新型コロナウイルス感染拡大の影響で、私たちの日常は大きく変わりました。それまで当たり前だったことが当たり前でなくなり、働き方にもさまざまな変革が求められてきています。このコロナ禍のなか、私たちはどう変わっていけばいいのでしょうか。そして、先行きの不透明な将来を生き抜くために、自分のキャリアをどう考えていけばいいのでしょうか。「グロービス学び放題」BtoC事業責任者の下道陽平(しもみち・ようへい)さんに聞きました。
ますます重要性が高まった「2つの能力」
このコロナ禍で私たち自身に起きた最も大きな変化のひとつが「働き方」だと思います。3密回避のためにオフィス出社はもはや常識ではなくなり、代わって自宅等で仕事をするテレワークが広がりつつあります。このような状況下で、ビジネスパーソンに求められるスキルは何か変わったのでしょうか?
テレワーク拡大により対面でのコミュニケーションは減り、代わりにオンラインでやり取りする機会が格段に増えてきています。そんななか私が思うのは、なにかまったく新しいスキルが要求されるようになったというよりも、
以前から必要とされていた「言語化能力」や「論理的思考力」の重要性がますます高まったということです。
対面であれば、言葉が多少拙かったとしても、その場の雰囲気やお互いの表情などで話の意図を汲み取ることができましたよね。また、「ちょっと5分だけいい?」などと言って雑談ベースで意思疎通することもできた。でも、コミュニケーションがオンライン主体となるとこうはいきませんよね。時間の制約もあるなか、とりとめなく話し続けては、「結局何が言いたいのかわからない人」になってしまいかねません。内容を絞って端的に伝えることの必要性が増したと感じています。
曖昧さを排して端的に言葉少なく伝えなければならない――このときに必要なのが言語化能力や論理的思考力ということですね。
これはチャット等を使ってのテキストコミュニケーションでも同様です。文字情報しかないぶん、伝えたいことをクリアにまとめて言語化しなければなりません。そこに言葉のノイズが含まれていると、途端に伝わりづらくなりますからね。
とはいえ、世のなかで賢いと言われている人たちでも、最初から言語化や論理的思考を完璧にできたわけではありません。みんな訓練で身につけたのです。逆に言えば、訓練さえすれば誰でも身につけられるということ。一度習得してしまえば、あとは自転車を漕ぐのと同じように、あまり意識せずとも使っていけるようになります。
いまからでも遅くはない、むしろこのコロナ禍がちょうどいい機会だと……! 具体的に何をしていけばいいのでしょう?
普段のなにげないコミュニケーションから、
「自分が本当に伝えたいことはなんなのか」に意識を向けて、できるだけ言葉少なくクリアに相手に伝えられるよう繰り返し練習してみてください。ディスカッションやプレゼンの機会が多い人は、事前準備として「伝えたいことを端的に文章で表してみる」といったことを入念に行なうようにすると、いざ本番でも焦らず伝えられるようになるはずです。
親しい同僚に協力してもらうのも手ですね。たとえば相手に何かを伝えてみて、それがわかりやすかったかどうかフィードバックを求めるのもいいでしょう。自分だけでは気がつかないことは意外と多いものです。フィードバックで学んだ点を随時改善していくよう心がければ、言語化能力や論理的思考力はおのずと向上していきますよ。
(よし、私も頑張るぞ……!)
環境が変わっても “自分の軸” を忘れてはいけない
次はキャリア形成に話を転じます。コロナ禍でビジネスの仕組みも大きく変わりつつあり、それについていけない企業や人はどんどん淘汰されていくと思います。過酷な時代にぶち当たってしまいましたが、私たちは今後のキャリアをどのように描いていけばいいのでしょうか?
