「他人への優しさ」が最終的にあなたにもたらしてくれる絶大なメリットについて。

他人に優しいと得する科学的理由01

ライバルには負けたくない、誰よりも成果を出したい、部下にはきちんと仕事を覚えてほしい――前のめりな気持ちで頑張るのも悪くないですが、決して忘れてほしくないものがあります。“他人への優しさ” です。

社会において優しさは必要なのか、むしろ自分が損をするだけなのではないかと疑問を感じる方もいるかもしれませんが……じつは優しさは、周囲の人だけでなく自分にも大きなメリットをもたらしてくれますよ。

今回は、他人に優しい人が得をする理由を学術的観点から説明します

社会間接互恵性――「情けは人のためならず」は本当だった!

優しさは本来誰かのために与えるものだが、それが巡り巡って自分のところに戻ってくる――「情けは人のためならず」ということわざがありますが、まさにこの言葉通りの仕組みが、私たちの社会でも起きているようです。

それを証明したのは、大阪大学大学院人間研究科の研究グループ。5~6歳の子どもを被験者に、ほかの子どもに利他行為(手伝ったり、おもちゃを貸したり、など)を行なった子ども(親切児)を見ていた別の子ども(親切行動観察児)が、その後どんな振る舞いをするか調べました。その結果、親切行動観察児が親切児に対して親切に振る舞うことが判明。要は、他人に親切にすると、その様子を見ていたほかの人から親切にされやすい――「親切が自分に返ってくる」ことが明らかになったのです。

他人への親切行為が自分への評価とつながり、第三者から恩恵を受ける――そのような社会の仕組みを「社会間接互恵性」を呼びます。上記の研究は、幼児期からすでに「社会間接互恵性」が働いていることを示したのでした。

たとえば、初めて挑戦した業務で失敗して落ち込んでいる後輩の姿を目にしたとき。その思いを丁寧に聞いてあげたり、あなたができうる限りのアドバイスをしてあげたりするのはいかがでしょうか。その様子を見ていた(あるいは、どこかに耳にした)同僚や上司が、あなたを評価すると同時に、あなたが困ったときに同じように助けてくれるかもしれません。

他人に優しいと得する科学的理由02

「共感的なリーダー」はチームパフォーマンスを上げられる

学術誌「The Leadership Quarterly」に掲載されたケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究論文は、共感的なリーダーシップがもたらすポジティブな影響を脳神経画像によって証明しました。

実験は、高度な専門職に就いている人々を被験者として実施。「共感的なリーダー」と「そうでないリーダー」の両方について、それぞれの出来事を思い出してもらいながら、脳のMRIを撮影したのです。

すると、「共感的なリーダー」を思い出した際はポジティブな反応が見受けられました。ミラーニューロンの領域、つまり “何かに共感する部位” が活性化されたのです。逆に「そうでないリーダー」を思い出したときは、同じ部位が負の影響を受け、注意力の低下などにつながることが明らかになりました。さらに、学術誌「Leadership & Organization Development Journal」に発表されたラ・トローブ大学の研究調査では、直属の上司への信頼度によって、コールセンターで働く150名の従業員のパフォーマンスが左右される結果に。

科学的な観点からも、リーダーの優しさは部下から好感を抱かれやすく、ひいてはそれが信頼度の強さに結びついていくのですね。

「部下やチームメンバーが思うとおりに動いてくれない……」とイライラしてしまうのならば、少し共感的な態度を示してみてはいかがでしょうか。接し方を変えれば、部下や周りからの信頼も得られて、職場の空気感も変えていけるかもしれません。

他人に優しいと得する科学的理由04

優しいと「ストレス耐性」も高まる

顧客とのトラブルやチームメンバーとの不和、通勤の際の満員電車など……仕事をしていると、ストレスの種に遭遇することは少なくないですよね。だからこそ、日頃から人に優しくしておくのは、やはりいいようです。

日本における “愛情ホルモン” オキシトシン研究の第一人者で、統合医療クリニック徳の院長を務める高橋徳氏は、「誰かに優しくすることは、ストレス耐性を高めてくれる効果がある」と説明します。

