相手といい関係を築ける人は「自己主張」がうまい。「次につながる」コミュニケーションのコツとは

いい関係を築きながら仕事を進めるビジネスパーソンたち

上司や同僚、部下などに言いたいことを率直に伝えたら、なぜか関係がぎくしゃくしてしまった――そんな経験がある人に役立つのが、「アサーティブ」というコミュニケーション術です。近年、日本のビジネスシーンで注目度が急激に高まっていると言われるアサーティブ。一般的には「自己主張すること」を意味しますが、具体的にはどのようなコミュニケーションをアサーティブと呼び、どういった効果があるのでしょうか。

アサーティブに関する研修を20年以上にわたって続けている大串亜由美さんに解説してもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
大串亜由美(おおくし・あゆみ)
東京都出身。株式会社グローバリンク代表取締役。大学卒業後、日本ヒューレット・パッカード株式会社に入社。14年の人事部勤務において、採用・教育担当、女性活性化プロジェクトリーダー、海外派遣担当マネジャー、人事コミュニケーション・マネジャー、従業員意識調査プロジェクトリーダーを歴任。1988~1990年、米国ヒューレット・パッカード本社にて人事部門の仕事に携わるかたわら、国際コミュニケーションについて学ぶ。その後、コンサルティング会社勤務を経て、1998年にグローバリンクを設立。「国際的規模での人材活用・人材育成」をキーワードに、異文化コミュニケーションから、マネジメント、接客販売など、ビジネスコミュニケーション全般の企業・団体研修、人材育成コンサルティング業務を手がける。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

組織のパフォーマンスを最大化させることが狙い

「アサーティブ(Assertive)」は、もともと1950年代のアメリカにおいて基本的人権を尊重するところから始まりました。その基本理念として掲げられているのが、「The right to be you」。「あなたがあなたである権利」という意味です。

1970年代になると、アサーティブはビジネスシーンでも活用されるようになっていきました。アメリカの多くの企業が、「The right to be you」を仕事のコミュニケーションにおいても体現しようとしたのです。

その当時のアメリカですから、人は肌が白くても黒くても黄色くても、年をとっていても若くても、男でも女でも、やりたいことはやりたいと言っていいし、やりたくないことはやりたくないと言っていいのだという基本姿勢で働きやすい環境をつくろうと、アサーティブが多くの企業に広まったのです。

いま、日本でアサーティブの研修が求められている理由は、国籍、性別、年齢の違いを尊重するようになったからというところにとどまりません。部下が上司に遠慮することなく提案や進言をしてもいいし、上司が部下からなにかを教わることだって恥ずかしいことでもなんでもない。そういった思考につながって組織の成長や成果を最大化できるところに、アサーティブの大きな意義があるのです。

新卒の新入社員であっても配属日初日から自分のできる範囲でチームに貢献できますし、いまどきのテクノロジーの進化についていけないと不安感を覚えているベテランだって、経験を積んできた得意分野でチームに貢献できる。それぞれが自分の強みを掛け合わせられる、そんなチームを目指すのがアサーティブの狙いなのです。

特にいまは、ビジネスにおける課題がかつてないほど複雑化し、その解決のためには高い専門性をもつ多くの人間の協力が求められる時代です。そういったなかで、助けてほしいときには素直に助けてほしいと言えるような、すがすがしく自己主張をするアサーティブの技術の重要性がより増しているのだと思います。

アサーティブについて語る大串亜由美さん

アサーティブとは、「発展的」で「協調的」な自己主張

アサーティブは、「断定的」「主張がある」という意味の形容詞であり、名詞形では「自己主張」となります。ただ自己主張というと、日本ではアレルギー感をもっている人も多いものです。「彼は主張が強すぎる」といった強引な印象をもたれがちで、自己主張が良しとされない風潮があります。

