「ほかの人に頼むのは申し訳ない」と感じてひとりで仕事をたくさん抱えてしまったり、「どうお願いすればいいかわからない」と誰も頼れなかったりして、困ってはいませんか?
自分だけですべてをこなそうとするとストレスになりますし、仕事の進捗にも影響が出てしまいます。今回は、“助けられ上手” になるための「催眠言語」をご紹介しましょう。
「催眠言語」とは?
人から何かを頼まれる際、「これやっておいて」とだけ言われたら、誰だってやる気は出ないでしょう。むしろ、命令されているようで不快に思うことさえあるかもしれませんね。
相手を不快にさせずに頼み事をしたいときには、「催眠言語」を用いるのが効果的。これは、相手の潜在意識へ働きかける言葉の使い方を指します。たとえば、「最近お忙しいのは理解していますが、これをお願いしてもいいでしょうか? 社長も期待しています!」といった頼み方なら、先ほどのものに比べて悪い気分はしませんよね。
催眠言語はもともと、催眠療法家のミルトン・エリクソン氏が提唱している、クライアントに対して使用していた巧みな言葉遣いを分析し体系化した「ミルトン・モデル」がもとになったと考えられています。催眠言語を利用することで、相手へ抵抗感を与えることなく自分の意思を伝えられるのです。
ここからは、ビジネスの場面で使える催眠言語を具体的に4つ紹介していきましょう。
【方法1】「推量」で相手の負担をやわらげる
コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀氏によれば、「推量」の表現を用いると、自分の意思をうまく伝えられるそう。つまり、物事を断定せず「~かもしれない」などとあえて曖昧に伝えることで、相手の抵抗感を刺激せず、自分の頼みを素直に聞いてもらうことができるのです。
たとえば、「あなたがこれをやってくれないとまずい」と断定の口調でお願いすると、相手へプレッシャーを与えてしまいますよね。そこで「あなたにこれをやってもらえなかったら、まずい状況になってしまうかもしれない」と推量の表現を用いることで、相手の心理的な負担を減らしつつ頼むことができます。
しかし、本当にやってもらわないとまずい場合もあるでしょう。松橋氏は、断定の表現で伝えるほうがいい場面と、推量の表現で伝えるほうがいい場面の両方があると伝えています。仕事が切羽詰まっているときなどは、断定の表現を使うべきかもしれません。一方で、まだ余裕がある場面であれば、推量の表現を利用しお願いするようにしてみてください。
【方法2】「引用」で自分の説得力を高める
前出の松橋氏が言うには、「推量」のほか「引用」の表現も使えるのだそう。つまり、物事を直接的に頼むのではなく、第三者の存在を用いて自分の意思を伝えるということ。引用の表現ならば、相手はお願いされた印象を受けないため、抵抗感を抱きづらくなるそうです。部下や後輩など、目下の相手へ物事を頼むときに使える言い回しだと言えるでしょう。
たとえば、いくつかの作業について「先にこれをやってほしい」とお願いするよりも、「私の尊敬する上司が昔、先にこれをやっておいたほうがいいって言ってたんだ」と伝えるほうが、相手は素直に聞き入れやすくなりますよね。松橋氏いわく、自分だけでなく相手にとっても尊敬できる職場の人や、カリスマ経営者など広く影響を与えている人の言葉を引用するとより効果的だそうです。
あわせて、適した人物がもし思いつかなかった場合には、引用として「一般的に」という言葉を使うことができると言います。たとえば「この仕事で求められるスキルは、一般的にも身につけておいたほうがいいとされているよ」といったように、自分の意見を一般としての意見に代弁させてみてください。そうすれば、相手の共感を引き出すことができ、仕事上の頼みを聞いてもらいやすくなるでしょう。
【方法3】「イマジネーション」で相手の行動を促す
イギリスで催眠治療の教育を行なっているRory Z Fulcher氏は、「イマジネーション」を利用した催眠言語をすすめています。これは、わざと相手に理想を思い描かせることで、その理想に近づきたいと感じさせ、行為を促すことができるという手法です。
たとえば、「〇〇をしてもらえたら、あなたに対する上司の評価もきっと上がるでしょう」などと伝え、相手にとって好ましい状況を想像させます。すると「この仕事を引き受ければ、自分の評価は上がるはず」と相手は考えて、ただお願いしたときよりも仕事を積極的に進めてくれるようになるというわけです。
少し頼みづらいような仕事をお願いするときでも、「イマジネーション」なら相手へ悪い印象を与えません。やってほしい物事を押しつけずにすむどころか、相手が自ら納得して快く引き受けてくれるため、通常よりもはるかに頼みやすくなるでしょう。
【方法4】「前提」で自分の条件を暗に伝える
前出のエリクソン氏が提唱するミルトン・モデルでは、「前提」という催眠言語の要素が挙げられています。これは、相手との話し合いのなかで、自分が望む条件を無意識のうちに相手へ承諾させる方法です。
たとえば、前提を利用して次のような伝え方ができるでしょう。
- 「この仕事ですが、来週の水曜日までに終わりますか?」
一見、締め切りの時間を相手へ委ねているだけのように見えますが、そもそも仕事を引き受けてくれることが前提となっています。 - 「この企画の予算ですが、どの程度なら増やしてもらえますか?」
一見、予算額について確認しているだけのように見えますが、そもそも予算が増えることを前提としています。 - 「この取引を主導して進めてもらうことはできますか?」
一見、相手へ取引の主導をお願いしているように見えますが、そもそも取引が成立することが前提です。
このように、条件を相手へうまく承諾させる方向へ導くことができます。前提の表現は、交渉術としてよく用いられる手法です。相手へどうしても頼みたいことがあるときは、前提を意識して話すことで、余計な考えに及ばせることなくスムーズに物事が進むでしょう。
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催眠言語を用いる際は、相手が素直に納得してくれるような言葉選びが大切です。仕事で上手に頼み事をできるようになれば、自分の過度な負担も軽減していくことでしょう。
(参考)
日本NLP協会|ミルトン・モデル
コミュニケーション総合研究所|催眠言語
NLP-JAPAN ラーニング・センター|NLP用語集:ミルトン・モデル
HYPNOTC|Ericksonian language patterns and indirect hypnotic suggestions
【ライタープロフィール】
YOTA
大学では法律学を専攻。塾講師として、中学~大学受験の6科目以上の指導経験をもつ。成功者の勉強法、効率的な学び方、モチベーション維持への関心が強い。広い執筆・リサーチ経験で得た豊富な知識を生かし、効率を追求しながら法律家を目指して日々勉強中。