コールド・リーディングとは、相手の心を読めるかのように見せる話術。マジシャンや “ニセ占い師”、詐欺師などが、相談者の心を動かす目的で利用していることが多い質問テクニックです。
コールドリーディングは、自分と顧客のあいだに打ち解けた雰囲気を作ったり、信頼を勝ち取ったりするのに役立つので、私たちビジネスパーソンにも便利な技術。コールド・リーディングの基本情報やテクニック、ビジネスシーンでの活用法をご紹介しましょう。
- コールド・リーディングとは
- コールド・リーディングを学ぶメリット
- コールド・リーディングのテクニック
- コールド・リーディングの基本「ストックスピール」
- コールド・リーディングの実践例
- コールド・リーディングのオススメ本
コールド・リーディングとは
「コールド・リーディング」のコールド(cold)は「準備なしに」、リーディング(reading)は「相手の心を読む」という意味。つまり、事前の情報や下調べなしに、あたかも相手の心を読んだかのように見せるテクニックが、コールド・リーディングです。ちなみに、事前に相手のことを調べておいて心を読んだように見せる技術は、「ホット・リーディング」と呼ばれます。
コールド・リーディングの例をご紹介しましょう。たとえば、“ニセ占い師” がよく使う「最近、転職したいと考えてはいませんよね?」という質問。
「転職したくないですよね?」と「転職したいですよね?」、両方の意味に受け取れるのがお気づきでしょうか。相手が転職したいと思っていたとしても、思っていなかったとしても、「心が読まれた!」と錯覚してしまうのです。
このように、コールド・リーディングはあくまでも言葉のトリックを駆使して、相手の心を読んだかのように錯覚させる技術です。コールド・リーディングは “読心術” ではありません。
コールド・リーディングを学ぶメリット
「コールドリーディングは、“ニセ占い師” や詐欺師も使っている技術である」と冒頭に書いたので、戸惑った方もいるかもしれません。多くの人は、ウソをつくなんてしたくないはず。
けれど、コールド・リーディングは、けして邪悪なスキルではありません。コールド・リーディングの第一人者であるイアン・ローランド氏によると、コールド・リーディングは「相手の考えや感情に影響を与えたいすべての場面に適用可能」だそう。相手をだますことではなく、心を開いてもらうことこそが、コールド・リーディングの根幹なのです。
コールド・リーディングは、顧客や上司の信頼を勝ち取ったり、初対面の人と心の距離を縮めたりする場面で活用できます。正当な目的にもコールド・リーディングは活用可能なのです。コールド・リーディングをうまく使えば、以下のようなメリットが得られますよ。
- 相手に信頼してもらえる。
- 相手の心を開き、スムーズに会話できる。
- さりげなく情報を引き出せる。
特に、コミュニケーション能力に自信のない方や、なかなか成果を出せない営業担当者にとって、コールド・リーディングは有益だといえます。
コールド・リーディングのテクニック
コールド・リーディングとは、具体的にどのようなテクニックなのでしょうか? コールド・リーディングを日本に初めて紹介したセラピスト・石井裕之氏の著書『一瞬で相手を落とす! コールドリーディング入門』を参考に、基本的な技術をいくつかご紹介しましょう。
あいまいルーズ
「あいまいルーズ」とは、複数の意味に解釈できるあいまいな言い回しをすることで、相手の心を読んだように見せかける技術です。「あなたは、かなり非現実的な野望を抱いてしまうことがありますね」というのが、「あいまいルーズ」の例。
「かなり非現実的な野望」というのは、とてもあいまいな言葉です。「ロケットに乗って月に行きたい」というような壮大な望みをイメージする人もいれば、「夏までに恋人をつくりたい」という望みでさえ十分 “非現実的” だと解釈する人もいるはず。さらに、「~してしまうことがある」という言い回しが、あいまいさを増しています。
