たとえ周囲からの猛烈な反発を予測できても、倫理的に正しく、自分が正しいと信じることのために行動を起こせたなら、人々はあなたを「勇気がある人だ」と称賛するでしょう。必要だけれども複雑で難しく、誰もやりたがらないプロジェクトを引き受けた場合なども同じです。
しかし、もしもあなたが「そんな人になりたいけど資質がない。とうてい無理」と、行動を起こす前から諦めているなら、それは大きな間違いです。「勇気」は育めるものなのだとか。さっそく説明しましょう。
「勇気」は鍛えられる
元広島大学大学院 文学研究科 名誉教授の近藤良樹氏は、講義ノート「勇気について(2012)」のなかで、より簡潔にまとめた「勇気」の定義を「恐怖に耐え、大胆・果敢になること」と記しています。
同氏によれば、「勇気」は後天的に身につけていく面が大きいので、筋肉と同様に鍛えていけるのだとか。ポジティブ心理学者のロバート・ビスワス=ディーナー氏も著書のなかで、「勇気」は先天的な資質ではなく誰もが習得できるものと説いています。
「勇気」の分析
エグゼクティブコーチ・精神分析学者・経営学者のマンフレッド F. R. ケッツ・ド・ブリース氏も勇気を筋肉に例え、「勇気は育めるもの」と明言していますが、それと同時に「生まれつき備わっているものでもある」と述べています。
同氏の解説をもとに、ふたつの学問の観点から説明しましょう。
■ 神経科学の観点
ブリース氏によれば、世のなかの「スリルを求めるタイプの人々」は、人間の意思決定と自己統制をつかさどる大脳皮質が薄いといった特徴があるそうです。また、そのタイプの人の脳には、喜びや満足感に関与するドーパミン受容体というタンパク質が少ないため、高揚感を得るため “より多くの刺激” を必要とするのだそう。自由奔放な行動に関わるホルモンのテストステロンも多いそうです。
そうした「スリルを求めるタイプの人」の脳と、「強力な倫理的価値観」が組み合わさった場合、その人が勇気ある行動をする可能性は高くなるとブリース氏は説明します。つまり、先天的な「脳の仕組み」と、後天的に身についた「倫理的な価値観」が、「勇気」をつくるわけです。
■ 心理学の観点
「勇気」は、心理的な影響も大いに受けています。 たとえば、カナダ人心理学者のアルバート・バンデュラ氏が提唱した「自己効力感」の高低は、勇敢な行動を可能にするか否かの違いをもたらすと、ブリース氏は説明しています。
「自己効力感」とは、“自分はそれを実行できる、成し遂げられる” と、自分の能力を信じられる感覚のこと。いわゆる自信の一種で、仕事や勉強への注力、目標達成に欠かせないのだとか。
同じく「自尊感情」も、勇気ある行動を後押しするとブリース氏は述べます。「自尊感情」とは、自分自身を価値あるものだと感じ、好き・大切だと思える感覚のことです。
これらのいずれも、訓練や支援によって育むことができるそうです。
勇気を育むテクニック
前項の内容をふまえながら、精神分析学者やエグゼクティブコーチとしての活動を続けたブリース氏は、勇気ある行動を後押しするテクニックを発見したそうです。
ブリース氏によれば、人間は自分の恐怖とまっすぐに向き合えるようになるほど、恐怖に基づく行動ではなく、勇気に基づいた行動ができるようになるのだとか。そうしたことから、このテクニックは「恐怖心への対処」が中心になっています。内容は次のとおり。
1. シナリオを想像する
目の前の課題や問題に対し、自分が行動を起こした場合と起こさなかった場合のシナリオを想像してみる。そうして起こりうるリスクを明らかにすると、恐怖に免疫がつく。
2. バイアスを意識する
人間にはネガティビティ・バイアスがある(ポジティブな情報よりも、ネガティブな情報に注意が向きやすい)ことを意識する。したがって「1」を行なう際は、ポジティブなシナリオづくりによりじっくりと時間をかけ、ネガティブなシナリオには建設的な再構成を試みる。
3. 恐怖を口に出す
自分が何を恐れているのかハッキリすると恐怖がおさまるので、自己不信を誰かに打ち明けたり、自分の弱みをさらけ出したりすると力が湧き、行動の勇気が出る。恐怖を克服した人の話を聞くのも効果的。
4. 自分の立場を明確にする活動
小さな勇気行動は蓄積されるので、何か腑に落ちないときは口に出してみる(たとえば理不尽な頼まれ事に対し、「これは私がやるべきことじゃないかも」などと言ってみる)。自分の立場を明確にしようとする日々の小さな行動は、勇気を必要とする難しい決断の訓練になる。
5. 体調を管理する
恐怖はからだを疲弊させ、肉体的な疲れは精神状態を悪くするので、どんなときも、しっかりと食事・運動・睡眠をとる。瞑想やヨガなども、勇気ある行動に必要な脳の働きに効果的である。
6. 恐怖を打ち明ける仲間
お互いの恐怖を心おきなく打ち明け合える相手がいると、恐怖を克服し、勇気を出す助けになる。
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――ブリース氏の「勇気ある行動を後押しするテクニック(要約)」は以上です。まずは小さな勇気を出すことから始めてみましょう!
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|勇気は資質でもあるが、訓練を通じて育てることもできる 誰でも実行できる6つのテクニック
STUDY HACKER|バンデューラの「自己効力感」とは? 初心者でも「社会的学習理論」がわかる!
Yahoo!ニュース|自尊感情(自己肯定感)を高める方法:自信のない子どもと大人のために(碓井真史)
【KK2】霞が関ナレッジスクエア|『「勇気」の科学』(児島 修 著)
ロバート・ビスワス=ディーナー著, 児島修訳(2013),『「勇気」の科学 〜一歩踏み出すための集中講義〜』,大和書房.
Wikipedia|Dopamine receptor
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