みなさんの職場の中に「この人と関わると疲れる……」「この人と仕事をするとストレスがたまる……」と感じさせる人はいませんか? 仕事が楽しくても、日々会う人に疲弊させられると、毎日の出社も気が重くなってしまいますよね。
しかし、にわかには信じがたいのですが、「厄介だ」「疲れる」と感じさせる人は同時に、キャリアアップや経済的成功につながる力を兼ね備えている場合が多いのだとか。
どうせ日々厄介な彼らと関わらないといけないのであれば、その人たちが持っているポジティブな特徴だけを見極めて身につけてみたら、思わぬ成長につながるかもしれませんよ。
「ダークトライアド」と呼ばれる “ちょっと厄介な” 人たち
「この人と関わると疲れる」と感じさせる人の多くは、「ダークトライアド」にあてはまる可能性が高いかもしれません。
ダークトライアドとは心理学用語で、以下の3つの特性を総称したものです。みなさんの職場に、こんな人はいませんでしょうか?
- ナルシスト:自尊心が非常に高い。誇大妄想をしがち。自己中心的。
- マキャベリスト:目的のためなら手段を選ばない。人をいいように操る。
- サイコパス:他人に共感や罪悪感を抱かない。
このような特徴を備えた人たちは、他人の怒りや苦しみ、悲しみといったネガティブな感情を喜びにしてしまうという危うさがあります。
その代表的な例が、インターネットの「荒らし」です。カナダのマニトバ大学が中心になって行なった研究によると、インターネット上で「荒らし」行為をする人の多くは、ダークトライアドの特徴を持っているのだそう。彼らは、自分が何かを言うことで相手が怒ったり悲しんだりすることが予測されるときに「荒らし」をはじめるのだとか。
日常生活の中で、このような自己中心的で他者の苦しみを喜びにする人と関わってしまったら、痛い目をみる可能性は限りなく高そうですよね。
ダークトライアドの意外な才能
しかし意外なことに、高い地位や経済的な成功を得た人の中には、ダークトライアドの特徴を持っている人が多いそうなのです。
スイスのベルン大学の心理学者Daniel Spurk氏らがドイツの代表的な企業を対象に行なった調査によると、ナルシストの度合いが高いほど給与の水準も高く、マキャベリストの度合いが高いほど職位も高く、キャリアへの満足度も高いとのこと。
また、ベルギーのゲント大学で産業・組織心理学を教えるBart Wille氏らが行なった別の研究では、サイコパスやナルシストの特徴を持つ人は組織の上位職に多くみられ、経済的な成功度も高いことがわかりました。
ではいったいなぜ、「厄介」「面倒」「疲れる」と思われるようなダークトライアドたちが成功するのでしょうか? それは、ダークトライアドの特徴の中に、じつは、キャリアの成功につながるようなポジティブな側面も同時に存在するからなのです。
ウェスタンシドニー大学の行動心理学者Peter Jonason氏らの研究によると、ダークトライアドのポジティブな特徴として、以下のような点があるそうです。
- 好奇心が旺盛
- 自己肯定感が高い
- 外向性が高い
- 新しい体験に積極的である
これらのポジティブな特徴は、ネガティブな特徴と表裏一体になっています。ナルシストの持っている自信は、よくいえば「自己肯定感が高い」ということでもあります。マキャベリストは口先で話すのがうまいからこそ「外交的」であり、サイコパスは恐れや不安に共感しないからこそ「積極性がある」といえるでしょう。
もしかしたら、ポジティブな特徴があまり表に出ず、ネガティブな特徴ばかりが前面に出すぎてしまうことが、ダークトライアドたちを「厄介」と思わせる原因なのかもしれませんね。
ダークトライアドの良い面だけを身につける方法
それでは、ダークトライアドが持っている、成功に結びつきやすいポジティブな能力だけを上手に身につける方法をご紹介していきます。
1. ナルシストの「強靭なメンタル」を身につける方法:自分のよいところを100個書き出す
メンタリストDaiGo氏は、ナルシストが成功しやすい理由は、その「強靭なメンタル」にあると分析しています。メンタルが強靭だと、新しい挑戦にも臆さない。新しい挑戦をすれば自信を得て、さらにメンタルが強くなる。メンタルが強くなれば感情が安定して、良いパフォーマンスが発揮できる――。成功しているナルシストには、このような良いループができているとのこと。
しかし、ナルシストの持つ強靭なメンタルなんてなかなか手に入れるのは難しそうですよね……。そこでおすすめしたいのが、心理学者の内藤誼人氏が著書『いちいち気にしない心を手に入れる本』の中で紹介している方法です。
それは「自分のよいところを紙に100個書き出す」というもの。
100個と聞くととても大変なようなイメージがありますが、なにも一度に100個書き出せというのではありません。1日3個でも、1個でも大丈夫。大切なのは、100個という大変な目標を達成するために、日々自分のよいところに目を向け続けることです。
自分は優秀なんだと考えることが、ナルシストのメンタルの強さの秘訣だとDaiGo氏はいいます。自分を見つめてよいところを探し続け、自分が少しでも優秀だと思える部分を発見していければ、あなたもナルシストの強いメンタルを手に入れられるかもしれません。
2. マキャべリストの「頭の回転のはやさ」を身につける方法:デュアルタスク
ロンドンにあるウェスタンオンタリオ大学で健康科学を教えるChristopher Marcin Kowalski氏らが、ポーランドの高校生128人を対象にして行なった研究があります。それによると、マキャベリストの傾向が強い人のほうが、計算力や論理性、問題解決能力を司る「流動性知能」が高いということがわかったのだそうです。流動性知能とは、初めて遭遇する物事に対処する能力のこと。「地頭の良さ」や「頭の回転のはやさ」とも言い換えることができます。
