「アート」に興味ない人は “2つの大きな損” をしている。一流が美術館通いを好むのも当然だった!

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Apple社を創業したスティーブ・ジョブズ氏が、ニューヨークのホイットニー美術館やメトロポリタン美術館で、絵画に囲まれながらマーケティングやアイディアのメモを山ほど取っていたという話をご存じでしょうか?

一見すると、ビジネスパーソンとは縁遠い、アート。しかしじつは、世界の一流と呼ばれる人たちは、仕事につながるアイディアを得たり、ビジネスに必要な力を磨いたりするために、どんなに忙しくても美術館通いや好きな美術作品の収集をしています。彼らは『モナ・リザ』の微笑や『ゲルニカ』の混沌に、ビジネスシーンで発揮できるアイディアや力の源泉を見ているのです。

最近企画のアイディアが枯渇気味だ、つい会議で人の意見に流されてしまう、もっと新しいクリエイティブな発想がしたい……という皆さん。成長のヒントは、アート鑑賞にありますよ。

ぜひこの記事を読んで、アートに触れるメリットや効果的な鑑賞法を知り、ビジネススキルを磨くのに役立ててみてくださいね。

(※記事中の人物の肩書は記事公開当時のものです)

アートに触れている人間のほうが成功する?

成功しているビジネスパーソンの中には、アートを学んだ過去があったり、アートからの影響を公言したりしている人物がたくさんいます。たとえば、上記のジョブズ氏以外では以下のような人たちが挙げられます。

  • ジャック・ドーシー氏(Twitter創業者のひとり):アーティストのロバート・ヘンリーからの影響を公言。
  • チャド・ハーリー氏(YouTube創業者のひとりで元CEO。現在はエンジェル投資家):大学時代にアートを学ぶ。
  • ニック・ウッドマン氏(GoPro創業者でCEO):視覚芸術を学ぶ。
  • マリッサ・メイヤー氏(Yahoo!のCEOやGoogleの副社長を歴任。現在はAIラボLumi Labsを経営):画家である母から思考の影響を受けたと公言。

近年、欧米では「一流のビジネスパーソンたるや、アートは必須」という潮流が浸透しつつあります。多くのビジネススクールが、デザインの方法論を学ぶ科目や、アーティストの視点や思考を学ぶ科目を作っているのです。たとえば、スペイン・マドリッドにある世界的に有名なIEビジネススクールでも、「アーティストの思考をビジネスに活かすにはどうするか」といったことを学ぶ科目が導入されています。

このように、アートは趣味や娯楽としてだけではなく、今やビジネスの成功において必須の素養としてとらえられているのです。

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アート鑑賞がもたらす2つの効能

では、そのような潮流が生まれたのはなぜなのでしょうか。以下、アート鑑賞の2つの効能を説明します。

【1】美意識を使った判断力が磨かれる

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』の著者である山口周氏によると、世界のエリートたちは、「美意識」つまり感情や直感の部分で企画や開発を判断する力を、アート鑑賞によって磨いているのだそう。

経営の世界では従来、「分析」「論理」が重んじられてきました。ですが、これだけだと、今日のように複雑化した社会で適切な判断をすることはできません。人々の価値観が多様化の一途をたどる現代においては、「何が真実で、何が美しく、何が良いかを問う姿勢」すなわち「美意識」を使って企画や開発を判断することが必要だ、と山口氏は考えているのです。

実際、前述のジョブズ氏は、製品開発の際も芸術的な美を求めました。たとえば、プリント基板の設計図を見て「そこは美しい」「そこはラインがくっつきすぎていて見苦しい」と、自分の美意識に基づいて判断をしたそうです。彼は、製品を「作品」ととらえ、マーケティングを「製品(=作品)の価値を信じさせること」だととらえていました。

