「わたしが困っているのは絶対にわかっていたはずなのに、なぜあの人は手伝ってくれなかったのだろう。期限に間に合わずミスまでしたのは、手伝ってくれなかったあの人のせいだ!」 とイライラする人がいる一方で、他者の協力を得て悠々と仕事をこなし、ストレスフリーな笑顔を見せている人がいます。
わたしたちが思うほど、人は他者の要求を感じ取ることができないそうですよ。もしも冒頭で示した例の前者が当てはまるならば、社会心理学者が教えてくれる「助けの上手な求め方」を心得ておきましょう。まずは「透明性の錯覚」から説明します。
透明性の錯覚とは?
「透明性の錯覚」は、社会心理学者のT・ギロヴィッチ(Thomas Gilovich)氏らが1998年に発表した、代表的な認知バイアス(脳のクセ)のひとつです。
ほかの人に、自分の考えていることや感じていることが、実際以上に伝わっていると考えてしまう傾向を指します。具体的には次のとおりです。
- 「ウソがばれているかも……!?」→実際には露見していない
- 「わたしの気持ちをわかってくれている」→実際には理解されていない
「助けてほしい」といえばいい
社会心理学者のハイディ・グラント氏は、多くの人が「透明性の錯覚」のせいで、次の行動をしがちであるとTEDで説明しています。
- いずれ誰かが、自分の要求に気づいてくれると考える
- 誰かが自分に対し、助けを申し出ることをジッと待っている
しかし、ある調査では、職場における同僚同士の助け合いの約9割が、ハッキリと「助けてほしい」と依頼された場合によると、明らかになっているそうです。
また、どんなに親しい関係であっても、どう手助けしていいのかわからないものなのだとか。したがって、助けてほしいときに必要な行動は次のとおり。
- 明確に「助けてほしい」と伝える
- 「どう助けてほしいのか」伝える
これらを行なわない限り、相手は対応のしようがありません。
「助けの上手な求め方」とは?
ハイディ・グラント氏は「助けの上手な求め方」として、次のことを挙げています。
- ハッキリ「助けてほしい」という
- 何をしてほしいのか明確にする
- その後の報告とお礼をする
少し説明すると――
1. ハッキリ「助けてほしい」という
第一の基本です。自分にも透明性の錯覚があると意識しましょう。あなたの欲求は、あなたが思うほど相手に伝わっていない可能性が大きいのです。
2. 何をしてほしいのか明確にする
第二の基本です。たとえば「ただでさえ忙しいのに、たまたま課長と目が合ったら資料の整理を頼まれちゃった」などとだけ同僚にいい、相手が察してくれるのを待ってもムダです。
同僚に対し「皆で使っている資料の整理を頼まれたけど、〇〇〇のレポートを△時まで提出したいので30分ほど手伝ってほしい」と明確に伝え、同じく課長にもレポートの件と「〇〇さんに30分ほど手伝ってもらいます」とハッキリ伝えてみてはいかがでしょう。
3. その後の報告とお礼をする
第三の基本です。“人助けをした人が報いられる部分は、助ける行為そのものである” といった考えは誤解だと、ハイディ・グラント氏は話します。正しくは、「助けが役に立ったのかどうか知ること」なのだそう。
助けてもらった当日に、たとえば 「一緒に本を探してくれてありがとう! 」 で終わるのではなく、必ず後日にも、 「この前、本を探すのを手伝ってくれたおかげで、すごくいい資料ができたよ。本当にありがとう!」 と伝えましょう。
助けを求める際に避けたいこと
ハイディ・グラント氏のアドバイスによると、上手に助けを求めたいなら、次の内容は避けたほうがいいそうです。
- 弱みを隠すための説明
- 支払いの提示や動機づけ
- メールなどで頼む
1. 弱みを隠すための説明は避ける
もしも、あなたが助けを求められる立場だとして、最初に相手から、
- 「本当はこんなお願いしたくないけど……」
- 「頼まないで済むならそうしたいけど……」
- 「本来なら助けてほしいなんていわないけど……」
などといわれたらどうでしょう。助ける意欲を失くしてしまうのではないでしょうか。「あなたに頼みたくない」といいながら、助けを求めてくるのですから居心地悪いですよね。 他人に「弱み」を見せることを嫌う人は少なくありません。でも助けてほしいなら、
- 「ぜひ、あなたに助けてほしい」
- 「どうか、あなたに手伝ってほしい」
と素直に告げましょう。
2. 支払いの提示や動機づけは避ける
よく知らない相手なら問題ないけれど、親しい友人や同僚に対して助けを求める際、先に金銭の支払いを提示したり、動機づけしたりすることには注意が必要だと、ハイディ・グラント氏はいいます。
なぜならば、たとえば引っ越しを手伝ってほしいときの「支払いの提示」、あるいは仕事を手伝ってほしいときの「夕飯をごちそうする」といった動機づけのせいで、取引のようになり、距離が生まれてしまうからです。
距離ができると、むしろ助けを得られる可能性が下がってしまうのだとか。
先に提示するのではなく、後日報告をしながら「おかげで本当に助かった」と深くお礼を述べ、その際にちょっとした贈り物をしたり、お礼にコーヒーでも奢らせてと告げたりするのがおすすめです。
3. メールなどで頼むのは避ける
ある研究によると、メールやメッセンジャーで頼むよりも、対面あるいは電話で直に頼んだほうが、助けを得られる確率が30倍に増えるそうです。 本当に人の助けが必要ならば、顔を見て、あるいは声を聞き、直に頼みましょう。
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筆者はずいぶん前、あるクライアントから、2種類の言葉をもらいました。いずれも、海外の展示会の準備・片づけやブース来場者の対応を少人数で取り組んだ仕事です。内容は次のとおり。
- 「誰かひとりでも多く手伝ってくれると、本当にいろいろと助かります」
- 「〇〇さんがいてくれると、心強いので本当に助かります」
筆者が意欲を高め、またこのクライアントを必ず助けようと思えたのは後者。仕事としての対価が発生したので、今回のテーマである「助け」とはまた少し違いますが、明確であることが、大きな効果をもたらすひとつの例です。
もしも、あなたが誰かに「その後の報告とお礼」をする際には、ぜひシンプルな言葉で真摯に、ハッキリと名指ししたうえで告げることを強くおすすめします。きっと、持続性のあるいい関係が生まれるはずです……!
(参考)
TED Talk|ハイディ・グラント: イエスと言ってもらえる助けの求め方
錯思コレクション Collection of Cognitive Biases|他者・自己|透明性の錯覚
Wikipedia|Thomas Gilovich
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。