相手から期待以上の成果を得られる「仕事の任せ方」。たったひとつ大切な心構えとは

仕事の指示を出す上司と、期待以上の成果を出そうとする部下

仕事は多くの人と関わりながら進めなければなりません。そのため、時には相手から「指示通りの成果」が挙がってこなくてイライラしてしまうのもよくあるものです。そのようなことを避けるには、どうすればいいでしょうか。

400以上の企業や官公庁などの組織変革に携わってきた、沢渡あまねさんにアドバイスをお願いしました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

【プロフィール】
沢渡あまね(さわたり・あまね)
1975年生まれ、神奈川県出身。作家、ワークスタイル&組織開発専門家、組織変革Labo主宰、DX白書2023有識者委員、あまねキャリア株式会社CEO、株式会社NOKIOO顧問、浜松ワークスタイルLab所長。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の伴走・講演および執筆・メディア出演を行なう。『「推される部署」になろう』(インプレス)、『コミュニケーションの問題地図』(技術評論社)、『うちの職場がムリすぎる。』(すばる舎)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

依頼主の「べき論」が、組織の成長を止めてしまう

依頼相手が指示通りの成果を挙げずにイライラしてしまうとき、その多くに、マネージャーなど指示を出す側が自分の「べき論」に凝り固まってしまっているという問題があります。「こうあるべきだ」という自分なりの理想、やり方、ゴールがあり、それをそのまま相手に実現してほしいと思っているのです。

これによって、ふたつの問題が発生します。ひとつは、相手との関係を下請け関係にしてしまうということ。「どうして言われたとおりにやらないんだ」「どうして自分の理想通りに動いてくれないんだ」といったコミュニケーションをしていくと、相手は無力感を覚えます。その結果、本来は思考能力をもっているのに、思考しない選択を自らしてしまうのです。

相手は「自分の意見なんてどうせ言っても無駄だ」「聞いてもらえない」と感じますし、マネージャーのやりたいようにやれないとマイナス評価されるのであれば、「だったら余計なことは言わないほうがいい」「言われたとおりにやっておけばいい」と、その組織は集団思考停止状態になっていくでしょう。

これは、指示を出す側にとっても大問題のはずです。本来なら、指示を出す側は、周囲に助けてもらわなければなりません。ひとりでは完成させることができない仕事だからこそ、依頼をしているはずです。

ところが、指示を出す側が「べき論」を押しつける組織に属する人たちは、指示を出す側の器以上に大きく成長したり、指示を出す側がもつ能力とは別の能力を伸ばしていったりすることもありません。組織全体の成長を止めてしまうのです。

部下に仕事の指示を出す上司

「任せきる」ことで、想定以上の成果につながることもある

「べき論」を押しつけることによって起こるもうひとつの問題は、指示を出す側が想定した以外のいいやり方ができたり、成果が出たりする可能性をつぶしてしまうことです。「このデータからこういうやり方でこういう成果を出すべきだ」と考えるのですから、そうなるのも当然です。

でも、じつはもっと効率のいいほかのやり方があるかもしれませんし、想定以上の成果を得られる可能性だってあるはずです。

以前、静岡県にある大手製造業の工場で職長と会ったときに、まさに「想定以上の成果を得られた」話を聞きました。その工場では金型製造をしています。現場は基本的に男性ばかり。そこに、金型製造に興味をもつ女性社員が入社してきました。

それまで男性ばかりの職場でしたから、人材育成のノウハウも男性社員を想定したものしかありません。そこで職長は、「これは女性には無理だろう」「女性ならこう育成すべきだ」と考え、領域を絞るかたちで育成しようとしました。

ところが、その女性社員はやる気満々。「なんでもやってみたい」と言うので「思うようにやってみて」と任せたところ、想定をはるかに超えるスピードで成長したのだそうです。「私の考えが古かった」「自分が勉強させてもらっている」と目を輝かせながら語っていた職長の姿が強く印象に残っています。

これは、職長が自分の「べき論」を押しつけるのをやめた結果、まさしく想定外以上の成果を得られた好例と言えます。

ですから、指示通りの成果が挙がってこないとイライラするのではなく、場合によっては指示通りの成果が挙がってこないことを歓迎すべきです。自分には思いもつかなかった効率的なやり方を見つけてくれたり、想定以上の成果を挙げてくれたりすれば、組織にとって大きなプラスだからです。

そうするためには、先の女性社員の例のように、「任せきってみる」のがひとつのポイントです。そして、依頼主はサポーターに徹するのです。

ときには口出ししたくなることもあるでしょう。でも、そこをぐっとこらえて任せてみる。ただし、よりよい成果を挙げやすい環境を整えたり、相手が本当に困っているときにはアドバイスをしたりしましょう。それが、サポーターの役目です。

最低限必要な成果につながる「仕事の5つの要素」の共有

とはいえ、任せきってみた結果、「絶対に押さえておかなければならないポイント」すら押さえていない、まったく的はずれな成果物をもってこられては意味がありません。成果物自体も、依頼された側のそれまでの努力も無駄になってしまいます。

そういった事態を避けるには、以下の「仕事の5つの要素」を、依頼主と依頼される側が一緒に確認することが有効です。

【仕事の5つの要素】

仕事の5つの要素

最初の要素が「目的」。なんのためにその仕事をするのか、ゴールの認識がずれていては成果もずれて当然です。2つめは「インプット」。なんらかの資料やデータが必要なのに共有していなかったとなれば、やはり思うような成果は挙がってきません。3つめの要素は「成果物」です。誰にどんなかたちで見せるのかといった、最終的な完成イメージの共有も欠かせません。

4つめは「関係者」外部の人の力を借りなければならないケースもあります。でも、その引き合わせができていなければ、期待する成果につながりにくくなくなるでしょう。最後の5つめの要素は「効率」です。あらゆる仕事には期限があります。せっかくいいものができつつあっても、期限に間に合わなければ意味がありません。

これら5つの要素を共有したうえで、任せきる――。これが、仕事を依頼する側に必要な姿勢ではないでしょうか。

相手から期待以上の成果を得られる仕事の任せ方について語ってくださった沢渡あまねさん

【沢渡あまねさん ほかのインタビュー記事はこちら】
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