私がBtoCの事業責任者を務める「グロービス学び放題」を例に話をしましょう。ビジネスパーソン向けのこの動画学習サービス、じつはコロナ禍で大幅な会員数増を実現しました。しかし、これは決して偶然ではなく、ある程度の予測はできていたのです。というのも、テクノロジーの進展によって学び方に変化が起こることを確信していたから。
従来の「リアルな場で授業を受ける」という学び方に加え、スマートフォンやパソコンを活用し、いつでも自分のペースで進められる「オンラインでの非同期な学び」にもニーズが出てくると予測できていたのですね。だからこそ事前に綿密な準備ができ、この突発的なコロナ禍で成功をつかめたと――。
変化に対して受け身の姿勢でいると、対応は当然遅れてしまいます。一方で、
変化が起きる構造やその影響などを事前にリサーチし把握できていれば、変化が起きたその瞬間に攻めの姿勢へ転じることができる。外部環境の変化に上手に対応できるというわけです。これはビジネスサービスのみならず、個々人のキャリア形成についても同じことが言えるでしょう。
一方で、キャリアを考える際には絶対に忘れてはいけないこともあります。それは「自分自身の理念やビジョンは何なのか」ということ。「自分が大事にしたいことはなんなのか」「自分がやりたいことはなんなのか」といった理念やビジョンを抜きに、無理して外部環境に合わせようとするのは、本質的とは言えませんよね。
環境が変わったとしても “変わらないもの” を自分のなかに軸としてもっておくべき、ということでしょうか。
人生のハンドルを自分自身で握るには、やはり自分起点でキャリアを考えていくのが大事だと思います。一方、誰かになんらかの価値提供ができないかぎりは、自分のバリューは認めてもらえず、人生を “経営” することもできません。自分の理念やビジョンが軸として存在するのが大前提、そのうえで自分の関わる領域が外部環境の変化でどのような影響を受けているのかを把握し、それに対してどんな価値提供ができるかを考えるのが本質的だと思います。
コロナ禍だからこそ大切な行動習慣
具体的に深掘りしていきます。自分起点でキャリアをつくっていくには何をすればいいのでしょうか?
「【1】自分があるべき姿やなりたい姿を考える」「【2】いまの自分の姿を考える」「【3】1と2のあいだにあるギャップが何かを考える」「【4】ギャップを埋めるためには何を学べばいいのかを考える」「【5】4を具体的にブレイクダウンして行動計画に落としていく」という5つの手順を踏んでいくとよいでしょう。
なるほど。たとえば、「【1】英語を使って海外で活躍できるようになりたい→【2、3】しかし、いまの自分は英文は読めてもビジネスシーンで通じるほどの英会話能力はない→【4】よって、スピーキングを学んでいく必要がある→【5】毎朝8時から1時間、オンラインで英会話の勉強をする」といった具合ですね。
目指すキャリアを軸に日々の行動としてブレイクダウンし生活のなかに組み込んでおくことで、たとえ外部環境に突発的な変化が起こったとしても、自分起点でキャリアを築いていけるでしょう。
では、外部環境の変化をうまくキャッチアップするには?
まず、日常的に摂取する情報源を決めて定点で日々ウォッチしてみてください。これは、情報に対して息をするように接することができる仕組みづくりの方法です。たとえば、Googleアラートで自分の業界や職種に関連しそうなキーワードを仕掛けておき、その情報に関するWebが更新されたら通知が届くようにしたり、ニュースアプリ内で特定の話題をチャンネル化しておいたりといったやり方が挙げられるでしょう。あるいは、業界に詳しい人をSNSでフォローし、その人が見ている情報に自分も目を通すのもよいですね。
情報に対するアンテナを広げるために仕組みをつくっておくということですね。
また、斜め読みでもいいのでマクロトレンドに関する本に目を通すこともおすすめします。たとえば、年末年始など特定の時期になると、さまざまなコンサルティングファームやシンクタンクがマクロトレンドに関する本を出版します。今回のコロナ禍に関するレポートも、すでにいろいろなところから出ているようですね。タイミングを見つけてこういったものを読んでおくと、外部環境の状況をかなりキャッチアップしやすくなりますよ。ぜひ実践してみてください。
***
先行きが不透明で不安の多いコロナ禍ですが、こんな状況下だからこそやっておくべきことはたくさんあります。テレワーク主体になった人は、ぜひ言語化能力と論理的思考力のブラッシュアップを。キャリアに悩む人は、自分の人生を自分でハンドルするべく具体的なアクションを。変化に置いていかれぬよう、明日の行動から変えていきましょう。
【プロフィール】
下道 陽平(しもみち・ようへい)
日系一部上場企業でマーケティングに従事した後、MBA取得。米系コンサルティングファームでの活動を経てグロービス代表室に参画し、社長直轄特命案件のプロジェクトマネジャーとして複数プロジェクトを牽引。現在はEdTech部門にて「グロービス学び放題/GLOBISUnlimited」統合事業をはじめとし、複数の新規事業の責任者を務める。MBAや企業研修において経営戦略・マーケティング領域の講師として登壇。
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。