あなたには、どんな「口癖」がありますか?
自覚しているものもあれば、無自覚のものもあるでしょう。罪のないものもあれば、周りにあまり良く思われないようなものもあるかもしれません。いずれにせよ、きっと誰もが、1つや2つくらいは何らかの口癖を持っているはずです。
しかし、“たかが口癖” と侮ってはいけません。詳しくは後述しますが、口癖には思いのほか大きな影響力があり、知らぬ間にあなた自身の運命を変えてしまう可能性さえ秘めているのです。
本記事では、言い訳や先延ばしばかりでいっこうに動き出せない人が言いがちな “3つの口癖” をご紹介します。もし当てはまっていた場合は、改善例を参考に直してみましょう!
口癖は習慣を形作る
医学博士の佐藤富雄氏は「性格とは思考の習慣である」と言います。性格は要するに、物事をどうとらえ、どう感じ、どうリアクションするか、ということの集積にほかなりません。
たとえば、仕事で大きなプロジェクトが始まって「頑張るぞ!」と意気込む人もいれば、「面倒くさいな」と感じる人もいますよね。見ているものは同じはずなのに、どうして反応が違うのでしょうか。それは、“受け取った情報についてどのように思考したか” に差があるからです。
そして佐藤氏によれば、思考は言葉によって作られています。というのも、脳は現実と想像とを区別することが基本的にできないため、口に出した言葉をそのまま信じ込んでしまう性質があるからなのだそう。
つまり、いつも「頑張るぞ!」と言っていると本当に頑張り屋な性格になっていきますし、いつも「面倒だなあ」と言っていると本当に面倒くさがり屋になってしまう、ということ。口癖の持つ影響力がいかに大きいかがわかりますね。
では、具体的にどんな口癖がNGなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
【NGな口癖1】「でも」
「でも」という口癖は、すぐ言い訳に逃げることにつながります。
たとえば、あなたが英語を学び始めたいとしましょう。そのとき、「でも」が口癖になっていると、英語を学ばなくてもいい理由が次々に出てきてしまいます。
- 英語を学びたい。でも、お金がないからなぁ。
- 英語を学びたい。でも、今さら始めても遅いよなぁ。
- 英語を学びたい。でも、身につけても昇進できるとは限らないしなぁ。
このように、「でも」という枕詞が引き金になって、思考がネガティブな方向へ流れていきます。その結果として、最初の「英語を学びたい」という意欲が失せてしまうのです。
どんな物事にも、必ずよい面と悪い面がありますが、「でも」はそこから悪い面だけを抽出し、新しいチャレンジの機会を奪ってしまう、厄介なフィルターなのです。
実業家の堀江貴文氏は、この口癖について以下のように語っています。
人から相談を受けることも多いが、せっかく答えても、「でも○○だから、それはできないんです」と言われることがかなりある。その「でも」が、自分自身を不自由にしていることに気づかないのだろうか。
たとえば、「お金がないからできない」という言い訳。(中略)そもそも疑問に思うのだが、「お金がないからできない」と言っている人は、いったいいくらのお金があればできるのだろうか。お金が問題ではない人も多いように感じるのだが。
(引用元:東洋経済オンライン|堀江貴文氏「“でも”が口癖の人は一生ダメ」)
お金がないのならば、お金を集める方法を考えればいい。時間がないのならば、仕事を辞める・替えるなど捻出する方法はある。堀江氏はそう言います。ところが、「でも」という言葉を口にした途端に思考は停止してしまい、一切の可能性が絶たれてしまうのです。
経営者へのコーチングを提供する、株式会社アンカリング・イノベーション代表の大平信孝氏は、「それなら」という言葉を使うことを提案しています。それにより、問題への解決策に考えが及び、“さあ、今からどうしていくべきか” という前向きな思考を導くことができるのだそう。先ほどの例で言うと、以下のようになります。
- 英語を学びたい。それなら、晩酌を辞めてスクール代を捻出しよう。
- 英語を学びたい。それなら、この年齢からでも身につけられる勉強法を本で研究しよう。
- 英語を学びたい。それなら、どんな英語スキルがあれば昇進につながるか考えよう。
同じ状況でも、口癖ひとつでアクションが大きく変わってくるのがわかりますよね。
【NGな口癖2】「わからない」
「わからない」という口癖も、思考を停止させ、課題の解決策を探すことから逃げる要因になります。
