DXが浸透しないのは「社員が○○を嫌う」から。DXの前にやるべき “社員のマインド” を変える方法

パソコンに向かうビジネスパーソン

すっかりDXという言葉が浸透した昨今。DXに取り組んでいる企業の担当者の方は多いのではないでしょうか。

しかし、このDXが目的ではなく手段になっているために、うまくいっていないケースもあるようです。

実際、独立行政法人情報処理推進機構によるDX白書によれば、2022年度の調査で、69.3%の企業がDXに取り組んでいると回答したそうですが、DXの「成果が出ている」と回答した企業は58.0%にとどまりました。 (参照:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構|DX白書2023 エグゼクティブサマリー

ではなぜ、DXはうまくいかないのでしょうか。その理由のひとつとして注目したいのが、社員のマインド。人は変化を嫌い、現状維持を好むもの。そのマインドが、DXの妨げになりうるのです。

今回は、DXに取り組む前に実施したい、社員のマインドを変化させる方法について解説していきます。DXの土壌をつくるためのヒントがたくさん詰まっていますので、以下に当てはまる方はぜひお読みください。

【この記事はこんな方におすすめ】

  • DXが社内で浸透しないと感じているDX担当者の方
  • DXと言われても何をすればいいのかわからないビジネスパーソンの方
  • 社員を変化させる方法について知りたい方

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。

(参考)

IPA 独立行政法人 情報処理推進機構|DX白書2023 エグゼクティブサマリー
経済産業省|「デジタルガバナンス・コード2.0」(令和4年9⽉13⽇改訂)
ロレン・ノードグレン著, デイヴィッド・ションタル著, 船木謙一監訳, 川﨑千歳訳(2023),『「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』, 草思社.
小柳はじめ(2024),『鬼時短 電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則』, 東洋経済新報社.
日本商工会議所|商工会議所の検定試験 ビジネスキーボード

なぜDXが社員に浸透しないのか?

DXの定義をあらためて確認しましょう。経済産業省によれば、DXとは以下を指すそうです。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

(引用元:経済産業省|デジタルガバナンス・コード2.0 ※太字は編集部が施した)

つまり、データとデジタル技術によってビジネスモデルそのものを変革することがDXです。たとえば、フードデリバリーサービスやスマート家電、タクシー配車アプリなど、私たちの身近なところでもDXは進んでいます。

そんな世のなかの動向とは逆に、なかなか自社でDXが浸透せず、歯痒く感じている方もいらっしゃるかもしれません。

では、なぜDXは社員に浸透しないのでしょうか? 経営層の戦略的なビジョン不足や、投資リソースの不足が原因となっているケースもありますが、そのほかには、以下の2点によってDX推進が滞ってしまうようです。

1. デジタル人材不足

デジタル技術に精通した人材が足りないと、DX推進は阻害されてしまいます。ITスキルの足りない社員がDX担当となった場合には、外部業者へ委託するしかないということもありえます。

2. 企業文化・風土の問題

新しいものに対して強く抵抗する傾向がある企業の場合、DXは進みにくくなります。“新しいものを受け入れたくない” という企業文化が、DXを阻害するのです。

企業文化を醸成するのはひとりひとりの社員ですので、社員自身が変化に対する抵抗感をもっているとも言えます。

前出の「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」でも、「リスクを取り、チャレンジすることが尊重される」という項目について「できている」と回答した企業は、たったの15%でした。81.3%の企業が「十分でない」「できていない」と回答しています。(参照:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構|DX白書2023 エグゼクティブサマリー

では、新しい施策や方針はなぜ抵抗に遭うのでしょうか。心理学の視点から考えてみましょう。

ローリスクからハイリスクへ行こうとする人

人が変化を嫌う理由は、現状維持を好むから

人は不確実なものや変化より、なじみのあるものや安定を好みます。心理学ではこれを「現状維持バイアス」と呼びます。

DXを受け入れたくない社員が、慣れ親しんだ仕事の方法や業務システムを変えることに抵抗があるのは、現状維持バイアスが働いているためであると言っていいでしょう。

ケロッグ経営大学院教授ロレン・ノードグレン氏は、著書のなかで、この現状維持バイアスをやや厳しい言葉で「惰性」と表現しています。

「惰性」はイノベーションや変化に対する「抵抗」である。

(引用元:ロレン・ノードグレン著, デイヴィッド・ションタル著, 船木謙一監訳, 川﨑千歳訳(2023),『「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』, 草思社.)