高橋氏によると、私たち人間にはもともと、ストレスを防御してくれるシステムが備わっているのだそう。ストレスを感じたとき、脳内ではCRF(Cortictropin Releasing Factor)というストレスホルモンが分泌されます。それに反応するようにして副腎から分泌されるのが、アドレナリンとコルチゾール。この両者は、ストレスホルモンであるCRFと戦う “防御システム” として機能してくれるのだとか。

しかし、ストレスフルな状態が長期にわたると、このストレス防御システムがうまく働かなくなり、CRFに対応しきれなくなることも。そんな状況を救ってくれるのが、愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンなのです。高橋氏は、マウスを使った実験により、「優しさ」がオキシトシンを積極的に分泌させる効果があることを発見しました。

高橋氏は、同じ部屋に入れたマウス2匹のうち1匹を、1日2時間部屋から出してストレスを与えたのち戻す、という実験を行ないました。すると、部屋から出されたマウスが戻ってきたとき、もう1匹の残されたマウスが、そのマウスの世話を始めたのです。このときのオキシトシンを測定したところ、世話を受けたマウスはもちろん、世話をしたほうのマウスにおいても分泌が確認されました

高橋氏はこのことから、人間も同じく、他人に優しくすることでオキシトシンが分泌されやすくなり、ストレスに強くなると述べます。さらに、感謝や思いやりの気持ちを頭に浮かべるだけでも、その効果が期待できるとのこと。

たしかに心から「ありがとう」と思えたときや優しい気持ちになったとき、気分がよくなりますよね。その気持ちを日々大切にすることは、ストレスにさらされる現代社会を乗り越えるうえで欠かせないのです。

他人に優しいと得する科学的理由03

他人に優しくするには「共感力」を持とう

「他人に優しく」――言うは易しですが、具体的なアクションがいまいち想像できない……という人も多いかもしれません。そこで鍵になるのは「共感力」。『損する気づかい 得する気づかい』の著書である八嶋まなぶ氏は、次のように述べています。

もしあなたが「共感力が不足している」と思うなら、“気持ちに寄り添う”というスタンスではなく、相手の気持ちに踏み込んで変にアドバイスし過ぎているのかもしれません。

(引用元:リクナビNEXTジャーナル|「共感力」を持っている人の特徴とは?高めるための“3つの方法”

「自分から何かしてあげよう」という過度な気持ちは必要ありません。八嶋氏によれば、相手側の話を頭から否定せず、じっくりと聞くことが、共感力を高める方法とのこと。とはいえ、ずっと聞きっぱなしというわけでもないのだそう。目安としては、「相手:自分=7:3」くらいの配分で話をするのがベストだそうです。さらに、会話を進める際に心がけるポイントは、以下の3つ。

  1. 自分が話の主役にならないよう、主語を入れ替えて観察する
    例:相手「この案件、最後までやり遂げる自信がないなあ」→ 自分(相手はどうして自信がないのだろう? 相手がそれを自分に言ってきた理由はなんだろう?)
  2. 話の中心が相手になるよう、「繰り返し」を使う
    例:相手「最近残業が続いていて、家帰ってもよく眠れないんだよね」→ 自分「そうなんだ。残業続きで眠れないんだね」
  3. 自分の意見を言うときは、あくまで寄り添うように「ひょっとしたら」をつけ加える
    例:相手「なにか打開策を考えないとな……」→ 自分「ひょっとしたら、ひとりで抱えこみすぎなんじゃないかな。簡単な雑務なら私も手伝えるよ」

相手の話を主軸に聞いてみると、相手が何に困っているのかが、よりわかりますよね。相手の気持ちを把握できれば、どうアドバイスをしたらいいか、どう励ましたらいいのか、自分なりのアクションも考えることもできるはずです。

***
優しくするのは、特別な何かをプレゼントすることだけではありません。相手の気持ちを考え、少しだけ自分が寄り添ってあげる――そうした心がけで、相手だけではなく、自分にもいいことがもたらされるでしょう。

(参考)
大阪大学|「情けは人の為ならず」を科学的に立証
ScienceDirect|Examination of the neural substrates activated in memories of experiences with resonant and dissonant leaders
emerald insight|The relationship between leadership and follower in‐role performance and satisfaction with the leader: The mediating effects of empowerment and trust in the leader
EMIRA|人に優しくするとストレスに強くなる! ホルモン物質「オキシトシン」の秘密
リクナビNEXTジャーナル|「共感力」を持っている人の特徴とは?高めるための“3つの方法”

【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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