年末になり「この1年間あまり勉強できなかったかもしれない」「来年こそは頑張りたい」そう思っている人にすすめたい、来年の勉強へ向けたモチベーションの高め方があります。
それは、1年間の勉強で「できたこと」のリストアップ。リストをつくれるほど勉強できていないよ……という人にこそ、やってみてほしいのです。
筆者も、「今年はあまり勉強できなかったな、来年こそは……」と思っていました。しかし「できたこと」を書き出してみると、思わぬ気づきと効果があったのです。
前向きに成長できる「できたことノート」
『絶対に達成する技術』『月イチ10分「できたこと」を振り返りなさい』などの著者で、行動科学専門家の永谷研一氏は、これまでに12,000人以上の行動を分析してきたそう。そのなかで、「前向きに成長し続けられる人は、みんな『できた!』という自信を積み重ねている」ことを発見したと言います。
永谷氏いわく、人の脳はその特性上、物事の欠けているところに目が行きがちなのだとか。私たちは自然と「できなかったこと」に着目してしまうのです。これでは、前向きになれなくて当然。
そこで大切なのが、“落ち込み” や “くよくよ” の元となる「できなかった……」という不達成感を取り払い、自信につながる「できた!」という達成感を得ること。そのために永谷氏は、初めてできるようになったことや、よりよくできたこと、できて気持ちがよかったことなどを、「できたことノート」に書く習慣をすすめています。
実際、スポーツ選手の育成においても、「できたこと」に着目することは重視されているようです。永谷氏によれば、多くの有名プロゴルファーへの指導歴をもつゴルフインストラクターのルディ・デュラン氏が、公立中学校のゴルフ部を指導した際に、「失敗は忘れ、いい記憶だけ残そう」と言い、うまくいったことだけをノートに書かせていたそう。
また、スポーツ選手やミス・ユニバース・ジャパンのトレーニングを担当するメンタルトレーナーの森川陽太郎氏も、自分の「できたこと」に自分自身できちんとOKをあげることが、実力発揮につながると説明します。
アスリートの成長を促す「できたこと」への注目。スポーツのみならず、勉強や仕事での成長にも当てはめられるのではないでしょうか。
「できた!」で得られる「自己肯定感」と「自己効力感」
「できたこと」が大事なのはわかったものの、成長するには「できなかったこと」に目を向けて反省するほうがいいのではないか……と考える人もいるはず。私たちはなぜ、あえて「できたこと」に目を向ける必要があるのでしょうか?
この問題について永谷氏は、「自己肯定感」こそが成長のカギだと述べています。というのも、自己肯定感が低いままでは自分と向き合えないからだそう。
永谷氏いわく、「成長できる人」とは「自分の本音や課題に向き合える人」。そうなるためには、ありのままの自分を認めることのできる自己肯定感を高くもたなければなりません。そんな自己肯定感は、「できたこと」を素直に認めることによって高められると永谷氏。「ここがダメだった、もっとこうしなきゃ」という反省ばかりして自分を否定する一方ではいけないのです。
さらに、「できた!」という実感を得ると「自己効力感」を高めることもできます。自己効力感とは、成果を出すために必要な行動を自分がうまく遂行できるという自信、簡単に言えば「自分はできる」と思うこと。カナダの心理学者アルバート・バンデューラ氏が提唱した概念です。自己効力感が高いほど、実際にその行動を遂行できる傾向があるのだそう。
この自己効力感を高めるために、バンデューラ氏が最も重要だとしているのが「達成経験」、つまり「できた!」という過去の経験なのです。
「あれもできた、これもできた」と、たとえ小さくとも「できたこと」に注目すると、自己肯定感や自己効力感が湧いてきます。おのずとモチベーションも上がり、さらに達成できることが増えるはず。よいサイクルが生まれるに違いありません。
実際に「できたこと」を書き出してみた
ということで、筆者も1年間の勉強で「できたこと」を実際に書き出してみました。そのノートがこちらです。
「精神分析とはどういうものか、整理して理解した」といった学びの成果だけでなく、「小津安二郎の『東京物語』を観た」「松本清張『砂の審廷』を授業で読んだ」などのシンプルな事柄も書き出しています。
冒頭でもお伝えしたとおり、書き出す前は、ノートに書き出せるほどにはこの1年間勉強していなかったな……と思っていました。しかし、大学の授業やゼミでやったことのほか、個人的にしている人文系の勉強の一環で読んだ本や鑑賞した作品をひとつひとつ書き出していったところ、あっという間にページが埋まっていきました。
忘れていたり、些細なことだととらえていたりしただけで、自分が思っていた以上に多くのことを勉強していたと、視覚的に知ることができたのです。
「できたこと」を書き出したら、来年へのモチベーションが上がった!
できたことノートを書く前は、「1年間あったのに、勉強できたという実感が自分にはあまりない。おそらくぼーっと過ごしてしまっていたはず。きっと来年も、十分に勉強できず終わるだろう」と思い込んでいました。
ところが「できたこと」を実際に書き出してみたところ、「私は1年間で、じつはこんなに勉強できていた! 来年もこれくらいならきっと勉強できるはず。頑張ろう!」という気持ちに変わったのです。自己肯定感や自己効力感の高まりを本当に感じられて、来年の勉強へのモチベーションが上がりました。
みなさんも「できたこと」を書き出すときには、どんなに些細なことや趣味に近いことでも、少しでも「身になった」と思うことは全部書くことをおすすめします。というのも、「これは勉強に含められない」とか「少ししかやっていないから」と思って書くのをやめると「できなかった」という認識になってしまい、逆効果となるからです。
前出の森川氏も、ストイックに完璧を目指すより、OKに値することはすべてOKだととらえるほうが自信につながると言っています。「少しだけでも、できたことはできたこと」とどんどん「できた!」を増やしましょう。
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1年間あまり勉強できなかったと思っている方にこそ実践してほしい、と述べた理由をわかっていただけたでしょうか。「できたことノート」で自己肯定感・自己効力感を味方につけ、来年の勉強も前向きに頑張りましょう。
(参考)
日経xwoman|「できたことノート」を始めよう【日経WOMAN18年6月号】
ダイヤモンド・オンライン|成功する人は、毎日「○○」をメモしている
Leaderonline|森川 陽太郎さん/株式会社リコレクト
リンクアンドモチベーション|自己効力感とは?高めるメリットや方法について徹底解説
Wikipedia|自己効力感
【ライタープロフィール】
梁木 みのり
大学では小説創作を学び、第55回文藝賞で最終候補となった経験もある。創作の分野のみでは学べない「わかりやすい」「読みやすい」文章の書き方を、STUDY HACKERでの執筆を通じて習得。文章術に関する記事を得意とし、多く手がけている。