元パワポ事業責任者「失敗する資料と成功する資料は、決定的に “ココ” が違うんです」

越川慎司さんインタビュー「成功する資料と失敗する資料の違い」01

ビジネスパーソンの労働時間のうち、大きな割合を占める業務のひとつが「資料作成」。でも、「どんな資料がいい資料なのか?」という疑問に対して、「これが正解だ!」と明確に答えられる人は少ないはずです。

そこでお話を聞いたのは、かつて日本マイクロソフトの「PowerPoint」事業責任者だった越川慎司(こしかわ・しんじ)さん。越川さんが教えてくれた「正解」とはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

つくり手が主役の「伝える資料」は失敗する

みなさんは、PowerPointのファイルを含め、資料の目的とはどんなものだと思いますか? 決して「資料をつくること」などではありませんよね。「情報を提供すること」でもありません。それらが目的なら、資料をつくったら、あるいは情報を提供したら終わりになってしまいます。もちろん資料の種類にもよりますが、特に提案資料の場合には、その目的は「提出先の相手と共鳴して、相手に行動してもらう」ことにあります。

では、どんな資料なら、提出先の相手は行動してくれるのでしょうか? それを調べるため、私は全国826人の課長や部長クラスの意思決定者にヒアリングを行ないました。彼らから集めたPowerPointファイルの数は約5万。それらを、意思決定者たちが動いた、つまり成功した資料と、意思決定者たちが動かずに失敗した資料に分けました。そして、それらをAIに分析させて、成功した資料と失敗した資料それぞれのグループに共通する特徴を導き出したのです。

その結果、失敗した資料には文字数が多い」「4色以上の色を使っている」「アイコンや画像が多いという特徴がありました。文字数はスライド1枚あたり300字以上。そのぶん、フォントサイズは小さくなります。色もたくさん使われていて、さらにスライド1枚にアイコンや画像が5つも6つも使われている。端的に言えば、「ガチャガチャした資料」ということになります。

なぜ、こういう資料だと失敗するのでしょうか。それは、相手に「伝える資料」になっているからです。こういう資料のつくり手は、よかれと思ってあれもこれもと情報を盛り込みます。でも、それは本人の「相手に伝えたい」という勝手な欲によるもの。資料の「つくり手が主役」になってしまっているのです。

越川慎司さんインタビュー「成功する資料と失敗する資料の違い」02

成功するのは、相手が主役の「伝わる資料」

一方、成功した資料には、失敗した資料とは真逆で文字数や色数が少なくシンプルで見やすいという特徴がありました。具体的には、文字数ならスライド1枚あたり「105字以内」、色数なら「3色以内です。

【成功する資料の例】

越川慎司さんインタビュー「成功する資料と失敗する資料の違い」03

なぜこういう資料が成功したかというと、相手に「伝わる資料」になっているからです。こういう資料のつくり手は、「相手がなにを欲しがっていて、どうすれば相手に伝わり行動してくれるか」という考えをもとに資料を作成します。だからこそ、相手が欲しがっていない余計なものを省くことができ、結果的にシンプルになる。冷たい水を欲しがっている相手にホットコーヒーを出したところで喜んでくれるはずもありませんよね? やはり失敗した資料とは真逆で、資料を提出する「相手が主役」になっているのです。

つまり、成功する資料をつくるには、「相手がなにを欲しがっていて、どうすれば相手に伝わり行動してくれるか」ということをきっちり下調べする必要があるということ。ですから、相手のことをヒアリングなどによって事前に調べることが大切です。

もちろん、資料作成にあたっては、「経営者は論理ではなく感性によって意思決定しやすい」とか「上級役員は競合比較を入れると意思決定しやすい」といったポイントも存在します。ただ、最も重要となるのは、提出先の相手が過去にどうしたら動いたかを調べることです。

スポーツに例えたらわかりやすいのではないでしょうか。スポーツで対戦する相手のことをまったく知らないまま、その試合に勝てると思いますか? 勝つのは、日頃からしっかりとトレーニングしているのは当然として、相手のことをよく研究しているほうなのです。

越川慎司さんインタビュー「成功する資料と失敗する資料の違い」04

提案資料は「最初と最後」で相手を動かす

また、「相手に行動してもらう」という目的を達成するために、最初と最後がキモということも覚えておいてください。

先にお伝えしたAIの分析によって、提出先の相手に意思決定をしてもらいたいといった提案資料の場合には、「結論を先に伝える」ことが大切だということがわかりました。「今日は提案に来ました」ではなく、勇気をもって「今日はあなたに意思決定してもらいたい」ということを最初に伝えるのです。

このことは、自分が提案を受ける立場で考えればわかりやすいはずです。相手が「今日は提案に来ました」というスタンスなら、「とりあえず話を聞いておけばいいんだな」くらいの気持ちにしかならないでしょう。でも、相手が「今日はあなたに意思決定してもらいたい」というスタンスだったらどうでしょう? 「これはきちんと提案を把握して、間違いのない判断をしないといけないぞ!」という気持ちになりますよね。

まずは、表紙の次にある最初のスライドで「今日はあなたに意思決定してもらいたい」といったふうに、相手に求めるアクションをしっかり伝える。そして、最後にもう一度、「2週間以内にゴーサインをお願いします」のように、どうしてもらいたいのかを伝える。そうすれば、その提案の成功率は格段に上がります。

越川慎司さんインタビュー「成功する資料と失敗する資料の違い」05

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【プロフィール】
越川慎司(こしかわ・しんじ)
1971年9月21日、山梨県生まれ。株式会社クロスリバー代表取締役社長 CEO/アグリゲーター。国内大手通信会社、外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフト社に入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてOfficeビジネスの責任者等を務めたのち、株式会社クロスリバーを設立。メンバー全員が完全テレワークで週休3日を実践しながら600社を超える企業の働き方改革支援をしている。また、講演活動も積極的に行っており、企業向け講演及び研修での受講者満足度は平均94%を超える。主な著書に、『働く時間は短くして、最高の成果を出し続ける方法』(日本実業出版社)、『新時代を生き抜くリーダーの教科書』(総合法令出版)、『ずるい資料作成術』(かんき出版)、『世界一わかりやすいテレワーク入門BOOK』(宝島社)、『ビジネスチャット時短革命』(インプレス)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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