「自分に厳しく、ささいな失敗も許せない」
「ほかの人と比べては、至らなさに落ち込んだり、妬んだりしてしまう」
完璧主義であればあるほど、こうした思考から抜け出せず、苦しんでしまいがちですよね。完璧主義をやめたい人は、ぜひ「自分を許せる能力=セルフ・コンパッション」を身につけませんか?
セルフコンパッションとはどんな能力で、身につけるとどのようなメリットがあるのか、説明しましょう。
セルフ・コンパッションとは――「わがまま」「自己愛」とは違う!
セルフ・コンパッションは、自分への優しさ・慈しみ・慈愛・慈悲などと訳されます。“自分に優しく” というと、「“わがまま” とか “自己愛” とかとはどう違うの?」と混同する人もいるかもしれませんね。
しかし、関西学院大学教授の有光興記氏は、自己愛とセルフ・コンパッションには明確な違いがあると述べます。
自己愛とは、自分を等身大より大きく見せたり、「自分はすばらしい人間だから」などと理由をつけてわがままに振る舞ったりすることで、満たされるもの。現実を直視せず、自分を甘やかして努力しないため、そこから自分を成長させることはできないと、有光氏は指摘します。
一方で、セルフ・コンパッション能力が高い人は、自分を大きく見せようとしません。失敗や苦悩を直視し、それらも含めて、あるがままの自分を受け入れて成長につなげます。これが、自己愛とセルフ・コンパッションの大きな違いなのです。
セルフ・コンパッションとは、すなわち「自分を許せる能力」。自分に厳しいだけが正解ではないのです。それでは、このセルフ・コンパッションを身につける具体的なメリットを紹介していきましょう。
【セルフ・コンパッションのメリット1】周囲の評価に振り回されなくなる
完璧主義の人は、周囲の評価を気にしすぎる傾向があります。しかし、セルフ・コンパッション能力が高くなると、いい意味で周囲の評価が気にならなくなり、失敗や挫折にも寛容になります。これは、セルフ・コンパッションを構成する要素のひとつ、「共通の人間性」によるものです。
共通の人間性とは、自分が経験した失敗や苦労を他者も経験する可能性があると認識することで、苦しみを緩和する能力のこと。先述の有光氏によると、共通の人間性があれば肯定的な感情が湧きやすく、嫌な出来事があっても、「失敗は誰にでもある」「長い目で見れば問題ない」など平静な考えができるのだそうです。
カリフォルニア大学バークレー校のセリーナ・チェン教授は、論文『セルフ・コンパッションは自分とチームを成長させる』のなかで、これをビジネスパーソンの成長に欠かせない能力だと述べています。
この傾向が強い人は、自己を成長させるモチベーションが高く、強いオーセンティシティ(自分に嘘偽りがない性向)を示す。この2つはリーダーシップの発揮を促すなど、キャリアでの成功を支える重要な要素である。
(引用元:ハーバード・ビジネス・レビュー|セルフ・コンパッションは自分とチームを成長させる)
【セルフ・コンパッションのメリット2】他者への寛容性がチームの成長を促す
完璧主義の人のなかには、周りにも厳しい人がいますよね。しかし、高すぎる理想を周囲にぶつけても、組織のなかで浮いてしまいます。
セルフ・コンパッション能力が高くなると、自分の失敗や挫折だけでなく、他者の失敗に対しても寛容になれると、スタンフォード大学経営大学院のリア・ワイス博士はいいます。つまり、共通の人間性によってもたらされる肯定的な感情が、他者に向けられるようになるのです。
たとえば、同僚あるいは部下が仕事をミスをした際に「一緒に解決しよう」という感情がわき上がりやすくなったり、周囲からのフィードバックを否定的なものも含めて素直に聞き入れられるようになったりします。その結果、個人の成長のみならず、チーム全体の効率的な成長も促すことができるのです。
共感や思いやりは、ビジネスを成長させていく上で不可欠なものなのです。周りの人を大切にすればするほど、よりよい協力関係が生まれ、目標を達成する力も高まります。長期的に見れば、それが会社を成長させる原動力となるのです。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|なぜスタンフォードでは「リーダーは自分を思いやれ」と教えるのか)
【セルフ・コンパッションのメリット3】先延ばし癖がなくなる
意外に感じる人もいるかもしれませんが、完璧主義者には先延ばし癖のある人が少なくありません。DaiGo氏によれば、その原因は、失敗によって受けるストレスが大きいため「失敗したくない」という気持ちが生まれてしまい、挑戦することができなくなることにあるのだそう。
一方で、セルフコンパッション能力を高め、ありのままの自分を許せるようになると、たとえ失敗しても「失敗を次に活かそう」と思えるので、先延ばし癖がなくなるとのこと。そして、セルフ・コンパッション能力が高く、先延ばし癖がない人ほど、実際には目標達成能力も高いとDaiGo氏はいいます。加えて、完璧主義に多い自己批判も減るため、ストレスの軽減にもつながるのだそうです。
自分を責めることは得にはならず、先延ばしを誘発してしまう。大事なのは自分の弱いところを受け入れた上で、対策を練るという事です。
(引用元:Mentalist DaiGo Official Blog|完璧主義と自己批判が先送りの原因!)
セルフ・コンパッションを身につける「シンプルな方法」
こんなにたくさんのメリットがあるとわかったセルフ・コンパッション。いざ習得するには、どうすればいいのでしょうか?
前出のリア・ワイス博士は、セルフ・コンパッションを身につける演習で、仕事で失敗したときにどう行動したかを書き起こし、次に同じことがあったらどうするかをグループディスカッションで話し合わせるそうです。しかし、誰もがグループディスカッションできる環境にいるとは限らないかもしれません。
そこでDaiGo氏は、よりシンプルな方法を提示しています。それは「その失敗を自分ではなく友人がした場合、どのように声をかけるかイメージする」こと。
友達に相談されたとしたらどのように声を掛けるかということを考えて紙に書きだしてください。それを自分に向けての言葉として声に出して読んでください。
(引用元:Mentalist DaiGo Official Blog|やるべきことを先延ばしする一番の理由とは)
たとえば、大きな商談で先方からの質問にスムーズにこたえられず、成約が暗礁に乗り上げてしまった場合。自分ではなく身近な友人が直面した失敗だとみなし、声のかけ方を考えて、紙に書き出してみましょう。
「起きてしまったことは変えられない。また次に機会があるだろうから、そのときに上手にできればいいじゃない?」
「商談で失敗しない人なんていない。今回の失敗の原因を徹底的に分析して、次は同じことが起こらないようにしよう」
自分を客観視できるので、このように、甘すぎず厳しすぎない向き合い方ができるそうですよ。
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完璧主義の人にとって、自分を許すのは抵抗があるかもしれません。しかし、「自分を許すこと」と「自分を甘やかすこと」は同義ではありません。セルフ・コンパッション能力を高めて、自分だけではなく周囲にもメリットをもたらしましょう!
(参考)
有光興記 (2014),「セルフ・コンパッション尺度日本語版の作成と信頼性,妥当性の検討」,『心理学研究』2014年 第85巻 第1号, pp. 50-59(PDF)
Mentalist DaiGo Official Blog|完璧主義と自己批判が先送りの原因!
ハーバード・ビジネス・レビュー|セルフ・コンパッションは自分とチームを成長させる
ダイヤモンド・オンライン|なぜスタンフォードでは「リーダーは自分を思いやれ」と教えるのか
Mentalist DaiGo Official Blog|やるべきことを先延ばしする一番の理由とは
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。