寝る前10分の “書く” 瞑想。「日記×マインドフルネス」の組み合わせがメンタル不調時に最適だった

「セルフ・ナレーション日記」をやってみた01

「不安や不満をため込んで、精神的に疲れてしまった……」
「前向きな気持ちになれず、仕事や勉強に身が入らない……」

こうしたメンタルの不調に悩んでいる方は、マインドフルネスと日記をかけ合わせた「セルフ・ナレーション日記」を試すとよいかもしれません。その方法や効果を、筆者の実践例とともにご紹介しましょう。

「セルフ・ナレーション」はマインドフルネスの一種

セルフ・ナレーションとは、自然と湧き起こった感覚や思考を観察する「観察瞑想」と呼ばれる、マインドフルネスの技法のひとつ。簡単に言うと、テレビやラジオの実況中継のように、自分の状態を「第三者の目線から説明する」ことを頭のなかで行なうというものです。

臨床心理士の関屋裕希氏いわく、セルフ・ナレーションを行なうと、自分の体験と適度な距離をとれるとのこと。結果として、感情に振り回されることも減ります。

たとえば、同僚と意見が対立してイラっとしたとしましょう。このとき、自分がいま体験している感情を少し遠い距離から眺めるつもりで、「自分はいま腹立たしいと感じている」とナレーションしてみます。すると、おのずと冷静さを取り戻せるのです。結果、イラっとして暴言を吐くといった感情任せの対応ではなく、「こうしてみてはどうだろう?」と筋道立てて相手と話すことができます。

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓氏は、マインドフルネスには、恐怖や強い感情を感じたときに働く脳の「扁桃体」が活性化するのを鎮める働きがあると説きます。マインドフルネスを実践すれば、感情や思考を無理に抑え込もうとしたり、逆に振り回されたりせず、平静な心で素直に自分と向き合う力が身につくそうですよ。

「セルフ・ナレーション日記」をやってみた02

 

セルフ・ナレーション日記のやり方

セルフ・ナレーションを頭のなかだけでやろうとしても、いきなりは難しいでしょう。そこで関屋氏は、1日の終わりに今日の出来事を思い出してセルフ・ナレーションをしながら記録する「セルフ・ナレーション日記をすすめています。

記録するのは、考え」「感情」「身体感覚」「行動的な衝動・行動傾向」「記憶の5項目。第三者の目線で表現することを心がけるといいそうです。

では、各項目の書き方を説明します。例として「チームメンバーで自分だけ上司に叱られた」という出来事があった日の、セルフ・ナレーション日記の文例とともにご紹介しましょう。

  1. 考え
    出来事が起きたとき、その場でぱっと頭に思い浮かんだことを「~と考えている」と表現する。
    例)自分だけが損をしていると考えている。
  2. 感情
    出来事が起きたときの感情を「~という気持ち・感情がある」と表現する。「底なし沼にハマったみたい」と比喩で表現してもよい。
    例)いらだって、いてもたってもいられないような感情がある。
  3. 身体感覚
    出来事が起きたとき、身体にどんな生理的な反応があったかを「○○に~という感覚がある」と表現する。
    例)頭にカッとする感覚がある。
  4. 行動的な衝動・行動傾向
    出来事が起きたときに、どんな行動をとりたくなったかを「~~したいという衝動がある」と表現する。
    例)上司に直接ひとこと言ってやりたいという衝動がある。
  5. 記憶
    出来事が起きたときに思い出した過去の似たような状況について「~の記憶が浮かんでいる」と表現する。
    例)学生時代、自分だけ部活の顧問に叱られたときの記憶が浮かんでいる。

過去の記憶も一緒に記録するのは、過去と現在の情報(感情や経験)を組み合わせて、よりよい意思決定を導き出すためだそうです。自分だけ部活の顧問に叱られたとき、またほかの似たような状況ではどうやって切り抜けたのかを思い出してみると、今後の対策も考えやすくなります。

慶應義塾大学SFC研究所・上席所員の西本真寛氏によると、マインドフルネスには、脳のネットワークであるデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)を活性化させる働きがあるそう。このDMNが活性化すると、想像力や発想力が高まると期待されています。セルフ・ナレーションをしているときなら、困り事へのよい対策を考えられそうですね。