以上のことを踏まえると、冒頭で紹介した「美術館で仕事のメモを取る」という行為にジョブズ氏が期待した効果も見えてきますね。彼は、美意識による判断の精度を高めようとしていたのではないでしょうか。

絵画と向き合うことで、自分が何を美しいと思い、何を良いと思うかが明確になる。それはジョブズ氏にとって、製品の美しさやマーケティング方法の良さを判断する基準が明確になることでもあったのです。自分の美意識と逐一向き合える美術館という場所は、アイディアの模索や取捨選択にうってつけの場所だったに違いありません。

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【2】自由な発想を得られる

ロシアのContemporary Museum of Calligraphyの大使も務める作家、アーティストの長谷川雅彬氏は、現代においてアートに触れている経営者たちが大きな成功を収めているのは、凝り固まった考え方や専門性に寄りすぎた見方を、アート鑑賞によって打破しているからだという見解を示しています。

アーティストは、世の中で起きていることや興味のあることを、さまざまな角度から観察し、多様な視点で解釈して、作品に落とし込みます。そこには、既存のルールにとらわれた発想はありません。経営者たちは、アート作品から、その作者がどのような角度から物事を観察し解釈したかを考えて発見することで、自分自身の既存の価値観や物の見方を壊します。それにより彼らは、自由な発想を生み出す土壌を創っている、というのが長谷川氏の考えです。

再びジョブズ氏の例を出すと、彼はMacintoshの開発の際、開発チーム全員をよく美術館に連れていったそう。そして、「自分たちは『作品を創る芸術家』だ」という意識を持たせることで、「製品を作る技術者」という視点にとらわれない発想を促していたと言います。今では当たり前になっている「マウスでパソコンを操作する」という価値観を打ち立て、後のコンピューターに大きな影響を与えたMacintoshの開発の背景には、まさにアートの力があったのです。

発想力とアートの関係を示すデータについてもご紹介しておきましょう。ミシガン州立大学生理学教授、ロバート・ルート=バーンスタイン氏の研究によると、ノーベル賞を受賞した科学者には、アート関連の趣味を持つ人がほかの科学者と比べて3倍も多かったのだそうですよ。

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ビジネスパーソンの成長に効果的なアート鑑賞法

アート鑑賞のすばらしいメリットを得ようとせっかく美術館に足を運んでも、何も考えずぼーっと絵を眺めているだけでいいはずはありませんよね。ですので、あらかじめいくつかのポイントを押さえておき、アート鑑賞の効果を確実に得ることをねらいましょう。

最近注目されているアート鑑賞法があります。それは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)教育部部長のフィリップ・ヤノウィン氏と認知心理学者アビゲイル・ハウゼン氏が開発した、VTS(Visual Thinking Strategy)鑑賞法です。この鑑賞法の特徴は以下の2点。

  • 鑑賞する際、作品名や作者名、解説文といういわゆるキャプションに載っている情報を用いないこと
  • 1つの作品あたり、おおむね10分以上、純粋に作品を見ることだけに費やすこと

このVTSで重視されるのは、「作品そのものへの理解」ではなく、「作品を見て自分が何を感じ、何を考えるか?」という点です。

京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター副所長の岡崎大輔氏は、ひとりでVTSを用いた鑑賞法をするなら、「自分の頭の中で、もうひとりの自分と会話をするように鑑賞を進めてみる」のが良いとすすめています。その際は、具体的に次のようなことを自分自身に問いかけながら鑑賞していきます。

  • 頭の中に浮かんでくるのは、いったいどんなことなのだろうか?
  • 作品を見たことがない人にもわかるように、この作品を説明するにはどうしたらよいか?
  • 第一印象は何か?
  • 作品のモチーフから連想することは何か?
  • 作品のどの部分に自分の目が集中しているのか?

