「まずやってみる」が理にかなっている脳科学的理由。“経験の蓄積” が小脳をブーストさせる!

グリーンバックのビジネスパーソンが走っているイラスト

「新しいことをやってみる勇気が出ない」「マニュアル通りに進まないとすくんでしまう」――そんな悩みをもつ自分自身に「まずはやってみよう」と言い聞かせるべき脳科学的な理由を説明します。

経営の神様も言った「まずはやってみる」

事前にあれこれ時間をかけて悩んだからといって、成功が約束されるわけではありません。とはいえ、それがとても大きな決断や大きく踏み出す第一歩であれば、悩みすぎて動けなくなってしまうこともありますよね。

しかし、パナソニックの創業者であり「経営の神様」とも呼ばれる松下幸之助氏は、まず思いきってやってみて、行動しながらもてる知識を活かし、うまくやっていく方法を考えるよう説きました。

じつはこれ、限りなく脳科学的な言葉でもあるのです。

私たちにある「特殊な能力」とは?

京都大学大学院医学研究科 白眉センター特定准教授の武井智彦氏によると、私たちには、ほんの数秒間ほど先の未来を予測できる能力があるそうです。「なーんだ、その程度が」と思うなかれ。

その能力がないと、たとえばボールがどのように飛んでくるか予測できないのでキャッチボールをすることができないし、どのタイミングで車のブレーキを踏めばいいか予測できないので必ず停止線を越えてしまうし、背中を反らせるタイミングや角度を予測できないので、腕を前に挙げるたびに腕の重さで前方によろめいてしまいます。

つまり私たちは、「少しだけ未来を予測する特殊な能力」があるからこそ、スムーズな動作を可能にしているわけです。そんなことができるのは、小脳(cerebellum)の「内部モデル」という神経機構があるからなのだとか。

cerebellum:脳の構造

小脳の「内部モデル」とは?

脳科学辞典の説明(ATR 脳情報通信総合研究所・今水寛氏執筆/理化学研究所・入來篤史氏編集)によると、私たちが瞬時に未来を予測して適切に動作できるのは、物事の仕組みを反映した「モデル」を、過去のあらゆる経験によって脳内に蓄えているからとのこと。それを「内部モデル」と呼ぶそうです。

内部モデルには【順モデル】と【逆モデル】があり、「椅子に座る動作」を例にするとこうなります。

  • 順モデル】:原因「こんなふうに座れば」→結果「ちょうどいい位置でしっかり椅子に座れる」
  • 【逆モデル】:結果「ちょうどいい位置でしっかり椅子に座りたい」→原因「だからこんなふうに座る」

2019の論文「協調運動とは何か(河野憲二氏ら)」によれば、まず【逆モデル】で「(たとえば)椅子にちょうどよくしっかり座る」といった目標が入力されると、それに関与する各運動器官が目標に向かって動くそう。

その運動中に【順モデル】が運動する軌道を予測して、実現と目標の差を絶えずチェックし、軌道修正を行なっているのだとか。そうしてコントロールしながら目標の運動が実現されるのだそう。その働きに、小脳が重要な役割を担うと考えられています。

なんにせよ、「やってみた蓄積(経験)」がなければ、内部モデルはうまく機能しないわけです。

打ち合わせをする2人のビジネスパーソン

小脳の底力

前項の内容は「動作」に関することですが、じつは近年、小脳は、運動の制御・学習だけではなく「認知機能(理解・判断・論理といった知的機能)」などさまざまな役割があると明らかになっているそうです。

小脳研究の世界的権威として知られる、理研脳科学総合研究センター特別顧問の伊藤正男氏(当時:記憶学習機構研究チームリーダー)は、2003年の「研究最前線(理研ニュース No.260)」で次のように述べています。

「物事を覚え込んでいくと、やがて、ある考えがすらすらと出てくる。こういった思考における学習も、運動と同じような原理で小脳が行っていると考えられます」

(引用元:理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)|研究最前線(理研ニュース No.260)|小脳から記憶や思考の謎に迫る

思考を繰り返すビジネスパーソン・女性

伊藤氏によれば、繰り返し考えていると小脳回路が大脳の思考モデルをコピーするので、それを前頭葉が操作して思考するようになるとのこと。したがって、「とっさの判断は小脳の思考モデルを使用するはず」だと同氏は言います。前頭葉は、認知から運動までの幅広い機能が達成される領域です。

つまり、端的に言えば、私たちの動作も思考も、小脳の働きによって経験するほどスムーズになっていくわけです。思いがけない出来事に対するとっさの判断も同じこと。ずーっと立ち止まってマニュアルを徹底的に理解するだけでは、これらの脳機能を活かすことはできません。

もちろん、リスクを想定したりマニュアルを把握したりすることも非常に大切です。しかし、悩んでばかりで動けない状態になっているならば、脳の仕組みを考慮したうえで、あらためてやってみなければ始まらないと自分自身に言い聞かせてみてはいかがでしょう?

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「まずはやってみる」べき脳科学的理由を紹介しました。よろしければ、一歩を踏み出すきっかけにしてくださいね。

(参考)
PHP友の会|PHP Friendship Clubs|まずやってみる ~松下幸之助 強運を引き寄せる言葉~
河野憲二,松田圭司,竹村文(2019),「協調運動とは何か」,公益社団法人 日本リハビリテーション医学会,The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine,第56巻2号,pp. 82-87.
理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)|研究最前線(理研ニュース No.260)|小脳から記憶や思考の謎に迫る
公益財団法人 東京都医学総合研究所|都医学研セミナー
日本脳科学関連学会連合|人は未来を予測できる?
e-ヘルスネット(厚生労働省)|認知機能
脳科学辞典|内部モデル
脳科学辞典|前頭葉

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