何かの行動を「習慣にしたい」と思うとき、普通はなんらかの「結果を求める」ものです。「痩せるという結果が欲しいから、運動を習慣にしたい」「英語を話せるようになるという結果が欲しいから、英会話の勉強を習慣にしたい」。
なんの問題もないように思えますが、最新刊『習慣化は自己肯定感が10割』が注目を集める心理カウンセラーの中島輝(なかしま・てる)さんは、「結果を求めることが習慣化の失敗を招く」と言います。習慣化を成功に導くカギは、結果ではなく、中島さんが専門のひとつとする「自己肯定感」に着目することなのだそう。
構成/岩川悟・清家茂樹 写真/川しまゆうこ
「続かない」という悩みを解くカギ。それは自己肯定感
習慣化と自己肯定感。このふたつは切っても切れない関係にあります。しかも、ネガポジどちらの方向にも強く作用し合うのです。
たとえば、習慣化がうまくいかず、三日坊主で終わることがあります。そのとき、その人の自己肯定感は低く落ち込んでいて「自分はできる」「やれる」というあと押しが得られないため、やろうと思った習慣が持続しません。しかも、三日坊主で終わった自分を責めるので、さらに自己肯定感は下がってしまいます。
逆に、習慣化がうまくいっているとき、その人の自己肯定感は高まっています。だから、「大丈夫、うまくいく」「きっとできる」と、自分の可能性を信じることができ、新たな習慣がスムーズに身につくのです。しかも、その成功体験は自己肯定感をさらに高めてくれます。
まさに、「習慣化は自己肯定感が10割」なのです。
習慣化の失敗要因は、自己肯定感を高めるという視点の欠落
よい行動を実践し、習慣化にチャレンジする前に、注意点がひとつあります。それは、私たちは新しい習慣を生活に取り入れようと思うとき、「達成したい結果」を想像して、やる気を高め、スタートを切ろうとしてしまうことです。たとえば、こんなイメージです。
- 資格をとりたい。だから、毎日の勉強を習慣にする
- 副業で稼ぎたい。そのために1日1記事ブログに書く
- 英語を話せるようになりたい。だから、週3回、英会話を学ぶ時間をつくる
- 独立起業をしたい。その準備のため、毎朝、専門書を読む
- マラソン大会に出たい。だから、ジョギングを習慣化する
- リバウンドしないダイエットを成功させる。そのために食習慣を変える
求める結果のために、習慣という行動をつくり出すわけです。しかし、意志の力でスタートさせたほとんどの習慣は途中でやる気が息切れを起こし、うまく習慣化されずに途切れてしまいます。なぜなら、結果ありきの習慣は自己肯定感を低下させるからです。
たとえば、ダイエットを始めるとき、「痩せたい」という結果を求めて「○○ダイエット法」がおすすめする食習慣を取り入れ、行動を変えたとしましょう。でも、「○○ダイエット法」がすすめる食習慣は、あなたに好きなものを我慢させる方法である場合がほとんどです。あれは食べちゃダメ、これはカロリーが多すぎます、と。
続けるのは苦しく、しんどい。それでも痩せたいから頑張る。まさに意志の力ですが、これでは途中で投げ出してしまう可能性がありますし、マイナス3キロという結果が出た時点でつらい食習慣から解放されたと思うはずです。すると、次第にこれまで通りの食事に戻り、気づけばリバウンドしてしまいます。
結果を求め、新たな習慣を取り入れていくのは、理にかなったやり方のように思えます。ところが、ダイエットにしろ、禁煙にしろ、勉強にしろ、貯金にしろ、運動にしろ、「習慣化は大事。でも、続かない状態」に陥ってしまうのです。なぜなら、つらくて、しんどくて、それでも頑張らないといけないからです。
足りていないのは、自己肯定感を高めるという視点です。
新しいチャレンジに必要なことは「やる理由」
そこで、6つの質問を用意しました。何か新たな習慣を生活に取り入れたいと思うとき、この6つの問いを自問自答してみてください。すると、結果を求めて意志の力で行動を起こすのとは違ったスタートの切り方が見えてきます。
例として、6つの質問に「食習慣」と「勉強習慣」を当てはめてみます。
- あなたはなんのために、その習慣を必要としていますか?
→痩せるために新たな食習慣を必要としている
→英会話を上達させるために勉強習慣をもちたい - その習慣を達成させることが目標となり、無理をしていませんか?
→新たな食習慣は制限が厳しく、しんどい
→仕事が忙しくて、毎日、机に向かうことが目標になっている - どうしてそれを習慣化させようと思ったのですか?
→痩せるには食事を改善するべきだと思ったから
→英語が話せるようになるには勉強する必要があると思ったから - その習慣に取り組もうと思ったきっかけはなんでしたか?
→体重がこれまで未踏の○キロ台になってしまったから
→仕事で英会話を使う必要が生じたから - その習慣が実現したら、どんなすばらしい変化があると思いますか?
→目標としている体重までダイエットが成功する
→英会話がうまくなっていく - 習慣化されたことによって、あなたの人生はどう幸せになっていきますか?
→健康的で魅力的な体になって、自分に自信がもてる
→英語圏の人とコミュニケーションがとれて、いまよりもっと楽しい人生になる
じつは、6つの質問のなかで最も重要な問いかけは、「6. 習慣化されたことによって、あなたの人生はどう幸せになっていきますか?」です。この問いの答えに、習慣化がうまくいく秘訣が隠されています。
どんな自分になりたいか? ビジョンを描こう
「食習慣を新しくしたら、健康的で魅力的な体になって、自分に自信がもてると思う」
「勉強習慣を取り入れて、コツコツ英会話を学んだら、英語圏の人とコミュニケーションがとれて、いまよりもっと楽しい人生になると思う」
ポイントは、新しい習慣を取り入れ、それを習慣化したことで得られる結果を手にしたとき、あなたがどんな幸せを感じているかを知ること。結果のその向こうにある「なんのために(Why)」を深堀りすると、取り入れたい習慣を習慣化する本当の理由がはっきりと浮かび上がります。
つまり、「手に入れたい結果」から考えていくのではなく、「自分はなぜそうするのか」「どんな自分になりたいのか」に意識を向けること。これが、習慣化の定着と継続を成功させる秘訣です。
どんな自分になりたいのかを想像して、結果を手にしたときの幸せなイメージを膨らませていくと、自己肯定感が高まります。
- 資格をとりたい。だから、毎日の勉強を習慣にする
→職場でもっと頼りにされる自分になりたい - 副業で稼ぎたい。そのために1日1記事ブログに書く
→パートナーと協力して、暮らしが快適になるマンションを買いたい - 独立起業をしたい。その準備のため、毎朝、専門書を読む
→多くの人に役立つ事業のアイデアを実現したい - マラソン大会に出たい。だから、ジョギングを習慣化する
→子どもにかっこいいところを見せて、笑顔にしたい
こうした「どんな自分になりたいか」が明確な人は、やる気や失敗を受け止める力、ひとつの物事に集中する力、自分を許す力がもてるようになり、自己肯定感が高い状態で行動することができるのです。
※今コラムは、中島輝 著『習慣化は自己肯定感が10割』(学研プラス)をアレンジしたものです。
【『習慣化は自己肯定感が10割』より ほかの記事はこちら】
習慣化は自己肯定感を高めながら行なうとうまくいく。習慣化成功までの66日間の過ごし方
習慣化に3日で挫折する人としない人では「サボったあとの対処の仕方」が全然違う
【プロフィール】
中島輝(なかしま・てる)
「トリエ」代表。「肯定心理学協会」代表。心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。
https://ac-jikokoutei.com/