こうした見方をすることで、自分が良いと思うもの、美しいと思うもの、真実だと思えるものが何なのかを明確にしながら、作者の解釈や考え方を探ることができます。また、言語化を意識することで自分の意見をまとめるトレーニングにもなるのです。

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美術館に行かなくても、アート鑑賞効果を得る方法

最後に、「アート鑑賞と言われても、忙しくて美術館になんか行けない、足を運ぶのが面倒だ、ハードルが高そう」というみなさんに、忙しい毎日でもアート鑑賞の効能を得られるようなスキマ時間や普段の生活の過ごし方を紹介します。

【1】忙しくても美意識を磨く方法:ニュースの情報を「作品」として観察する

前述のIEビジネススクールでアート科目の客員教授を務めるニール・ヒンディ氏は、アートは作品そのものだけに意味があるわけではなく、それを通して「どう感じるか」や「どういう意味か」を考えることに重要な意味があると述べています。

そうした思考法を鍛えるひとつの手としてヒンディ氏が紹介しているのが、普段のインターネットやテレビで流れてくるニュースを、受動的に見聞きするだけではなく、作品と同じように情報をよく「観察」してみる、という方法です。

「なぜこういうことが起きたの」と想像し、「それについてどう思うか」「これはどこまで信頼できるのか」と疑問を持ちながら深く考えて判断し、自分の中でまとめてみる。そのプロセスが、美意識を磨くことにつながるのだそうですよ。

普段つい人の意見に流されてしまう、なかなか自分の意見をまとめられない、という方には特にうってつけの方法だと思います。ぜひ普段から意識して取り入れてみてください。

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【2】忙しくても自由な発想を得る方法:ホームページで一般公開されている作品を見る

世界最大級の美術館と言われるニューヨークのメトロポリタン美術館のウェブサイトでは、所蔵する作品約40万点を、許諾の必要なく無料でダウンロードできます。
■ The Metropolitan Museum of Art|The Met Collection

また、Googleが運営している美術品の鑑賞サービス「Google Arts & Culture」では、世界70ヵ国、1,000を超える美術館の作品を高画質で見ることもできます。
Google Arts & Culture

これらのサイトにアクセスすれば、わざわざ美術館に行かなくても、休憩中や帰宅後でもアート作品と向き合うことができますね。たとえば、企画のアイディアやクリエイティブな発想に行き詰まったときは、考え方が凝り固まっていたり視野が狭くなっていたりしがち。そんなときは、オンラインでアート作品を探し、上で紹介したVTS鑑賞法で作品と向き合い、自分の感性や思考をメンテナンスしてみてください。

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あらゆる作品には、そこに注がれた心血と時間があり、私たちの人生のどこかと必ずつながっています。新しいものを持ち込み、ときには古いものを打破して変えていくのがビジネスの普遍的な命題なのだとしたら、アートもまたそれを繰り返し続けてきました。

ぜひ、どんな作品にでも、一度触れてみてください。ビジネスパーソンとして、未来を拓いていく人間のひとりとして、そこには多くの学びと気づきがあります。

(参考)
桑原晃弥(2010),『ジョブズはなぜ、「石ころ」から成功者(ダイアモンド)になれたのか? ―31歳までに必ずやったこと、絶対やらなかったこと』, 経済界.
桑原晃弥(2012),『スティーブ・ジョブズ 英語で味わう魂の名言』, PHP研究所.
Career Supli|アート×ビジネス!全てのビジネスマンに必須のスキル「美意識」の鍛え方
山口周(2017),『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』, 光文社.
岡崎大輔(2018),『なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?』, SBクリエイティブ.
プレジデントオンライン|バスキアの絵を"123億円"で落札した理由
Biz/Zine|ビジネスとアートが交差する、遠山さんの経営における美意識──「切っ先の鋭さ」と「啐啄の機」とは?
東洋経済オンライン|ノーベル賞を獲る人になぜか共通する「趣味」
ニール・ヒンディ著, 長谷川雅彬監修, 小巻靖子訳(2018),『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』, クロスメディア・パブリッシング.

【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。

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