では、この「惰性」という抵抗に対してどう社員を変化させていけばいいのでしょうか。

社員のDXに対する「抵抗」をなくす方法

ノードグレン氏が “人を変化させる戦略” として提案しているもののなかから、以下のふたつを、社内のDX推進に当てはめながらご紹介しましょう。

1. 何度も繰り返す

DXのような新しいアイデアに慣らすためには、何度も繰り返し伝えることが重要です。これは、「単純接触効果」と「真実性の錯覚効果」と呼ばれる現象をベースにした考え方。

単純接触効果とは、人は何かに接触すればするほど、その対象に対してより好感を抱くという効果。真実性の錯覚効果とは、同じことを耳にすればするほど、それをより信じるという効果です。

(前出の『「変化を嫌う人」を動かす 魅力的な提案が受け入れられない4つの理由』よりまとめた)

これらの効果を利用したものとして挙げられるのが、選挙演説や街頭演説です。選挙の候補者が握手をたくさんするのも、繰り返し同じことを言い続けるのも、この効果を狙ってのものと言えます。

企業のトップが繰り返し社員に自社のパーパスやミッションについて語るのも、同じこと。

DXを推進するうえで、その必要性を何度も説き続けるのは非常に大切です。たとえば、会社の経営層や部門のリーダーが、社員に向け以下のように伝えてみるのはいかがでしょうか。

「DXを推進することで、社員全員の業務を効率化することができます。具体的には、繰り返しの作業やルーティンになっていることをDXで解決して、社員全員がよりコアとなる業務に向き合えるようになるのです」

また、かのナポレオンはこう述べていたそうです。

極めて重要な修辞方法はただ1つ―反復法だ。同じ主張を何度も繰り返すことで言葉が心の中にしっかりと留まり、最終的には、実証された事実として受け入れられる

(引用元:同上)

繰り返しメンバーに伝えることの重要性は、歴史上の人物も気づいていたということですね。

2. 小さく始める

DXをスムーズに推進するには、「小さく始める」ことも効果的です。

その根拠となっているのは、恐怖症治療法の基礎概念。段階的暴露法とも呼ばれるこの概念では、ヘビ恐怖症の事例がよく紹介されています。

ヘビが怖い人は、ヘビを見るだけでも嫌でしょうし、姿は見えなくても「その草むらにヘビがいそう」と言われるだけで嫌だと思うでしょう(ヘビ恐怖症の方は申し訳ありません......)。

そんなヘビ恐怖症を治療する際は、具体的に下記でのステップで行なうそうです。

  • ケージに入っているヘビを、マジックミラー越しに慣れるまで見てもらう
  • 次にヘビのいるケージの戸口に立って、慣れてもらう
  • 次はヘビのケージから3メートル離れた椅子に座って、慣れてもらう

各ステップ、慣れてもらうまで10〜15分実施すると、最終的にヘビを膝の上に乗せられ、ヘビの美しさに魅了される人も出てくるようです。

(同上書籍よりまとめた)

これをDX推進に当てはめてみましょう。いきなり「変革だ! DXだ!」と叫んでも、変化を嫌う社員にとって受け入れがたいのは明らかですよね。ヘビが嫌いな人(抵抗する人)に対して、いきなりヘビを持ってもらうようなものなのですから。

では実際に、この「小さく始める」ことをDX推進で行なう場合、最初のスモールステップとは何にあたるでしょうか。

パソコンを前に考える人

DX推進のスモールステップ

社員に抵抗感なくDXを受け入れてもらうための最初のスモールステップとして、タッチタイピングの実践が挙げられます。

社員全員タッチタイピングができますか?

電通で「労働環境改革」を推進し、電通の労働時間を1か月で10万時間削減した小柳はじめ氏は、著書のなかで下記のように述べています。

DXやっている感を出そうとする企業は、まず「デジタル化で効率があがる業務はどれか?」を洗い出そうとしてます(中略)しかし、本当にDXをしなければと痛感する会社の初手は、それではダメです。まず「社員がキーボードを使えるか」を調べるのです。

(引用元:小柳はじめ(2024),『鬼時短 電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則』, 東洋経済新報社. ※太字は編集部にて施した)

みなさんの会社で、まわりを見渡してみましょう。キーボードをタッチタイピングできる社員はどれほどいらっしゃるでしょうか?

タッチタイピングとは、ホームポジション(左手人差し指を「F」のキーに置き、右手人差し指を「J」のキーに置くこと)に適切に手を置き、キーボードを見ずにタイピングすることです。

タッチタイピングができる方は驚くかもしれませんが、正しくかつ速くタイピングできる人は、じつはそう多くはないのです。

小柳氏は、このタッチタイピングにゲームのように取り組んで小さな成功を重ね、時短やDXに対する「熱」を創出することをすすめています。

タッチタイピングの速度を上げれば生産性が上がる

たかがタイピング、されどタイピング。会社での業務は、キーボードでの入力場面が多いですよね。

ドキュメントづくり、社内チャット、メール、これらの作業スピードを社員全員が速くするだけで、会社全体の生産性アップを実現することができます。

タッチタイピングの速度は、商工会議所が実施するビジネスキーボード認定試験の技能認定基準を参考にしましょう。

試験科目には「日本語」「英語」「数値」があり、試験時間は合わせて25分間。そのうち「日本語」は正確に入力できた字数が600字以上800字未満でB評価です。まずはこのレベルまで社員全員を引き上げるスモールステップから始め、段階的にDXを推進していくのはいかがでしょうか。

(参照:日本商工会議所|商工会議所の検定試験 ビジネスキーボード

タイピングする人

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この記事では、DX推進がうまくいかない背景と、人が変化を嫌う理由について解説したあとに、その解消方法としてスモールステップが有効であることをご紹介しました。

社員のタイピングスキルがあまり高くないと感じるなら、まずはタッチタイピングのトレーニングを自社に導入してみてはいかがでしょうか。小さい成功体験からDXを推進していきましょう。

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