また、セルフ・ナレーション日記を推奨する東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野によると、セルフ・ナレーションを行なうには1日10分あればいいとのこと。たった10分なら、1日の終わり、寝る前でも実践できそうです。

「セルフ・ナレーション日記」をやってみた03

セルフ・ナレーション日記をやってみた

筆者も実際に12日間、セルフ・ナレーション日記を実践してみました。使用したノートはB5サイズ(罫線7mm、30行)。また日記を見返したとき、何について書いたのかがわかるよう、その日の出来事を「新しい仕事を任された件」のように、5項目を書く前に書き加えています。以下がその紙面です。

「セルフ・ナレーション日記」をやってみた04

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ある1日の記録を取り出してみましょう。

4月11日(月)

出来事:仕事が終わらず、夜遅くまで残業したことについて。
考え:どこから手をつければいいのか……と考えている。
感情:憂うつな気持ちがある。
身体感覚:全身に、鉛のように重いという感覚がある。
行動傾向:目覚まし時計をかけず、思いきり寝たいという衝動がある。
記憶:半年前の、納期に追われた日の記憶が浮かんでいる

関屋氏は手書きを指定しているわけではありませんが、今回、筆者は手書きで記録しました。国内における自律神経研究の第一人者である小林弘幸氏によると、手書きでゆっくりと丁寧に文字を書くと、気持ちが穏やかになり、自律神経のバランスが理想的な状態になる働きが期待できるのだそうです。

また、あえて時間のかかる手書きで行なうからこそ、自分の状態をゆっくりと見つめ直すことができ、セルフ・ナレーション日記の効果を得やすいだろうと筆者は考えました。

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セルフ・ナレーション日記を実践したら自分とうまく向き合えた!

では、最後に、「セルフ・ナレーション日記」を実践して感じた効果や提案したいことを以下にまとめます。

自分の気持ちに素直になれて、心が軽くなった

これまでは、イライラや不安があると自覚しながらも、何が原因なのか、自分はどうしたいのかがわからないまま放置することが多くありました。今回、セルフ・ナレーション日記を実践したことによって、自分の素直な気持ちと丁寧に向き合うことができました

たとえば筆者には、仕事相手に不満があると、イラっとする気持ちを押し殺す癖がありました。今回セルフ・ナレーション日記で「怒っている自分」に気づき、それを受け入れただけでも気持ちがとても楽になったことを実感。

また、「ひとこと言ってやりたい」という行動傾向を第三者の目線で観察すると、冷静さを取り戻せて「では、どう伝えるのが最善か?」と問題を前向きに考えることができました。こうして、ありのままの自分を受け入れ、状況の改善に取り組んだことで、ストレスが解消されたと感じています。

「ポジティブな出来事」も日記に書くといい

前出の星氏いわく、マインドフルネスには、ポジティブな気持ちを維持しやすくして、人生の意義や幸福感を高める働きもあるそう。

そこで筆者も、「新しい仕事を任された」「部屋の掃除がはかどった」など、よい出来事が一番に思い出されたときには、ポジティブな内容を日記に書いてみました。また休日にも、できるだけポジティブな内容を書くように。すると、幸せをかみしめるような感覚が生まれ、気持ちよく眠りにつき、翌日の仕事に高い意欲で取り組むことができたのです。

みなさんも、ネガティブな出来事に限らず、休日に息抜きができたらそのポジティブな内容も書いてみるといいかもしれません。

***
不安や不満をため込んで疲れきっている心をほどいてくれる、セルフ・ナレーション日記。1日10分程度でできるので、ぜひ試してみてくださいね。

(参考)
関屋裕希 (2018), 『感情の問題地図 ~「で、どう整える?」ストレスだらけ、モヤモヤばかりの仕事の心理』, 技術評論社.
ダイヤモンド・オンライン|【最新脳科学×心理学】マインドフルネスが子どもの「心」も「頭」も「自己肯定感」も良くする科学的な理由
NIKKEI STYLE|疲れない脳をつくる 1日1回プチ瞑想のススメ
いまここケア|実況中継のようにナレーションしてみるマインドフルネス
STUDY HACKER|“手書き” で心をゆっくり整える。名医が教える2つの「休息の習慣」

【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。

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