リモートワークが普及して、自宅で仕事をする社会人が増えてきました。働きやすくなった一方で、「なぜか最近、疲れやすい」と感じる人も多いのではないでしょうか。
毎日通勤していた頃よりも、運動量は減っているはず。それなのに、疲れを感じてしまう理由は……じつは “脳” にあります。
今回は、体力は使っていないのに「脳ばかり疲れる」人の悪習慣を3つ指摘します。当てはまるものがある人は、ぜひ生活改善を図ってください。
「身体は疲れない」のに「脳が疲れる」のはなぜ?
そもそも、身体は疲れないのに脳が疲れるのはなぜなのでしょう?
脳の機能に詳しい作業療法士の菅原洋平氏によると、脳が疲れるのは、「目の前の場面」と「脳の働き」に “ミスマッチ” が起きているとき。
この仕組みを理解するために押さえておきたいのが、人は通常、以下のふたつのネットワークを無意識に切り替えているということです。
- セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)
何かに集中しているときに活動。外部の情報を取り込み、処理する働き。 - デフォルトモード・ネットワーク(DMN)
何もせず、ぼんやりしているときに活動。記憶や想像、身体意識に関わる働き。
仕事での例を挙げると、ミーティングでの意見交換中や、パソコンでの入力作業時にはCENが働き、作業の手を休め、ぼんやりと今後の予定やアイデアを考えるときにはDMNが働きます。菅原氏いわく、このネットワークの切り替えがスムーズにいけば、脳のエネルギー消費量を最小限に留められるのだそう。
オフィスワンダリングマインド代表の佐藤洋平氏は、適切なタイミングでDMNを働かせることが重要だと言います。たとえば、車の運転中、集中できずぼんやりしてしまえば危険ですよね。反対に、リラックスして案を出さないといけないブレインストーミング中に、緊張して上司の反応に意識が向いてしまったら、斬新なアイデアは考案できません。
DMNとCENのどちらかを抑えるのではなく、それぞれのシーンでふさわしいネットワークに切り替えること。これが、脳を疲れさせないことにつながります。
問題なのは、ネットワークの切り替えがうまくいかない場合です。菅原氏によると、この “切り替え不良” が自宅でのデスクワーク中によく起きるのだそう。
というのも、目線が近くばかりを見てしまいがちになるからです。仕事中にはパソコンを使い、休憩時にはスマートフォンを触り……画面ばかり見ていると、CENの活動に直結する「焦点視」が使われ続けます。
こうしてCENが働き続けると、脳はバランスをとるために強制的にDMNに切り替わるのだとか。すると、「集中すべき仕事中に、ぼーっとしてしまう」という、「場面」と「脳の働き」のミスマッチが起こることになります。
「リモートワーク中、資料を読んでも集中できない」「画面をスクロールし続けても、頭に入ってこない」……このような人の脳内では、ネットワークの切り替えに問題が生じているということ。これが、身体は疲れないのに脳が疲れる理由だったのです。
悪習慣1. 休憩中も「情報をインプット」している
では、できるだけ脳を疲れさせないためには、どのような習慣を避けたほうがいいのでしょうか。
第一に、脳に情報を入れすぎるのはよくありません。
「能率を上げるためにも休憩はしっかりとろう」と意識しているにもかかわらず、その休憩時間のあいだもSNSやニュースを読んで情報収集ばかりしていないでしょうか? それは脳の疲労を招く原因のひとつ。
前述のとおり、休憩中もパソコンやスマートフォンを見ると焦点視ばかり使われ、CENの過活動から強制的にDMNが働き、脳のエネルギーが消耗してしまうからです。それだけでなく、過度な情報量も、脳の疲労に直結します。
菅原氏いわく、仕入れはするものの理解まではしない情報が脳内に増えると、考えがまとまらなくなるとのこと。頭の整理がつかない結果、焦燥感に襲われ、ストレスがたまっていくのだそう。情報の閲覧は、息抜きのつもりでも脳を休ませるのには逆効果なのです。
