文章は9割が「素材」でできている。書き始める前に “この3要素” に着目せよ!

上阪徹さんインタビュー「素材を集め、文章を書く方法」01

「文章は『素材』が9割」。そう言いきるのは、数々のベストセラーを生み出し、「ブックライター塾」も開講しているブックライターの上阪徹(うえさか・とおる)さん。上阪さんによれば、どんなに文章力がある人も、素材がなければ文章は書けないとのこと。

では、どうすればその重要な素材を集められるのでしょうか。「素材とはなにか」というお話から、素材を使って文章を書く方法などを詳しく教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

書くことの材料である「素材」がなければ、文章は書けない

文章を書き始める前に最も重要となるのは、その文章を書く目的と読み手に対する意識です。それがないと、「誰に対してなにを伝えるべきか」という目的を果たせず、読み手が求めてもいない的外れの文章になってしまいます(『「文章が下手な人」に決定的に欠けていること。あなたに読み手への “サービス精神” はあるか?』参照)。

それらがきちんとあったうえで、文章を書くための材料である素材も用意しなければなりません。では、その素材とはいったいなにか? 私は、事実」「数字」「エピソードだと考えています。ちなみにエピソードとは、会話や感想のことを指します。もちろん文章の種類にもよりますが、多くの文章は、じつは9割ほどがこの3つの要素でできているのです。

ここで、ひとつの例を見てもらいましょう。これは、日本経済新聞のとある記事です。

トヨタ協業 1800万台連合 スズキと包括提携

トヨタ自動車が異業種との競争もにらんだ巨大連合づくりを進める。6日、スズキと環境技術などで包括的な業務提携を結ぶと正式発表した。トヨタは2014年に年間販売台数が1千万台を上回り、燃料電池車(FCV)など新技術の実用化で先頭を走る。ただIT(情報技術)企業など異業種の参入により競争環境は様変わりし、「1800万台連合」で勝ち残りをめざす。

(『日本経済新聞』・2017年2月7日朝刊1面より)

この文章は、以下のような4つの文章から成り立っています。

  • トヨタ自動車が異業種との競争もにらんだ巨大連合づくりを進める
  • 6日、スズキと環境技術などで包括的な業務提携を結ぶと正式発表した
  • トヨタは2014年に年間販売台数が1千万台を上回り、燃料電池車など新技術の実用化で先頭を走る
  • ただ、IT企業など異業種の参入により競争環境は様変わりし、「1800万台連合」で勝ち残りをめざす

見てもらえればわかるとおり、「異業種との競争もにらんだ」「先頭を走る」「競争環境は様変わりし」以外の記述はすべて事実や数字といった素材で構成されています。

上阪徹さんインタビュー「素材を集め、文章を書く方法」02

「形容詞」に縛られることなく、事実や数字を探す

つまり、素材さえあれば文章は書けるし、素材がなければ文章は書けないとも言えます。大切なのは、どう書くかという「How」ではなく、なにを書くかという「What」です。そこに気づくことができれば、書くべきこと、集めるべき素材がおのずと見えてくるでしょう。

ここでひとつ、私のエピソードを紹介します。私はかつてリクルートグループで求人媒体のコピーライターをしていましたが、新人コピーライターがつくりがちなキャッチフレーズがありました。それは、ちょっと極端な例かもしれませんが、「いい会社です」といったもの……(苦笑)。なにをもっていいのか、まったくわかりませんよね。

すると、未熟なコピーライターは、今度は「いい」という言葉に変わる表現を探し始めます。「素晴らしい」とか「魅力的な」といった具合です。でも、そのように「形容詞」に縛られているうちは、「いい会社です」となんらかわりません。そうではなく、事実や数字、エピソードに注目すればいいのです。

たとえば、「創業以来、2桁の増収増益が続いている」「この10年間、社員がひとりも辞めていない」「社員の誕生日に社長がプレゼントをくれる」だったらどうですか? 「いい会社です」なんて言葉よりも、よほどその会社のよさが読み手に伝わりますよね。事実、数字、エピソードを素材にすることで、文章に説得力が生まれるのです。