そこで私は、ふたつの修飾語をつけて、「発展的」かつ「協調的」な自己主張が、本来のアサーティブであると提唱しています。

発展的な自己主張のメリットは、「次につながる」点にあります。自分の主張をゴリ押しするのではなく、相手の立場からも物事を見たうえで、自分と相手のどちらにとってもプラスに働くコミュニケーションをするのが、アサーティブです。

アサーティブを実践すると、相手がお客さまの場合ならリピートをしてもらえたり、ほかのお客さまを紹介してもらったりといったことにつながっていきます。相手が社内の人間であれば、それぞれに自分の主張はきちんと伝え合って議論を尽くしたうえで、変なわだかまりを残さずに、次の日も笑顔で会うことができます。

そうではなく、もしも「今日こそ言いたいことを言ってやるんだ!」といった喧嘩腰の姿勢で相手とぶつかるような、アサーティブではないコミュニケーションをしたなら、その相手との人間関係は破綻してしまうでしょう。それは、自分の仕事や評価にとってもいいことではありません。

もうひとつの協調的な自己主張とは、遠慮することではありません。相手に本気で関心を示し、相手を観察して、遠慮ではなく配慮がある自己主張をすることを意味します。

たとえば、相手が興味のあることから話を切り出したり、相手に伝わりやすい言葉を選んだりするといったやり方で、自己主張をするのです。これにより、結果的に自分の主張が相手に届きやすくなります。つまり、相手のために協調的でなければならないというよりは、自分の主張を届けるために行なうのが協調的な自己主張なのです。

「発展的」で「協調的」な自己主張について語る大串亜由美さん

アサーティブの基本は「Iメッセージ」

アサーティブという言葉を初めて知った人には、アサーティブが具体的にどのようなコミュニケーションなのかいまいちつかめない人もいるかもしれません。ここで、具体例を示してみます。

仕事の話をするときに、事実と意見の両方を伝える、偏らせない、まぜない――これを実行してみましょう。そうすることで、相手に自分の主張をしっかり届ける、協調的な自己主張につながります。

事実だけを淡々と語られても、聞かされた相手は、「で、あなたはどうしたいの?」と物足りなく思います。逆に、事実は少なくて意見だけを述べても、「やる気は伝わるけど、根拠がわからない」と不安に思うでしょう。混乱の極みは、事実と意見がまざっている人です。どこまでが事実で、どこからが意見かがわからない。話している本人も混乱しているのですから、相手に伝わるはずもありません。

また、次につながる発展的な自己主張のためには、「Iメッセージ」を意識してみましょう。Iメッセージとは、「私」を主語にしたメッセージのこと。このIメッセージで、意見だけでなく、ときに感情も表してみます。仕事で感情的になってはいけないというのは、多くの人がもちがちな強すぎる思い込みのひとつです。もちろん、感情的になれば事態は混乱しますが、自分の気持ちに近い言葉でいまの感情を表すのは、自分もため込まないし、相手にも余計な心配をかけずにすみます。

困っている、つらい、大変、落ち込んでいる、へこたれている、悲しい、残念――。そんなことだって言ってもいいと思います。ただし、大原則は「Iメッセージ」です。「あなたにはイラつかされます」と、YOUが主語になれば相手を責めていることになります。あくまでも、自分がどう思っているかを声に出します。抑えようとするから、最後には思った以上にひどい言葉を放ってしまい、二度と会えない関係になったりもするのです。

そして、もちろん、嬉しい、ありがたい、感謝している、感激、楽しい、といった感情の言葉もIメッセージで伝えましょう。そんなポジティブな感情を素直に表現すれば相手も心を開いてくれ、より発展的な関係を構築できるようになるはずです。

アサーティブコミュニケーションで相手といい関係を築くことについてお話ししてくださった大串亜由美さん

【大串亜由美さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“こう” 言われれば人は自然と動きたくなる。相手への○○を大切にする「アサーティブ」な依頼術
“苦手な人” とでも仕事がしやすくなるコツ。「○○でとらえる」と相手を自然に尊重できる

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