ビジネスパーソンにとって、忙しく働くなかで勉強をするのはなかなか難しいものです。どうすれば、限られた時間で勉強の成果を最大限に引き上げられるのでしょうか。
お話を聞いたのは、医師として働きながらハーバード大学へ留学し、並行してボストン大学でMBAを取得した眼科医の猪俣武範(いのまた・たけのり)先生。猪俣先生は、「テクニックも大切だが、なによりも『勉強に対する考え方』こそ最重要」と語ります。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
「勉強に対する考え方」がなければ、勉強する意味もない
みなさんは、忙しい毎日を過ごしながら勉強をするときになにが大切になると考えますか? 私が重視しているものにはいくつかありますが、ここでは、なかでも重要な「勉強に対する考え方」「環境づくり」について解説します。
勉強をするうえで最も重要なものが、「勉強に対する考え方」。これは、勉強することの目的意識と言っていいでしょう。みなさんは、なぜ勉強をしようと考えるのでしょう? なんとなく「社会人として勉強をしないといけない」と思うから? それとも上司や先輩に言われたから? そんな曖昧な目的だけでは、忙しく働きながら勉強を続けることはそう簡単ではありません。
そうではなく、自分のもっと深い部分にある人生におけるミッションを追求し、「自分は限られた人生のなかでなにをやりたいのか」と深く考えてみましょう。そのうえで、そのやりたいことを達成するために「勉強が必要だ!」となったら、勉強に対するモチベーションは必然的に上がり、忙しい毎日のなかでもなんとか工夫して勉強をしようとおのずと考えられるはずです。
そのように人生の目的が見えたら、目的達成のための目標管理を心がけましょう。人生の目的達成のために必要なことを細分化し、具体的な目標を設定するのです。私の場合、10年ほど先までの目標を立て、それらを毎年1回見直して更新するようにしています。そうでないと、いまこの瞬間に勉強することの意味を見失ってしまいかねないからです。
もちろん、「10年先なんて想像できない」と思う人もいますよね。そういう場合でも、10年は難しいとしてもなるべく長期の目標を設定することが、あなたの勉強に臨む姿勢や勉強法を確実に変えてくれるはず。いま思いつく目標で構いません。10年のあいだに置かれている環境や立場、そして自分の考え方が変われば、私のようにその都度目標を更新すればいいだけなのですから。
勉強の成果を大きく引き上げてくれる「一緒に勉強する仲間」
続いて重要となるものが「環境づくり」。働きながら勉強をする場合、家族や職場の理解を得ておくことも大切でしょう。「家庭をほったらかしにして勉強している」なんて家族から煙たがられたり、職場に隠して勉強していたりしたら、勉強に身が入るわけもないからです。
それから、「一緒に勉強する仲間」をつくることも環境づくりと言えます。受験生の頃、仲のいい友人が熱心に勉強している場では「自分も頑張ろう!」と集中して勉強ができたのに、ひとりではなかなかそうできなかったという経験がみなさんにもあるのではないですか? そういった仲間の存在は、勉強の成果を大きく引き上げてくれます。
私はかつて、ボストン大学のビジネススクールでMBAを取得したのですが、そのボストン大学には、それこそ「一緒に勉強する仲間」を得ることができる「楽しく学べる場」が整っていました。毎日のように勉強会を兼ねたソーシャルイベントが開催されていたのです。
日本の教育を受けて育ったみなさんの多くは、「勉強=机に向かってするもの」と考えているかもしれません。でも、学びにはいろいろなかたちがあります。勉強会を兼ねたソーシャルイベントもそのひとつ。そして、そういう場での勉強はまったく苦じゃなく、楽しいのです。楽しいのですから、もちろんより多くの学びを得られるということにもなります。
しかも、そういうイベントのよさはほかにもあります。たとえば、イベントで誰かのプレゼンテーションを聴くとします。プレゼンとは、プレゼンターが数年にわたって経験してきたことや考えてきたことが凝縮されたものです。それらをほんの数十分で得ることができるのですから、これほど効率的な勉強はありません。
「一緒に勉強する仲間」の「勉強に対する考え方」を聞く
そして、そういったさまざまな学びの場に積極的に参加して得ることができた「一緒に勉強する仲間」は、あなたの勉強法そのものを変えてくれることにもなるでしょう。
あなたの勉強の成果はなかなか出ないのに、どんどん成果を出している仲間がいるとします。だとしたら、その仲間をお手本とすればいい。成果を出せている人は、ほとんどの場合、ただ偶然そうできているわけではありません。そこには必ずなんらかの理由があります。
その理由はさまざまでしょう。勉強に集中する独自の方法をもっているかもしれないし、単にあなたとは勉強量が違うのかもしれない。そして、最初にお伝えした「勉強に対する考え方」が違うのかもしれません。
あなたの勉強の成果がなかなか出ないというとき、それはただ停滞期にあるだけかもしれませんが、もしかしたら「勉強に対する考え方」がまだしっかりもてていない可能性もあります。その可能性を疑い、成果を出せている仲間がどういう考えをもって勉強をしているのかを聞いてみましょう。そうしてさまざまな人の「勉強に対する考え方」に触れることで自分の「勉強に対する考え方」を変容できれば、勉強の成果も大きく変わってくるはずです。
【猪俣武範先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
社会人は「1日48分」を “○○” の勉強にあてよ。超多忙でも時間を確保する工夫とは
“医学博士×ハーバード留学×MBA取得” を実現。勉強の達人が教える「集中力持続法」
【プロフィール】
猪俣武範(いのまた・たけのり)
1981年5月21日、千葉県生まれ。眼科医。2006年、順天堂大学医学部医学科卒業。2008年、東京大学附属東大病院初期臨床研修医修了。2012年、順天堂大学大学院医学研究科眼科学にて医学博士号取得。2012年からハーバード大学医学部眼科スケペンス眼研究所へ留学。留学中にはボストン大学経営学部Questrom School of BusinessでMBA取得。2015年から順天堂大学医学部附属順天堂医院眼科准教授。2020年5月からは順天堂大学大学院デジタル医療講座准教授を兼任し、臨床、研究、教育、経営に携わる。2016年より一般社団法人IoMT学会を設立。代表理事に就任し、医療とIoTの発展をリードする。2017年から2019年まで厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」の構成員も務めた。主な著書に『医者と弁護士が知っている 日本の病院 7つのなぜ』(クロスメディア・パブリッシング)、『限られた時間で最大の成果をあげる 最強の勉強法』、『医師が実行している 最強の休息法』、『ハーバード☓MBA☓医師 働く人のための 最強の休息法』、『ハーバード☓MBA☓医師 目標を次々に達成する人の 最強の勉強法』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。