組織が力を発揮するための鍵は「内発的動機づけ」にあり。その大前提はリーダーによる○○だった

斉藤徹さん「内発的動機づけの重要性」01

「内発的動機づけ」という言葉を知っているでしょうか。「行為そのものに対して本人の内面に湧いてくる興味・関心や意欲によって、その行為を行なおうとすること」です。

この内発的動機づけこそいまの会社組織に必要だと言うのが、起業家でありビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授でもある斉藤徹(さいとう・とおる)先生内発的動機づけの重要性、そしてメンバーに内発的動機づけをするためにリーダーが心がけるべきことを詳しく教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

「外発的動機づけ」によるやる気は長続きしない

社会の変化が激しく先の見通しを立てることが困難だといわれるいま、企業に求められるのが、「自走する組織」だと私は考えています。自走する組織とは、「社員ひとりひとりが自ら考えて行動し、さらにそうした社員どうしがコラボレーションして、ひとつの方向に向かってともに価値を生み出す組織」です(『「メンバーが自走できる」最高のチームをつくるため、リーダーが大切にすべき2つのこと』参照)。

その自走する組織をつくるためにリーダーがすべきことが、「メンバーが自走しやすい環境を提供する」こと。そして、そうするために重要な要素のひとつが、メンバーに『内発的動機づけ』をすることです。

内発的動機づけの解説をする前に、それと対極にある外発的動機づけについてお話しましょう。外発的動機づけとは、「行為そのものではなく、外部からもたらされるものを目標として、その目標を実現するために行為を行なおうとすること」を指します。

「外部からもたらされるもの」の代表格は、お金です。「いつもの業務に加えてこの仕事をしてくれたら、5万円支払うよ」と言われたら、みなさんならどうしますか? 仕事内容にもよると思いますが、多くの人がその仕事に対するやる気が高まるでしょう。これが外発的動機づけの力です。

ところが、外発的動機づけには落とし穴があります。それは、「やる気が一時的にしか続かない」ことです。一定の時間が経過すると、「外部からもたらされるもの」に慣れてしまうからです。先の例で言えば5万円に慣れてしまい、その金額ではやる気が湧いてこなくなるために、要求する報酬がエスカレートしていきます。

もっと極端な例を挙げてみましょう。無報酬でも仕事を楽しんでやっている人がいるとします。でも、その人に対してお金を支払うようにしました。つまり、外発的動機づけをしたわけです。すると、その人はお金を得ることを目的とするようになる。その後、お金を支払うことをやめると、その人はその仕事をしようとは思わなくなってしまいます。外発的動機づけをきっかけに、以前なら報酬などなくとも楽しんでやっていた仕事に意味を見いだせなくなったということです。

斉藤徹さん「内発的動機づけの重要性」02

 

「内発的動機づけ」のために「ジョブ・クラフティング」を促す

メンバーからの要求がエスカレートし、場合によってはメンバーが仕事に意味を見いだせなくなってやる気を失ってしまう……。そんなことは、会社組織においては避けなければなりません。

そこで重要となるのが、内発的動機づけです。内発的動機づけとは、「行為そのものに対して本人の内面に湧いてくる興味・関心や意欲によって、その行為を行なおうとすること」を指します。

では、内発的動機づけをするため、リーダーにはどんなことができるでしょうか? 私からは、メンバーがジョブ・クラフティングをできるように促すことをおすすめします。ジョブ・クラフティングとは、「従業員ひとりひとりが、仕事のとらえ方や業務上の行動を自ら修正すること」。やらされ感のある仕事も、やりがいのあるものに変容させられるというメリットをもちます。簡単に言うと、「仕事を自ら手づくりする」ことです。

清掃員を例に挙げましょう。やらされ感のある仕事のように思う人もいるかもしれませんが、やりがいをもって清掃という仕事を楽しんでいる清掃員だっています。その違いは、仕事のとらえ方や工夫によるものです。

