インターネットやデジタルツールの発展によって必要な情報に即座にアクセスできるいま、社会人にとっての暗記の重要性は低下しているとも言われます。しかし、資格試験勉強などでは依然として記憶力も問われます。限られた勉強時間のなかで覚えたいことを確実に覚える方法とはどのようなものでしょうか。日本女子大学人間社会学部心理学科教授の竹内龍人先生は、「テスト効果」と「系列位置効果」を活用することをすすめます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
竹内龍人(たけうち・たつと)
日本女子大学人間社会学部心理学科教授。博士(心理学)。専門は認知心理学。著書に『脳と目がカギ! 色のふしぎ』(誠文堂新光社)、『答えはひとつじゃない! 想像力スイッチ』(汐文社)、『脳が驚いて活性化! 毎日だまし絵で脳トレ』(扶桑社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
テストを受けること自体が効率的な学習法になる
前回の記事では、誰にとっても効果的だと実証されている学習法として「分散学習」について解説しました。分散学習とは、「同じ内容、あるいは似通った内容の学習は、1分でも1週間でも1か月でもいいのであいだを空けて行なう」学習法のこと。この分散学習は、同じ内容の勉強を連続して行なう「集中学習」と比べた場合、学習効果が高いことがわかっています(『あえて、「あいだを空けよ」。効率的で学習効果を高める、多忙な人のための「分散学習」』参照)。
そして、分散学習と同じくらい効果的な学習法として、「テスト効果」を利用した学習法があります。もっと言うと、勉強法のなかで本当に効果的だとはっきりと実証されているのは、このふたつだけなのです。そういう意味では、分散学習とテスト効果を利用した学習法は、学びの切り札と言っても過言ではありません。
テスト効果を利用した学習法は、文字テストを取り入れる学習法です。テストと言うと、学習した内容をどれくらい理解して覚えているか、いわば学力を判別するものだという印象が強いでしょう。そうであるなら、テストを受けること自体に学力を上げる力はないように思えます。
しかし、近年の研究によって、テストを受けるだけで学力が上がることがわかってきたのです。キモとなる点は、テストを受ける学習方法は、テストを利用しない学習方法よりも効率的だということです。つまり、テスト効果を利用すると、より短い学習時間で成果が上がるのです。
テストにより、記憶が「思い出しやすいかたち」になる
現時点の研究では、テストで学習を繰り返すことにより、蓄えられた記憶が「思い出しやすいかたち」に変形されるのではないかと考えられています。
ある事柄を事前に覚えたとしても、それを本番のテスト中に思い出せなければ好結果にはつながりません。先の仮説通りに、覚えた事柄がテストを利用した事前学習によって記憶から取り出しやすくなっていると考えると、テスト効果の不思議さにも納得できます。
ただ、こういった研究結果など知らずとも、テスト効果については多くの人が体感しているはずです。中高生の頃、参考書の覚えたい部分に緑のペンでマークし、赤いシートで隠して思い出すという方法で勉強をしませんでしたか?
そして、その勉強法はいまの子どもたちも実践しています。むかしからずっと生き残っている勉強法なのですから、すなわち効果がある勉強法だと見ることができます。
学習する順番で記憶のしやすさは変わる
また、テスト効果を活かすためにも知っておきたいのが、「系列位置効果」と呼ばれるものです。みなさんにも、こんな経験はないでしょうか。過去に「いい作品だな」と思った映画を久しぶりに観てみると、冒頭のシーンと最後のクライマックスはよく覚えていたのに、中盤のストーリーには「こんな話だったっけ?」と感じたようなことです。
これはまさに、系列位置効果が表れたケースの典型であり、同じようなことが勉強における記憶にも見られます。たとえば、複数の単語を覚えようとした場合、最初のほうに出てきた単語とあとのほうに出てきた単語はよく覚えられたのに、真ん中あたりに出てきた単語はあまり覚えられないといったことです。このような、情報が提示される順序によってその情報の記憶のしやすさが変わる現象を系列位置効果と言うのです。
参考書の内容を理解したいときは、まず頭から順に読んでいくのが一般的でしょう。ですが、復習して内容を記憶したいときには順番にこだわらないのが得策です。毎回、覚えたい部分の最初から復習を始めると、真ん中の部分は覚えられない可能性が高いからです。すべての項目を漏らさず記憶したいのなら、復習のたびに内容の順序を変えましょう。
逆に、しっかり記憶したい項目は意図的に最初や最後に学習するという手もあります。いずれにせよ、きちんと記憶したいのなら、ただやみくもに勉強をするのではなく、テスト効果や系列位置効果など、研究に裏打ちされた手法を活用していくことが肝要です。
【竹内龍人先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
記憶力低下に先延ばし癖……。多くの社会人を悩ませる「勉強の壁」はこう突破する
あえて、「あいだを空けよ」。効率的で学習効果を高める、多忙な人のための「分散学習」