「あなたは、かなり非現実的な野望を抱いてしまうことがありますね」と言われれば、ほとんどの人は「たしかにそうだ」と、まるで心を言い当てられたかのように錯覚するのです。
二重人格ルーズ
「二重人格ルーズ」とは、「あなたは外向的で付き合いがいいときもある半面、内向的で用心深いときもありますね」というように、正反対の性格を同時に提示する方法。常に明るい人はいませんし、いつも暗い人もほとんどいませんから、「自分の性格が見抜かれた」と、多くの人に感じさせることができます。
不満ルーズ
「不満ルーズ」とは「あなたは現状に不満をもっていますね」というように、相手が抱えている不満を指摘する方法。現状に不満などひとつもない、と胸を張って言える人はまれなので、たいていの人が当てはまります。
「不満ルーズ」は、特に占いで高い効果を発揮する手法です。そもそも、相談者は不満を解決したくて占い師を訪ねるわけですから、「現状に不満がありますね」と誘い水を向けると、「そうなんです! じつは会社の上司が……」という具合に、自ら悩みを話しはじめます。
おだてルーズ
「おだてルーズ」は、「あなたは自分に対して厳しすぎるところがありますね」など、相手の美点を褒める手法です。石井氏によると、私たちには、自分を褒めてくれた人を信じやすい傾向があるのだそう。褒めてくれた人を否定すると、その人が褒めてくれた「優れた自己像」までも否定することになってしまうからです。
褒められると、「自分にはそんな美点があったのか」と嬉しくなり、自分の美点を発見してくれた相手に対して好感をもったという経験が、あなたにもあるのではないでしょうか。
ダブルバインドルーズ
「ダブルバインドルーズ」の代表的な例は、「あなたは、人の言うことを根拠なしに信じたりしない人ですね」というもの。じつは。ちょっとしたトリックが仕掛けられています。「あなたは人の言うことを信じないですね」という言葉を「いいえ」と否定すると、「人の言うことを信じないですね」という言葉を信じなかったことになるので、自動的に質問内容が肯定されてしまうのです。
Q:あなたは人の言うことを信じないですね?
A:はい。
→Qは正しい
Q:あなたは人の言うことを信じないですね?
A:いいえ。
→Qは正しい
このように、YES/NOのどちらで答えても正しくなるように計算して質問するのが、「ダブルバインドルーズ」です。
自己幻想ルーズ
「自己幻想」とは「自分は今ごろ、もっとすごい人物になれていたかもしれないのに」という、自分に対する幻想のこと。「あのときもっと勉強していれば、東京大学に入れたかもしれないのに」「就職活動をもっと戦略的にやっていたら、大企業に入れたかもしれないのに」など、人生の “たられば” を妄想してしまうことが、あなたにもあるはず。
こうした自己幻想をくすぐり、相手の共感を喚起するのが、「自己幻想ルーズ」というテクニックです。「これまでの人生の選択は本当に正しかったのか、疑問に思うことはありませんか」などが、「自己幻想ルーズ」にあたります。
弱点ルーズ
「弱点ルーズ」とは、相手の弱点を指摘する方法。「性格に多少の欠点はあれど、たいていはそれを埋め合わせることができていますね」という具合に、「弱点ルーズ」は、よく「おだてルーズ」と組み合わせて使われます。ただおだてるよりも、弱点を指摘してからおだてたほうが、褒め言葉のリアリティが増すからです。
たとえば、情報番組で「このイチゴ、すごくおいしい!」とタレントが言うのを聞くと、なんだかウソ臭い気がします。しかし、「このイチゴ、形がちょっとイビツですね。でも、味はすごくおいしい!」と、いったんけなしてから褒めると、信ぴょう性が増しているように思えませんか?