「清掃している施設の利用者にもっと気持ちよく過ごしてもらいたい」思いから、「どうすればもっときれいにできるだろう」と考えて、清掃の手順を自ら見直すこともあるでしょう。あるいは、清掃そのものではなく、利用者たちとの会話を楽しむようなところに、おもしろみや仕事の意味を見いだすことも考えられます。

チームのメンバーがそんな働き方をしてくれたら、まさに「自走する組織」となるはずです。しかし、「ジョブ・クラフティングをしろ」とメンバーに押しつけてしまっては、そこにはやらされ感しかありません

リーダーがやるべきことは、自らの経験を話すこと。いまはリーダーとなっている人にも、若手のときには仕事にやりがいやおもしろみを見いだせずに悩んだ経験もあるはずです。そこからどのようにしてやりがいやおもしろみを見つけたのか、その経験を包み隠さず話しましょう。すぐにとは言わずとも、そのメンバーは自分にとっての仕事の存在意義について深く考えるようになり、いずれジョブ・クラフティングをするように変わってくれるはずです。

斉藤徹さん「内発的動機づけの重要性」03

ジョブ・クラフティングを促すために、メンバーの話を「傾聴」する

加えて、リーダーにはぜひ傾聴することも心がけてほしいと思います。仕事に対してやる気を失っているときは、なんらかの問題や悩みを抱えていることが多いからです。そんなときにいくらジョブ・クラフティングの話をしても、相手は聞く耳をもってくれません。

ただ、ビジネスの場では、傾聴できているようでできていないものです。たとえば会議での誰かの発言が自分の意見と違っていたら、発言を聞きながらも「あの発言は絶対に間違っている」「あとでこういう反論をしよう」などと考えがちです。これは、傾聴とはほど遠いものです。

そうではなく、「何か問題や悩みがある?」と聞き、メンバーが話し始めたなら、「そういうことがあったのか」とそのまま受け止めてあげるのです。相手からすれば、自分でもはっきり認識できていなかった問題や悩みを言語化でき、また理解者ができたことですっきりします。

もちろん、その問題が放置しておいてはいけないものならば、改善すべきです。業務を抱えすぎていたためにやる気を失っていたのなら、緊急性や重要性の低い仕事の担当から外すといったことです。そうして時間と心の余裕をつくってあげれば、ジョブ・クラフティングについての話にもきっと耳を傾けてくれるでしょう。もちろん、「押しつけてはいけない」ことは忘れずに。

斉藤徹さん「内発的動機づけの重要性」04

【斉藤徹先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
「メンバーが自走できる」最高のチームをつくるため、リーダーが大切にすべき2つのこと
強いチームの必須条件「心理的安全性」を築けるリーダーの7つの特徴。最重要は “この2つ”

だから僕たちは、組織を変えていける

だから僕たちは、組織を変えていける

  • 作者:斎藤徹
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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【プロフィール】
斉藤徹(さいとう・とおる)
起業家、経営者、研究者、執筆者。株式会社hint代表。株式会社ループス・コミュニケーションズ代表。ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授。1985年、日本IBMに入社。1991年に独立し、フレックスファームを創業。2005年にループス・コミュニケーションズを創業。30年におよぶ起業家、経営者としてのビジネス経験に基づき、知識社会における組織の在り方を提唱している。2016年から学習院大学経済学部経営学科の特別客員教授に就任。2020年からはビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授として教鞭をふるう。2018年に開講した社会人向けオンラインスクール「hintゼミ」には大手企業社員から経営者、個人に至るまで多様な受講者が在籍し、期を増すごとに同志の輪が広がっている。企業向けの講演実績は数百社におよび、組織論、起業論に関する著書も多い。主な著書に『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)、『業界破壊企業』(光文社)、『再起動 リブート』(ダイヤモンド社)、『ソーシャルシフト 新しい顧客戦略の教科書』(KADOKAWA)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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