私たちが「わからない」と言うのは、どんなときでしょうか。たとえば、「東京から岡山に行きたい」と思ったときには、どうやって行けばいいか「わからない」とは言いませんよね。なぜならば、日本国内ならば飛行機か新幹線を使えば行けるだろうという、だいたいの想像がつくからです。
一方で、「太平洋の海底に行きたい」となったときには、きっと「わからない」と言いたくなるでしょう。そもそも潜水艦にはどこから乗れるのか、素人が免許もなしに乗れるものなのか、もし乗れるとしても潜水艦を貸してくれる人はどこにいるのかなど、何もかもイメージができないからです。
つまり、過去に経験がなく、答えがイメージができない問いについて、私たちは「わからない」と思ってしまうということになります。
しかしそういう意味では、仕事はいつも「わからない」ことだらけです。新しいプロジェクトを始めるとしたら、もちろん参考にできる前例は少ないですし、それ以外の業務でも、過去に経験のない思わぬ事件や問題は起こります。
そのたびごとに「わからない」と言っていたのでは仕事が進みません。そう言ったところで、答えを知っている人は誰もいないからです。『新・独学術 外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法』の著者、経営コンサルタントの侍留啓介氏は、次のように述べています。
目まぐるしく技術や環境が変化し、企業や個人が抱える問題が複雑化する中、「まったく同じ例が過去にあり、そのまま当てはめればこの問題は解決する」という類の問題はありません。それでも問題を解決するために、限られた情報や経験の中から知恵を絞って意見を出すことが求められているのです。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|会社で評価が低い人は「○○」を口癖にしている)
侍留氏によると、考える前から「わからない」と言ってしまう人は議論に加わることができず、解決案も示せないため、社内での存在感が薄くなってしまいがちなのだそう。
「わからない」という口癖はなるべく慎み、まずは自分なりに精一杯答えを考えることが大切です。もし不安ならば、「今ある情報で考えると……」などの前置きをつけてでもかまいません。とにかく、自分の考えを発言するべきなのです。
【NGな口癖3】「忙しい」
冒頭で「言葉は思考を作る」というお話をしました。この場合も同じです。「忙しい」という言葉を口にすると、実際に忙しいかどうかにかかわらず、脳はそれを現実と思い込みます。つまり「自分は今、忙しいんだ」という認識を持つのです。
臨床心理士の山名裕子氏によると、これによって精神的余裕がなくなり、焦ってミスが生まれたり、仕事のクオリティが低下したりする、などの不利益が起こるそうです。
また、「忙しい」は自己陶酔的な意味合いも持っています。あなたの周りには、いつも「忙しさアピール」をしているような人はいないでしょうか。つまり、自分の忙しさを他人に自慢して、悦に入っているタイプの人です。
忙しい自分に酔うことは、「自分は充分よくやっている」という現状肯定の感情につながります。そのため、本当はもっと能率が上がるのにそこで満足したり、自分の限界を無意識に決めて上を目指さなくなってしまうのだそう。
山名氏は、「忙しい」とつい言ってしまう人に対して、本当に忙しいときこそ「まだまだいける!」「大丈夫!」といった前向きな言葉で自分を鼓舞することが大切だと説きます。もちろん無理しすぎてはいけませんが、「忙しい」からと満足してしまうよりは、生産的な結果が得られるはずです。
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自分の思考や性格に悪影響を与える、3つの口癖をご紹介しました。どれもうっかり言ってしまいそうなものばかりでしたね。
言葉は毎日使うものだからこそ、知らぬ間に蓄積し、習慣となって、あなたの中に根付いてしまいます。なるべくいつもポジティブな言葉を口にできるよう、これから意識してみてくださいね。
(参考)
東洋経済オンライン|「やる気が続かない人」に多いヤバい口癖6つ
東洋経済オンライン|堀江貴文氏「“でも”が口癖の人は一生ダメ」
ダイヤモンド・オンライン|会社で評価が低い人は「○○」を口癖にしている
ダイヤモンド・オンライン|「忙しい」と口にすると、脳が勘違いする
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。