単に相手を持ち上げるのではなく、「落として上げる」ことで、より高い効果が期待できるのです。
向上心ルーズ
「向上心ルーズ」とは、相手の向上心を指摘する方法。「今より上に行きたい」という欲求は、誰でも少なからずもっているはず。「あなたは、人から好かれたい・認められたいという欲求が強いですね」のような質問をすれば、たいていの人から同意を得ることができます。
ほかにも無数のテクニックが存在しますが、上に紹介したように、「言葉のトリックを利用」し、「誰でももっている心理を指摘」するのが、コールド・リーディングの根幹です。
コールド・リーディングの基本「ストックスピール」
コールド・リーディングの初学者が最初に暗記するという「12のストックスピール」をご紹介しましょう。
ストックスピールとは、たいていの人に当てはまるよう練られた質問項目のこと。ストックとは「たくわえ、在庫」、スピールは「演説」の意味です。要するに、あらかじめ暗記して頭のなかにストックしておく、コールド・リーディングの台本のようなもの。応用行動学の研究者でオクラホマ州立大学教授、ブライアン・ファーハ氏が編集した『Paranormal Claims: A Critical Analysis(超常的な主張――批判的分析――)』によると、ストックスピールを使えば誰でも、相手の性格を見抜いたように見せられるのだそう。
以下は、コールド・リーディングの基本となる12のストックスピール(SS)と、使われている「ルーズ」の一覧です。全ての質問が、たいていの人に当てはまるのがおわかりいただけると思います。
ストックスピール | 使用テクニック | |
---|---|---|
SS1 | かなり非現実的な野望を抱いてしまうことがある | あいまいルーズ |
SS2 | 外向的で愛想がよく、人付き合いがよいときもある半面、内向的で用心深く、引きこもってしまうこともある | あいまいルーズ、二重人格ルーズ |
SS3 | 自分を素直に出しすぎてしまうのは賢明でないと、これまでの人生で学んだ | あいまいルーズ |
SS4 | ある程度の変化や自由を好み、縛られたり制限されたりすると不満を感じる | あいまいルーズ、不満ルーズ |
SS5 | 性的な欲望をうまく適応させられないことがあった | あいまいルーズ |
SS6 | 自分に対して厳しすぎるところがある | おだてルーズ、ダブルバインドルーズ |
SS7 | 自信があるように見えるけれど、本当はくよくよしたり不安になってしまったりする面がある | 二重人格ルーズ、不満ルーズ、おだてルーズ |
SS8 | 自分の考えをしっかりもっていて、根拠なしに人の言うことを信じ込むことはないと自負している | おだてルーズ、ダブルバインドルーズ |
SS9 | これまでの人生の選択や行動は本当に正しかったのだろうかと疑問に思うこともある | 自己幻想ルーズ |
SS10 | 自分にはまだ掘り起こされていない才能が眠っている | あいまいルーズ、おだてルーズ、自己幻想ルーズ |
SS11 | 性格に多少の弱点はあるけれども、たいていはそれを埋め合わせることができている | あいまいルーズ、弱点ルーズ、おだてルーズ |
SS12 | 人から好かれたい・認められたいという欲求が強い | 向上心ルーズ |
ファーハ氏によると、ストックスピールを相手に信じさせるには、「信ぴょう性のある評価基準に基づいて性格診断をしている」と思ってもらえるように伝えるのが大切とのことです。
以下では、石井氏の著書を参考に、12個のストックスピールだけを使ったコールド・リーディングの実践例をご紹介しましょう。「ニセ占い師」と「お客さん」の会話です。
占:あなたはときどき、非現実的な空想をしてしまうことがありますね(SS1)。
客:当たってます。仕事がつらいと「セレブと結婚して辞められないかな」とか考えちゃいますね。
占:自分に厳しすぎるところがあるから(SS6)、仕事も頑張りすぎてしまっているのかも。
客:たしかに、職場での人間関係が難しくて。
占:あなたは一見、自信がありそうだけれど、内心くよくよしやすい面もありますから(SS7)、人付き合いが大変でしょう。
客:そうなんですよ! じつは私、とてもビビりで。
占:人から認められたいという思いが強いからでしょうね(SS12)。
客:なるほど。
占:以前、自分を素直に出しすぎて失敗したことがあるでしょう(SS3)。その経験を引きずっているんですよ。
客:どうしてわかったんですか! じつは私、高校のときにいじめられたことがあって。……
このように、ストックスピールをそれらしく投げかけるだけでも、相手の心を開けるのです。
コールド・リーディングの実践例
コールド・リーディングの基本を学んだところで、いよいよ応用に入りましょう。イアン・ローランド氏の著書『コールド・リーディング 人の心を一瞬でつかむ技術』を参考に、ビジネスシーンにおけるコールド・リーディングの応用方法をご紹介します。
ストックスピールで信頼を勝ち取る
コールド・リーディングは、商談相手などの信頼を得たいときに活用できます。人間は「自分を理解してくれている」と感じた相手に信頼感をもつ傾向があるので、その心理を利用するのです。
