皆さんは、「ゆとり」を持った生活を送れていますか。
時間にゆとりがなく、休む時間さえ確保できない。作業環境にゆとりがなく、物が増えていく一方だ。人間関係にゆとりがなく、心がいつも疲弊している。これでは、物事の効率が悪くなるばかりではなく、知らぬ間に深刻な事態に陥ってしまう可能性だってあるのです。
今回は、多くの人が見過ごしがちな「ゆとり」の大切さを3つの観点から解説します。
【1】「時間のゆとり」がないと前頭葉の機能が低下する
現代社会人が最も失いがちなのが「時間のゆとり」といっても過言ではないでしょう。ただでさえ仕事が忙しいなか、勉強や趣味、人付き合いなどのための時間まで確保するとなると、1日が24時間では足りないぐらいですよね。そして、時間に追われれば追われるほど、私たちの心もまた余裕がなくなってきます。
精神科・心療内科医の川野泰周氏は、こういった心の疲れが重なってストレスがたまると、脳の前頭葉の機能が低下すると指摘します。これにより、ドーパミンやアドレナリン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質が機能不全を起こし、目の前の仕事に集中できなくなったり、生産性が下がったりしてしまうのだそう。
心に余裕をもたらすために、ぜひ時間にゆとりをつくりましょう。平日は仕事や用事で多少は忙しかったとしても、せめて休日ぐらいは、仕事のことを完全に忘れてみてはいかがでしょうか。
『世界のエリートがやっている 最高の休息法』著者で医師の久賀谷亮氏は、休日前に「日常をどこかに片づける」ことで、脳を休息モードに移行させられると説きます。
仕事や生活のストレスをノートに書き出して、それをあまり使わない引き出しにしまいましょう。PCやスマートフォンを片づけてもいいかもしれません。これらも脳へのシグナルとなります。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|夏疲れリセット!「脳疲労」に効く休日の過ごし方は…)
仕事の連絡が来る、あるいは仕事のことを思い出させてしまうパソコンやスマートフォンを遠ざけることで、心にも時間にも驚くほど余裕が生まれるはずです。
【2】「空間のゆとり」がないとストレスが増える
部屋に物が多いタイプの人と少ないタイプの人がいますよね。どちらが良い悪いとは一概にはいえませんが、あまりにも多くの物が散らかっていて空間のゆとりがないと、さまざまな悪影響が出てくるようです。
それを指摘しているのは、物理的な作業環境が認知やパフォーマンスに与える影響を研究している、ボンド大学ビジネス・スクール助教授のリビー・サンダー氏です。
私の研究を含むいくつかの研究で、物理的環境が認知や感情、行動、さらには意思決定や他者との関係にまで影響を与えることが明らかになっている。散らかった空間は、ストレスや不安のレベルだけでなく、集中力、食の選択、そして睡眠にさえネガティブな影響を与えうる。
(引用元:ハーバード・ビジネス・レビュー|デスクが散らかっていると集中力も生産性も低下する ※太字は筆者が施した)
たとえば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームが2009年に行なった研究では、32の家族の生活ぶりを調査しました。その結果、散らかった環境で生活している母親のほうが、不安やうつを引き起こすストレスホルモンであるコンチゾールの血中濃度が高かったのだそう。部屋が散らかりすぎているのは、決して無視してはいけない問題なのです。
そこで参考になるのが、「こんまり」こと近藤麻理恵氏の片づけ術。『人生がときめく片づけの魔法』がミリオンセラーとなり、アメリカの雑誌『TIME』の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた、今をときめく片づけコンサルタントです。
近藤氏は、物を収納からすべて出し、手に取ったときに「ときめき」を感じる物だけを残すことをすすめています。つまり、「不要な物を捨てる」のではなく、「理想の空間に必要な物を残す」という考え方で物を減らしていくのです。
部屋が片づけば、きっと気持ちにもゆとりが生まれることでしょう。
【3】「人間関係のゆとり」がないと本来の自分を出せなくなる
私たち大人にとって、他人とのつながりはたしかに必要です。しかし、みんなから好かれようと躍起になりすぎるのはNGな模様。嫌われるのが怖くて、無意識のうちに八方美人にふるまってはいないでしょうか。
多数の著書やメディア出演がある精神科医の名越康文氏は、このようにふるまう人の心理について、「個人的な “欲” でしかない」と厳しく指摘しています。ストレスの元凶もここにあるのだとか。
他人から嫌われることを恐れ、とにかく好かれようとして疲弊してしまう傾向を、私は「過剰適応」と呼んでいます。一般的に、欧米人に比べて日本人は、過剰適応の傾向にある人が多いと私は考えていますが、特に仕事でストレスをため、精神的に追い込まれてしまう人の中には、この過剰適応の傾向を持っている人が少なくありません。
(引用元:東洋経済オンライン|誰からも嫌われたくない人が生きづらい理由 ※太字は筆者が施した)
この状況を変えるための考え方として、名越氏は、カウンセリングの師匠から教わって感銘を受けた「1:2:7の法則」を紹介しています。
たとえば、自分の周りに10人の人がいたとしましょう。このとき、どんなときも変わらず自分を好きでいてくれる人は1人。どうやっても気に入ってもらえない人は2人。そして残りの7人は、接し方次第でどうにでも転ぶのだそう。この法則を無視して、全員と仲良くやっていこうとするのは無理な話。裏切られたり避けられたりして、自分にとって大きなストレスが生まれてしまいます。
とはいえ、「嫌われたくない」という真理は、多くの人が持つもの。人間関係にゆとりを生み出すためには、「嫌われても大丈夫」というスタンスを身につける必要があるのです。
そのために名越氏は、「他人に負けない」と思える何かを自分の中に作っておくべきだと述べます。「プレゼンならば自信がある」「おいしいお店を誰よりも知っている」など、仕事に関係があってもなくてもかまいません。仮に誰かに嫌われたとしても、「自分はほかの人よりも秀でたものを持っている」という事実が、心の支えになるでしょう。
それまで他人の顔色をうかがいすぎて疲弊していた精神も、きっと改善するに違いありません。
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時間、空間、そして人間関係にゆとりを生み出し、日々をもっと生きやすくしましょう。それが普段の仕事にも役立ってくるはずです。
(参考)
東洋経済オンライン|「精神科医の禅僧」が教える続く疲れを減らす策
THE21オンライン|心の疲れの回復には「3日間」の休息を
ダイヤモンド・オンライン|夏疲れリセット!「脳疲労」に効く休日の過ごし方は…
ハーバード・ビジネス・レビュー|デスクが散らかっていると集中力も生産性も低下する
東洋経済オンライン|誰からも嫌われたくない人が生きづらい理由
【ライタープロフィール】
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。