ビジネスパーソンにとって必要不可欠な能力のひとつが「想像力」です。「想像力をもって仕事をしろ」と指導されることも多くありますが……「想像力とは具体的に何を指すのか?」「どうすれば向上させられるのか?」など、よくわからない方は多いかと思います。
そこで今回は、想像力の定義と仕事における重要性、そして想像力を磨くためのトレーニング方法などについて、詳しく学んでいきましょう。
「想像力」とは?
心理カウンセラーの小日向るり子氏の定義によると、想像力とは「未来のことを想像し、考える力」のこと。つまり、想像力が豊かであればあるほど、この先起こりうることを詳細にシミュレーションできるので、優れた成果が得られやすくなるのです。
私たちの普段の仕事のなかでも、想像力が必要となる場面は多々訪れます。例としては、以下のような場面が挙げられるでしょう。
- 【新商品の企画】「どんな商品をつくったら、お客さまは喜ぶだろう?」と想像する
- 【プロジェクトの計画】「どんな段取りにすれば、効率よく仕事が進むだろう?」と予測する
- 【会議資料の作成】「どんな構成にすれば、読みやすくなるだろう?」と工夫をする
ちなみに、航空会社ANAの社員は、フライト中の自分の振る舞い方を想像する「イメージフライト」という訓練を実践しているのだそう。それも、ただなんとなくイメージをする程度ではなく、「フライト中に自分はどんな光景を見るか」「自分はどう振る舞うか」「どんな言葉を発するか」などを、ときには数時間もかけて想像し、ノートに書き留めて暗記をするという、徹底的なイメージトレーニングをしています。そうすることで、自分の心や時間に余裕が生まれ、実際のフライトでも周囲の環境を見渡して適切な行動がとれるようになるのです。
想像力を駆使し、未来への備えをしておくことがいかに大切かということを、このANAの事例からも学ぶことができます。
「想像力」の欠如で生じる3つのデメリット
想像力が欠如すると、ビジネスパーソンにとって致命的な、さまざまなデメリットがもたらされる恐れがあります。経営コンサルタントの午堂登紀雄氏によると、想像力の欠如によって、「気遣い」「段取り」「問題解決能力」という3つのスキルが低下しうるのだそうです。
【デメリット1】「気遣い」ができなくなる
想像力は、他人へ「気遣い」をする力に直結します。「このお客さんは何を求めているんだろう?」「部長は私に何を期待しているんだろう?」など、相手の気持ちを想像して思いやる能力は、仕事や人間関係において欠かせないものです。
こういった他人の気持ちに対する想像力が乏しい人は、相手の要望を察知することがなかなかできず、「気が利かない人」「空気が読めない人」などの烙印を押されてしまいかねません。
【デメリット2】段取りが下手になる
先述したように、想像力とは「未来のことを考える力」。豊かな想像力をもっていると、この先の仕事の流れを予測し、タスクを効率よく進めていくことができます。
反対に、想像力が欠如している人は、常に目の前のことしか見えず、「次に何が起こりうるか?」「このタスクをやる目的は何か?」というところまで考えが至りません。そのため、常に行き当たりばったりで、非効率的な仕事の仕方になってしまいます。ひいては、段取りが悪すぎるために、周囲にまで迷惑を及ぼしてしまうかもしれません。
【デメリット3】問題解決能力が下がる
想像力は、問題解決能力の高さとも相関関係があります。問題が発生したそもそもの原因を推測し、解決するためのアイデアを発想するためには、やはり豊かな想像力が欠かせません。想像力が乏しい人は、直面した問題を自分の力で解決できず、誰かに指示してもらったり、答えを教えてもらわない限り動けない「マニュアル人間」になってしまう恐れがあるのです。
「想像力」を磨く効果的な方法
では、想像力を養うにはどうすればいいのでしょうか。日常生活のなかで手軽に実践できる2つの方法をご紹介します。
【方法1】「背景を想像」する習慣をもつ
想像力を磨くには、やはりさまざまなことを想像するクセをつけるのが一番です。その一例として紹介したいのが、情報共有コンサルタントの澤円氏が推奨する「人工物に対して想像を働かせる」という方法。澤氏によれば、何かしらの人工物を目にしたときに、以下の3点を想像することで、想像力のトレーニングができるのだそう。
- それが必要になった理由
- それを最初に生み出した人
- それがつくり出されるまでの過程
たとえば「電車の吊革」を目にした場合には、以下のようになります。
- それが必要になった理由→乗り物が揺れても、人間が転ばないようにするため
- それを最初に生み出した人→船にゆられて転んでしまった、17世紀あたりの西洋人?
- それがつくり出されるまでの過程→大田区あたりにある工場で、大量生産されている?
内容が当たっているかどうかはともかく、あれこれと想像を巡らせることそのものが、想像力を使う練習になります。また、自分の想像がどれほど当たっていたのかつい調べたくなって、雑学の幅が広がるという副産物的なメリットも期待できるでしょう。
【方法2】「食わず嫌い」をやめる
前出の小日向氏が推奨する方法は、「食わず嫌い」をせず、さまざまな対象に興味をもとうとすること。そもそも想像力は、過去に得た経験や知見を土台としています。たとえば、政治についていっさいの前提知識をもっていない人は、次の衆議院選挙がどうなるのか、まったく想像がつかないはずです。
したがって、豊かな想像力をもつためには、自分が興味のある事柄に限らず、情報のアンテナを広く張っておくことが大切。日々のニュースチェックはもちろん、人付き合いや趣味などに関しても同様のことが言えます。たとえば、
- あまり関心がないニュースについても、深く調べてみる
- 嫌いな人に対して、少し関心を向けてみる
- 未体験のことにチャレンジしてみる
という具合に、たとえ自分の興味の範囲外であっても、積極的に踏み出すことを意識してみましょう。
***
想像力は、業種・役職を問わず、全ビジネスパーソンに求められる基礎能力です。仕事を計画的に進めるのが苦手な方や、周囲に気を配るのが苦手な方などは特に、本記事の内容を参考にしてみてくださいね。
(参考)
マイナビウーマン|想像力とは? 欠如する理由と簡単に鍛える方法
東洋経済オンライン|信用されない人は「1秒」の想像力が足りない
Googleブックス|年収1億稼ぐ 人生戦略ガイド
リクナビNEXTジャーナル|ビジネスの“伝える”スキルが上がる!「想像力」の鍛え方──澤円のプレゼン塾(その10)
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。