アパレル企業へ商談に行く、と想定してみましょう。その会社や業界について私はよく理解しています、と示せれば、相手は「なかなかデキるな」と感心し、信頼してくれるかもしれません。
そこで、コールド・リーディングを用い、アパレル業界についてそれらしく語ってみましょう。ローランド氏が紹介しているのは、以下のような言い回しです。
アパレル業界は、当初こそ各社がシェアを握ろうと熱狂的な雰囲気だったそうですが、近年では、整理・統合の段階に移行してきましたね。合併をする企業も増え、そうでない企業はニッチ化も進んでいます。
アパレル業界を知りつくしているような発言ですが、たいていの業界に当てはまる表現だとお気づきでしょうか。「アパレル」を「IT」や「教育」、「鉄鋼」などに置き換えても、おおむね正しく聞こえるはずです。
上の発言によると、アパレル業界は「市場発生→整理・統合→合併とニッチ化の進行」という流れにあるそうですが、ローランド氏によれば、ほぼ全ての産業が通る過程なのだそう。「あなたは昔は子どもでしたが、数年後に思春期を迎え、やがて大人になりましたね」と言うのと同じく、ごく当たり前のことなので、外れようがないのです。
「二重人格ルーズ」で情報通に見せかける
「二重人格ルーズ」も、自身を "情報通" に見せる目的で使えます。
「二重人格ルーズ」は、「あなたは外向的な面もありますが、内向的な面もありますね」という具合に、相反する2つの性格を指摘し、相手の性格を言い当てたかのように見せる方法でしたね。「二重人格ルーズ」をビジネスシーンに応用したのが、以下の文例です。
アパレル業界は、先行きが不安な面もあるそうですが、業績が安定している企業も多いそうですね。
「先行きは不安だが、安定している企業も多い」というのは、ほとんどの業界に当てはまること。無知をさらすわけにいかない場面では、コールド・リーディングを利用して切り抜けるのも、処世術だといえるでしょう。
「おだてルーズ」で好感を抱かせる
「おだてルーズ」を使って相手を褒めることも、信頼感や好感を得るのに有効です。多くの人は、人から褒められると、その褒め言葉を信用したくなるばかりか、褒めてくれた相手も信頼しやすい心理をもっています。
ローランド氏によると、商談などのビジネスシーンで「おだてルーズ」を使う場合、以下のように相手企業の戦略を褒めるのが効果的なのだそう。
御社の販売戦略は、非常にすばらしいものに思います。
御社は、広告をとても効果的に活用しているように見受けられます。
こんなふうに褒められたら、「ウチの会社のことをよく見てくれているんだなぁ」と、信頼感を抱くに違いありません。シチュエーションに即した単語や言い回しを用いれば、コールド・リーディングはビジネスシーンでも十分に活用できるのです。
コールド・リーディングのオススメ本
最後に、コールド・リーディングをもっと学びたい人向けに、コールド・リーディングの入門書を2冊ご紹介しましょう。
『コールド・リーディング 人の心を一瞬でつかむ技術』
本記事で何度も名前を挙げた、コールド・リーディングの第一人者、イアン・ローランド氏の著書です。ローランド氏は、コールド・リーディングや心理学の知識を活かし、作家・コンサルタント・マジシャンとして幅広く活躍しています。
『コールド・リーディング 人の心を一瞬でつかむ技術』には、コールド・リーディングの基礎や具体的なテクニックの解説はもちろん、ビジネスや恋愛など身近なシーンでの実践例も豊富に書かれているので、日常生活でコールド・リーディングを実践したい人にオススメです。
『一瞬で相手を落とす! コールドリーディング入門』
次にご紹介するのは、日本におけるコールド・リーディング普及の立役者・石井裕之氏の著書。150ページほどの新書なので、初めてコールド・リーディングに触れる方にはピッタリです。
石井氏は、ほかにも『なぜ、占い師は信用されるのか? 「コールドリーディング」のすべて』『一瞬で信じこませる話術 コールドリーディング』など、コールド・リーディングの本を多数出版しているので、ぜひ手に取ってみてください。
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コールド・リーディングは、コミュニケーション能力が問われるビジネスシーンにおいて、大きな力を発揮します。相手の心をどうしてもつかみたいときは、ぜひ会話に取り入れてみてくださいね。
石井裕之(2009),『一瞬で相手を落とす! コールドリーディング入門』, フォレスト出版.
石井裕之(2005),『一瞬で信じこませる話術 コールドリーディング』, フォレスト出版.
石井裕之(2005),『なぜ、占い師は信用されるのか?「コールドリーディング」のすべて』, フォレスト出版.
イアン・ローランド著, 福岡洋一訳 (2011),『コールドリーディング 人の心を一瞬でつかむ技術』, 楽工社.
Bryan Farha (2007), Paranormal Claims: A Critical Analysis, New York, University Press of America.
IanRowland.com
石井裕之オフィシャルホームページ
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。