「大学での勉強が難しい……」と困っていませんか? 理系なら数学や物理、化学といった科目の内容が難しくなるのはもちろん、文系の場合も、授業や教科書のスタイルがガラリと変わるので、戸惑う人も少なくないでしょう。
そこで今回は、高校と大学の勉強はどのように異なるのか、授業についていくのが難しいと感じた場合に必要なことを詳しく解説します。自分の勉強のやり方を見直したり、教授とコミュニケーションをとったりと、「大学での勉強が難しい」という悩みの解決に役立つアドバイスが満載です。
大学の勉強はなぜ難しい? 高校と異なる4つの点
大学での勉強を難しいと感じるのは、高校までの勉強と比べてさまざまな違いがあるからです。それぞれの差異を把握し、勉強への取り組み方を考え直してみましょう。
名古屋商科大学や日本大学のWebサイト、筆者自身の経験などをもとに、4つの違いを解説します。
高校までは「インプット」/大学からは「アウトプット」
小学校~高校の勉強は、習ったことを正確に記憶・再現する「インプット」型でした。一方で、大学での勉強は、知識・情報をもとに論理的な考えを打ち出す「アウトプット」を軸にしています。
大学における勉強の主目的は、「問題設定→仮説構築→検証」という学問の基本プロセスを習得することです。「本能寺の変が起きた」という事実を覚えるのが高校までの勉強だとすると、大学では「本能寺の変はなぜ起きたか」という問いを自分で立て、史料などの情報をもとに答えを推論する能力を磨いていきます。
大学でレポート課題が多いのは、この推論力(論理的思考力)を鍛えるためです。なかでも卒業論文は、大学の4年間で学んだことの集大成と言えるでしょう。卒業論文のテーマは自分で設定しなければいけないので、まさに「問題設定→仮説構築→検証」のプロセスに丸ごと取り組むことになるのです。
高校の勉強は「受動」/大学の勉強は「能動」
勉強に対するスタンスについても、大学からはさらに能動性を求められます。
高校までは、学校や塾の先生が懇切丁寧に解説してくれますし、参考書や問題集が数多く売られています。つまり、「どうすれば問題が解けるか」「何を勉強すべきか」という明確な指針が用意されているわけです。指示に従ってさえいれば、それなりにいい成績をとることができました。
しかし、大学生になると、やるべきことを指示してくれたり「勉強しろ」と叱ってくれたりする人はいなくなります。また、書店には、大学生向けの参考書や問題集はほとんどありません。大学で教わる内容は千差万別なので、参考書を出版しようにもできないのです。
大学生になったら、自分で資料を探して調べる「能動的な学び」の姿勢が基本。講義中にも「詳しく知りたい人は本を読んでね」「不明な点は各自、図書館で調べてね」などと言われる機会が多くなり、自主的な学びが期待されています。
筆者が教授たちからよく言われたのは、「講義は学びの入口に過ぎない」ということ。講義とは “わかりやすい解説を受ける場” ではなく、“学びのきっかけになる知識や書籍を紹介してもらう場” でしかないのです。
そのため、能動的に学ぶ姿勢がないと、講義についていけなくなるのはもちろん、講義を受けても内容が身につかない可能性があります。
高校の先生は「教師」/大学の先生は「専門家」
3つめは、教える側が「教師」か「専門家」かという違いです。
高校までの先生は、教員免許をもっている「教師=教えるプロ」。生徒の成績が悪いと責任を問われることもあるので、親身に教えてくれる人が多いものでした。また、授業の進め方や教え方には、文部科学省や各学校が定める決まりや方針があります。
一方、大学の教授や講師は、あくまで「専門家=学問のプロ」。学生の指導は、いわば余技にすぎません。教えるのがあまり上手でない先生や、あまり熱心でない先生もいたりして、指導力にはバラつきが多い印象です(もちろん、とても熱心で教え上手な先生もたくさんいますが)。
授業のスタイルも、教授の個性によって異なります。先述した「講義は学びの入口に過ぎない」という考えから、あえてさらっとした解説で終える先生も少なくありません。そもそも、たった90分の授業時間だと、専門知識の深堀りは困難です。
要するに、大学の先生は、必ずしも学生に歩み寄ってくれるわけではありません。高校までのような「受け身」意識のまま、丁寧な解説ばかりを期待するべきではないでしょう。
高校のテキストは「教科書」/大学のテキストは「専門書」
