「仕事に追われてほぼ毎日残業している」
「休む時間がなかなかとれない」
こんなふうに、生活が仕事一辺倒になっている人は要注意。なぜならば、脳が悪影響を受けたり、そのせいで仕事の生産性が下がったりするからです。
今回は、働きすぎることの弊害を指摘していきます。心当たりのある人は、ぜひ仕事や生活のスタイルを見直してみてください。
「うまくリラックスできない」は危険信号
最初の弊害は「過緊張」です。これは、「帰宅したのにリラックスできない」「眠れない」「寝ても途中で目が覚めてしまう」など、オンの状態からオフの状態になかなか切り替えられないこと。体が危険信号を発している証拠です。この過緊張の原因として挙げられるのは、精神的・身体的ストレスなどによる交感神経の高ぶり。
人の身体は、交感神経と副交感神経がバランスをとりながら、血圧や腸の働きなどの機能を調節しています。仕事中は交感神経が活発になるため緊張感が高まりますが、通常は夜になると副交感神経が優位になり、身体をリラックスモードへと切り替えていくのです。しかし、過緊張状態が続いている人は、夜になっても交感神経の働きが活発のまま。したがって、帰宅してもリラックスできなかったり、眠れなかったり、寝ても疲れがとれなかったりするなどの症状が現れてしまうのです。
養命酒製造が1,000人の20歳~39歳の未婚のビジネスウーマンを対象に行なった調査では、6割強のビジネスウーマンが「リラックスしようとしてもできない(気が休まらない)」過緊張の状態にあることが判明しています。「やることが多いから残業するしかない」「リラックスできないのはいつものこと」「今日もよく眠れなかった」という状態が当たり前になっている人は、働き方を見直す必要があるかもしれません。
働きすぎは脳機能を低下させる
日常的に長時間労働をしていると、脳にダメージを与える可能性があります。学術誌『American Journal of Epidemiology』の発表によると、長時間労働している人は、そうでない人に比べて思考力や記憶力の老化が早まるという研究結果が明らかになっているのです。
知性を大きく分類すると、「結晶性知能」と「流動性知能」のふたつに分けられます。結晶性知能は、個人が長年にわたって得た経験や学習による知能で、言語能力や理解力、コミュニケーション力などが該当します。もうひとつの流動性知能は、新しい情報を獲得したりそれを処理したりするスピード、直感力、法則を発見する能力です。結晶性知能は80代まで伸びますが、流動性知能は20代後半頃をピークに、年齢とともに衰えていくと言われています。
研究では、2,214名の公務員が被験者となり、5年間で彼らの「流動性知能」がどれくらい変化するかを測りました。すると、労働時間が40時間以下であった人たちに比べ、週に55時間以上働いていた人たちのほうが、流動性知能が著しく低下していたのです。つまり、日常的に長時間働く人のほうが、そうでない人に比べ、脳の老化が早まったということ。
「残業するのは仕方がない」という考え方でいると、知らず知らずのうちに脳がむしばまれていくのです。
残業疲れにできる対策
とはいえ、「いますぐ環境を変えることはできない」「普段はそこまで忙しくないけれど、繁忙期に入るとどうしても残業が増えてしまう」という人もいるでしょう。そんな方に向けて、応急処置の方法をご紹介します。
心療内科医で『脳が冴える最高の習慣術~3週間で集中力と記憶力を取り戻す』などを著書にもつマイク・ダウ氏によると、彼のところに訪れる多くの患者は、仕事が多忙で脳を酷使していることからBrain Fog(脳が曇っているような感覚)を経験しているそう。彼らに共通しているのは、集中力の低下、常に怠さを感じている、睡眠が足りていないなど「スランプに陥っている感覚」なのだとか。
ダウ氏いわく、上記のような状態から抜け出すには、生活のなかで次のポイントに気をつけることが有効だそう。
- 栄養バランスのよい食事
- 定期的な運動
- 充分な睡眠
- サーカディアンリズムに添った生活(早寝早起きなど)
- リラックスする時間を定期的に設ける
- 人生に意味や意義を感じる
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脳に負担をかけすぎない仕事スタイルに変えたほうが、長期的に見ると生産性は高まっていくはずです。若々しい脳を保ち、充実した働き方をしていきましょう!
(参考)
養命酒製造株式会社|ビジネスウーマンのカキンチョウ疲労と恋愛に関する調査2017
Mocosuku|重たい疲労感は「過緊張」のせいかも… 原因と対処法
Investopedia|5 Signs You're Being Overworked at Your Job
Harvard Business Review|Don’t Overwork Your Brain
Oxford Academic|Long Working Hours and Cognitive Function: The Whitehall II Study
Belfast Telegraph|Some brain-boosting advice for overworked minds
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。