そこであえて大切にすべきなのが、ぼーっとする時間。菅原氏によれば、デスクを整理したり席を立ったりすると、脳が “インプットモード” から “まとめモード” に、つまり集中するときのCENからぼんやりするときのDMNに、うまく切り替わるそうです。
休憩中のネットサーフィンは最小限に留めるのがベスト。脳を休ませるには、窓からの景色を眺める、飲み物を味わうなど、ぼーっとする過ごし方がおすすめです。また、部屋の片づけや掃除などの単純作業も効果的だとか。仕事とはまったく別の作業をして、頭をスムーズに切り替えましょう。
悪習慣2.「チャットのやりとり」が多い
リモートワークで増えた「チャット」のやり取りに、疲れを感じていませんか? じつは、チャットによくある “即レス” の風潮に縛られるのは、脳によくないのです。
大室産業医事務所代表の大室正志氏は、常に誰かとコミュニケーションをとりながら作業を進めることは、いい脳の使い方ではないと言います。作業をしながら即レスする――いわゆる ”マルチタスク” は脳に負担がかかるからです。
精神科医で禅僧の川野泰周氏も、マルチタスクに警鐘を鳴らします。川野氏によると、ひとつの作業に集中する際はCENが働くのに対し、マルチタスクではDMNが働くとのこと。
じつはDMNはエネルギー消費量が多いため、マルチタスクの状態で作業を進めると、脳を疲れさせることになるのだそう。あなたがチャットのやり取りに疲れるのは、常にDMNを活動させているからだったのです。
リモートワーク中のチャットとうまく付き合うために、大室氏は意識的に「つながり」を絶つことを提案しています。たとえば、作業に集中したい場合は、前もって「10〜12時は作業に集中する時間です」とメッセージを送るなどして宣言しておくとよいのだそう。
また、作業中は、SNSなどの通知をオフにするのもポイント。集中状態に入れる環境を整え、脳の疲労を抑えるようにしましょう。
悪習慣3. 休日にも「仕事と同じ作業」をしている
平日、熱心にパソコンに向き合い続ける人のなかには、オフの日にテレビドラマを観たりネットサーフィンをしたりするのが定番だという人もいるでしょう。ひとりで家にいると、気づいたら仕事と同じく座って目を使う作業ばかりしている……こんなことはありませんか?
休日も仕事の日と似たような過ごし方をするのには注意が必要です。大室氏は、ずっと同じ行動をしていると、脳も同じ場所しか使われなくなると指摘します。脳疲労を予防する観点から言えば、脳をまんべんなく使うのがよいのだとか。
インターネットさえあれば家でなんでも不自由なくこなせる現代だからこそ、オフの日は仕事の作業とは違うことをして、新しい刺激を脳に取り入れることが大切なのです。
とはいえ、いきなりジムに通い出したり習い事を始めたりと、ライフスタイルを大きく変えなくとも大丈夫。前出の菅原氏いわく、予想外の行動をとると逆に脳が疲れてしまうのだそう。
菅原氏のおすすめは、習慣の一部に新しいものを取り入れること。たとえば、これまで休日は一日中映画鑑賞していたのなら、映画は午後だけにして午前はカフェに行く。買い物をするとき、いつもとは違う店に入ってみる――など、休日の習慣に少しの変化をつけるとよいでしょう。
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仕事の生産性を上げるためにも、貴重なプライベートの時間を楽しく過ごすためにも、脳を休ませることは大切です。習慣を少しでも改善し、脳をよい状態に保つことを心がけてみてくださいね。
(参考)
Forbes JAPAN|脳の専門家に聞いた「疲れ切った脳を休ませる」ベストな方法
@DIME|脳のネットワークを切り替えて仕事に役立てる方法
NIKKEI STYLE|脳と心が疲れたら ひとり時間に試したいリセット術
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【ライタープロフィール】
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。