最後は、テキストの違いです。高校までは、子ども向けにつくられた簡単な教科書をベースに学んでいました。小学1年生の教科書は小学1年生向けの、高校の教科書は高校生向けの言葉で書かれているので、じっくり読めば理解できるようになっているはずです。
しかし、大学では大学生向けのテキストばかり使うとは限りません。授業を担当する教授の書いた専門書が、テキストとして指定されている場合も多いのです。専門書は、すでに基礎知識や専門用語を知っている読者向けに書かれているため、初学者には難しく感じられるでしょう。
このような「テキストが急に難しくなる」という事情も、大学での勉強に挫折してしまう原因のひとつだと考えられます。
◆高校と大学の主な違いまとめ
高校 | 大学 |
---|---|
インプット型の勉強 | アウトプット型の勉強 |
受動的な勉強 | 能動的な勉強 |
教師が教える | 専門家が教える |
教科書を使う | 専門書を使う |
以上の4つが、大学の勉強を難しいと感じる主な原因です。
大学の勉強が難しいときの対処法
大学の勉強を難しいと感じているとき、どのような方法で解決できるのでしょうか? 4つの対処法をご紹介しましょう。
学習意欲をかき立てよう
基本的なことですが、まずは勉強する学問に対して興味をもちましょう。興味は、すべての学びにおける原動力。興味がなければ、どんなに簡単な本や講義も苦痛に感じる一方、興味があれば、難しい内容でも頑張って理解しようとするはずです。
心理学者のA・W・コーンハウザー氏による『大学で勉強する方法』(玉川大学出版部、1995年)では、勉強に興味をもつためのコツが紹介されています。
その科目についての知識を集める
まずは、勉強中の科目に関して、さまざまな情報を調べてみましょう。
プロ野球選手のプロフィールや個性、各球団の特徴などを深く知っていくほど、野球観戦の楽しみは増していきます。勉強についても同様です。ある科目に興味をもてないのは、まだその魅力を知らないだけかもしれません。
講義やテキストが難しい場合は、平易な入門書やインターネット検索などの手軽な手段を用い、その科目に関する基礎知識やおもしろエピソードなどを調べてみてください。何かしらの興味の入口が見つかり、しだいに興味が湧いてくるはずです。
その科目と自分の関心を結びつける
2つめのコツは、勉強中の科目を自分の関心に結びつけられないか考えてみること。たとえば、日本史に興味がない人でも、「映画『もののけ姫』には室町時代の文化が反映されているんだよ」と聞けば、少し興味が湧くのではないでしょうか。
どんなに有益な学問でも、「自分には関係ない」「自分には必要ない」と感じると、学ぶ意欲が起きないもの。新しいことを学ぶときは、以前からの興味・関心と関連づけてみましょう。
得た知識を実際に利用してみる
3つめは、新しく学んだ知識をできるだけ使ってみること。知識が実生活に役立つ手応えがあると、学習の意義や自分の成長を実感でき、「もっと学びたい!」という意欲が高まるはず。
学んだプログラミング知識を使ってソフトをつくる、経済学の知識をもとにニュースを分析してみるなど、得た知識を活用する方法を模索してみてください。
◆知識を活用する例
- プログラミングを学んだ
→プログラムを書いてソフトをつくってみる - 経済学を学んだ
→ニュースを分析してみる - 心理学を学んだ
→友人とのコミュニケーションに役立ててみる
「薄い入門書」を読み、全体像をつかもう
何を勉強するにしても、基礎から順番にマスターしていくことが大切。講義やテキストの内容が理解できない場合は、入門者向けの簡単な本を1冊買い、前提知識を押さえてみましょう。
司法試験対策塾・伊藤塾塾長の伊藤真氏は、なるべく「薄い」入門書を選んで科目の全体像を見渡すよう、初学者にすすめています。全体像がつかめると、情報どうしの関連性がわかり、理解が容易になるからです。日本史の場合、まず縄文時代~戦後の通史をざっととらえてから細かく掘り下げるほうが、出来事どうしのつながりが見えやすくなるでしょう。
心理学者の和田秀樹氏によると、入門書を選ぶときは「まえがき」と「目次」を重視するのがいいそう。たいてい、まえがきには、読者に最も伝えたいメッセージや全体の流れが書かれているもの。まえがきを読んで「わかりやすい」と感じた本なら、自分に適している可能性が高いはずです。
入門書を買うときは、なるべく大きな書店へ行き、複数を慎重に読み比べてみましょう。
◆入門書を選ぶポイント
- 大きな書店へ行き、何冊も読み比べる
- まえがきの読みやすさを重視する
