもしれません。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える脳を休ませる方法03

集中が苦手な人にもできる体を動かすマインドフルネス

また、先に紹介した足の裏の感触に注意を向けることにも通じることですが、体を動かすことも脳を休めることにつながります

呼吸に集中するマインドフルネスは体を動かしません。そうすると、雑念が湧きやすくなります。それ自体は決して悪いことではありません。雑念を振り払い、また呼吸に集中することでマインドフルネスの効果が高まるからです(『“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。』参照)。ですが、再び集中することがなかなかできないという人がいることも事実です。

でも、ウォーキングをしていたとしたらどうでしょうか。足の裏が地面につく感覚に集中し、「右、左、右、左」というふうに心のなかで実況中継すれば、歩くたびに足の裏が接地する感覚を受け取れますから、雑念が湧きにくく、とても集中しやすいのです。それこそウォーキングよりハードなジョギングとなったら、息も上がってきますから、「右、左、右、左」以外のことはなかなか考えられませんよね?

また、体を動かすことは脳科学的な視点からも脳を元気にするといえます。運動刺激によって前向きなやる気や安心を担保しているノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質や、脳の神経を再生させるBDNF(脳由来神経栄養因子)という脳内ホルモンが分泌され、脳をアクティブにしてくれるからです。

かつてとは比較にならないほど大量の情報にさらされ、マルチタスクに慣れすぎてしまった現代人は、昔の人に比べれば、呼吸だけに集中するようなマインドフルネスが苦手になっている可能性があります。そういう意味で、体を動かすマインドフルネスも強くおすすめしておきたいと思います。

精神科医の禅僧・川野泰周さんが教える脳を休ませる方法04

【川野泰周さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“精神科医の禅僧” が教える「脳が疲れる2つの原因」。現代は “脳に悪いこと” が多すぎる。
やっぱり「書く習慣」は最高だった。脳が疲れた現代人こそペンと筆を持つべき理由。

【プロフィール】
川野泰周(かわの・たいしゅう)
1980年生まれ、神奈川県出身。精神科・心療内科医。臨済宗建長寺派林香寺住職。2005年、慶應義塾大学医学部医学科卒。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行を行う。2014年末より臨済宗建長寺派林香寺の住職となる。現在は寺務の傍ら、都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。また、ビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代など幅広い対象に講演活動も行う。『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『ずぼら瞑想』(幻冬舎)、『ぷち瞑想習慣』(清流出版)、『悩みの9割は歩けば消える』(青春出版社)、『「あるある」で学ぶ 余裕がないときの心の整え方』(インプレス)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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