上阪徹さんインタビュー「素材を集め、文章を書く方法」03

読み手に話すイメージで文章の骨組みをつくる

このことがわかれば、素材を集めるときの意識やメモする内容も変わってきます。形容詞で表現するのではなく、いかに事実、数字、エピソードを集めるかに意識が向かうようになるのです。そうなればしめたもので、おのずとたくさんの良質な素材を集められるようになるでしょう。

また、素材を集める際には、五感を使うことも意識してほしいポイントです。文章力とは、「再現力」と言うこともできます。もちろん書く文章の種類にもよりますが、出張レポートのようなものなら、出張先での自分の体験を読み手が追体験できるような文章にできたならベストと言えるでしょう。そのために、見たことや聞いたことはもちろん、場合によっては匂いや触れたり味わったりした感覚までメモすることが大切です。

そうして素材が集まったら、あとは書くだけ。でも、その前に素材を整理しなければなりません。まずはばーっとメモに目を通して、どの素材が使えるかをチェックしましょう。そのとき、上司や同僚など読み手の違いによって、必要なものや不要なものも変わってきますから、当然ながら読み手を意識することも大切です。

そして、それらの素材をどういう順で伝えれば相手によりわかりやすく伝えられるのかを考え、骨組みをつくるイメージで書き始めます。細かい部分の修正といった肉づけは後回しでかまいません。骨組みさえしっかりできれば、肉づけはそれほど難しい作業ではないと思います。

その骨組みをつくるときのアドバイスを最後にしておきましょう。それは、目の前にいる読み手に話すイメージで骨組みをつくるということです。みなさんも、話すときには「どういう順で話したら相手に伝わりやすいか」と、意識的ではないにしても考えているのではないですか? たとえば、多忙な上司をつかまえて話をするときには、「時間をとらせちゃまずいから、結論から言おう」とか、なんらかの提案をするときには「この話のあとにこのデータに触れたら説得力を出せるな」といったふうに。それと同じことを、文章を書く際にも取り入れてみてください。

上阪徹さんインタビュー「素材を集め、文章を書く方法」04n

【上阪徹さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「文章が下手な人」に決定的に欠けていること。あなたに読み手への “サービス精神” はあるか?
いい文章を書こうとして失敗する人の残念な特徴。「うまく書きたい」という思いは捨てなさい

【プロフィール】
上阪徹(うえさか・とおる)
1966年5月11日生まれ、兵庫県出身。ブックライター。1989年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルートグループなどを経て、1994年よりフリーランスに。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍などで幅広く執筆やインタビューを手がける。寄稿している主な媒体は『GOETHE』(幻冬舎)、『AERA』(朝日新聞出版)、『週刊現代』『現代ビジネス』(講談社)、『ForbesJAPAN』(リンクタイズ)、『リクナビNEXTジャーナル』(リクルート)、『理念と経営』(コスモ教育出版)等。『メモ活』(学研プラス)、『職業、挑戦者 澤田貴司が初めて語る「ファミマ改革」』(東洋経済新報社)、『サイバーエージェント 突き抜けたリーダーが育つしくみ』(日本能率協会マネジメントセンター)、『人生で一番大切なのに誰も教えてくれない 幸せになる技術』(PHP研究所)、『プロの時間術 大人の時間割を使えば、仕事が3倍速くなる』(方丈社)、『これなら書ける! 大人の文章講座』(筑摩書房)、『マイクロソフト 再始動する最強企業』(ダイヤモンド社)、『企画書は10分で書きなさい』(方丈社)など著書多数。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品も80冊以上にのぼる。累計40万部のベストセラーになった『プロ論。』(徳間書店)などインタビュー数も多い。近年は、講演活動の他、「上阪徹のブックライター塾」を開講するなど活躍の場を広げている。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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