- なるべく薄いものを選ぶ
自分の言葉でアウトプットしてみよう
3つめの対処法は、学習内容を積極的にアウトプットすること。文や図をノートに書き出すのでも、誰かと会話するのでもOK。なんらかのアウトプットをすれば、
- 理解度が深まる
- 記憶が定着しやすくなる
という効果が期待できます。
まず、「理解度が深まる」効果について。勉強していて「理解できない箇所」にぶつかったら、頭のなかでモヤモヤと渦巻いている思考をアウトプットしてみましょう。「自分は何に悩んでいるのか」「どこがわからないのか」などの課題が明確になります。
東京大学出身の著述家・布施川天馬氏の『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』(扶桑社、2020年)では、勉強につまずいたときの対処法として、「独り言を言いながら考える」が推奨されています。自分がいま考えていることをブツブツ声に出し、思考を明確に言語化するのです。
布施川氏によると、指示語や擬音といった曖昧な言葉をなるべく避け、具体的に表現するのがポイント。もちろん、ちょうどいい話し相手がいるなら、独り言ではなく対話でもOKです。
また、アウトプットには「記憶を定着させる」効果もあります。英プリマス大学が2010年に発表した論文では、40人の被験者に人と場所の名前を覚えさせたところ、紙に落書き(アウトプット)しながら暗記したグループは、そうでないグループよりも29%多く記憶できたそうです。
精神科医・樺沢紫苑氏の解説によると、紙に書くという運動刺激によって脳が活性化し、記憶が定着しやすくなるそう。特に、かわいらしいイラストやハートマークといった “印象的な絵” を描くと、感情が刺激され、より記憶が強化されやすいのだとか。
覚えにくいことがある場合、ときには図やイラストを添えつつ、本やノートにどんどん書き込みをすると効果的なのです。
◆アウトプットの例
- 独り言を言う
- 人に説明する
- 本に書き込みをする
- ノートにまとめる
- 印象的なイラストやマークを描く
担当教授に質問しよう
最後にオススメするのは、授業を担当する教授や講師に質問をすること。
大学の教授というと、なんとなく雲の上の存在のように思え、声をかけるのがはばかられるかもしれません。しかし、学生の質問に答えるのも仕事のうち。遠慮はいっさい必要ありません。
実際、質問をしに行って嫌な顔をされることは滅多にないはず。筆者も経験がありますが、どの先生も優しく親切に答えてくださいました。
特に筆者がお世話になったK教授は、「学生に質問されると嬉しくてたまらない」と言っていたほど。自分の大好きな学問に学生が興味をもってくれるだけで、幸せを感じるそうです。
このK先生に限らず、自分の学問が好きでたまらないのは、ほとんどの教授・講師に共通しているはず。よほど忙しいときなどは別ですが、喜んで指導してくれる先生もいるでしょう。大学の勉強で難しい点があったら、専門家の力を直接借りることも検討してはいかがでしょうか。
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大学の勉強は難しいものですが、ひとつずつ確実にステップアップしていけば、必ず理解できるはず。ときには基礎に立ち戻り、ときには人の力を借りながら、勉強スタイルをじっくりと確立していきましょう。
(参考)
名古屋商科大学|高校と大学の学びの違いとは?
日本大学|高校と大学はここが違う!
A・W・コーンハウザー 著, D・M・エナーソン 改訂, 山口栄一 訳(1995),『大学で勉強する方法』, 玉川大学出版部.
布施川天馬(2020),『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』, 扶桑社.
東洋経済オンライン|「勉強が苦手な子」と「得意な子」の決定的な差
Andrade, Jackie (2010), "What does doodling do?" Applied Cognitive Psychology, Vol. 24, No. 1, pp.100-106.
THE21オンライン|司法試験のカリスマ・伊藤真が教える「成功する勉強法」
和田秀樹(2020),『インプットの効率を上げる勉強術100の法則』, 日本能率協会マネジメントセンター.
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。