脳科学者の中野信子氏によれば、流動性知能は脳の「ワーキングメモリ」を広げる訓練をすることで鍛えられるとのこと、ワーキングメモリとは、脳で短期的に記憶を蓄えたり、複数のことを同時に処理する能力を指します。
とはいえ、この能力を広げる訓練といわれてもわかりづらいですし、難しそうに思うかもしれません。でもじつは、日常生活の中で簡単に行なうことができます。その方法とは、諏訪東京理科大学教授で脳科学者の篠原菊紀氏がすすめる「デュアルタスク」というものです。
デュアルタスクとはごく簡単に説明すると、「運動」と「頭を使うこと」を同時に行なうことです。たとえば、通勤中に徒歩や電車で移動する際、以下のようなデュアルタスクを行なってみてはいかがでしょう。
- ウォーキング×計算:
歩きながら「100−8=92」「92−8=84」というように同じ数を引く単純な計算をする - 階段の昇降×しりとり:
駅の階段を昇り(降り)ながら頭の中でしりとりをする
上記のように普段の通勤時間に一工夫くわえるだけで、流動性知能を伸ばしていくことができます。こうしてマキャベリストの頭の回転のはやさを身につければ、必ずや仕事に役立てることができそうですね。
3. サイコパスの「冷静な視点」を身につける方法:マインドフルネス
オックスフォード大学の心理学者Kevin Dutton氏によると、サイコパスの脳は仏教僧の脳に非常に近いそうで、両者の間には共通点が見受けられるのだそう。
その共通点とは、冷静に物事を見るということ。サイコパスと仏教僧は同様に、過去への後悔や未来への不安に流されず、今目の前で起きていることだけに集中できます。それゆえ、プレッシャーのかかる場面でも冷静さを求められるCEOや外科医、報道関係者といった職業にはサイコパスが多いのだとか。
サイコパスや仏教僧のような冷静な視点を養うのに有効なのが、マインドフルネス瞑想です。Apple社を創業したスティーブ・ジョブズ氏が日課にしていたことから注目を浴びたマインドフルネス瞑想は、いまではGoogle社などの社員研修にも導入されています。ここでは、職場で簡単にできるマインドフルネス瞑想の方法をご紹介しましょう。
ロサンゼルスでカウンセリング診療を手がけるTransHope Medicalの院長であり、脳科学分野での数々の学術賞を受賞歴がある久賀谷亮氏は、以下のマインドフルネス呼吸法をすすめています。
- 背筋を軽く伸ばし、背もたれから少し背中を離して、椅子に腰かける。このとき「背中はしゃっきり、お腹はゆったり」を意識する。
- 手は太ももの上に置き、足の裏を地面にペったりつける。
- 足の裏や、太もも、お尻などの身体の感覚に意識を向ける。身体全体が重力に引っ張られているのを感じる。
- 呼吸に意識を向ける。空気が鼻を通る感覚や、胸やお腹が空気で膨らむのを感じる。
- 雑念が浮かんだら、すぐに呼吸に意識を戻す。
呼吸に意識を向けるのは、“今” に集中するため。そうすれば、過去への後悔や未来への不安を切り離すことができます。マインドフルネスは、1日5分だけでもいいので継続して行なうことが大切なのだそう。職場の休憩時間やちょっとしたスキマ時間などに日々実践して、サイコパスの冷静さを手に入れてはいかがでしょうか。
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「清濁合わせ呑む」という言葉がありますが、できることならば、ダークトライアドのきれいな部分だけを呑みたいものです。今回ピックアップした方法を参考にして、ぜひ日々の仕事に役立ててみてくださいね。
(参考)
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|なぜ、「邪悪な性格」の持ち主は成功しやすいのか?
東洋経済オンライン|企業経営者には強いサイコパス気質がある
Buckles, Erin E., Paul D.Tranpnell and Delroy L.Paulhus (2014), “Trolls just want to have fun,” Personality and individual Differences, Vol.67, pp.97-102.
Spurk, Daniel, Anita C.Keller, and Andreas Hirschi (2015), “Do Bad Guys Get Ahead or Fall Behind? Relationships of the Dark Triad of Personality With Objective and Subjective Career Success,” Social Phychological and Personality Science, Vol.7, No.2, pp.113-121.
Wille, Bart, Filip De Fruyt and Barbara De Clercq (2012),“Expanding and Reconceptualizing Aberrant Personality at Work: Validity of Five‐Factor Model Aberrant Personality Tendencies to Predict Career Outcomes,” PERSONNEL PHYCHOLOGY, Vol.66, No.1, pp.173-223.
Jonason, Peter K., Norman P.Li and Emily A.Teicher (2010), “Who is James Bond?: The Dark Triad as an Agentic Social Style,” Individual Differences Research, Vol.8, No.2, pp.111-120.
内藤誼人(2018),『いちいち気にしない心が手に入る本』, 三笠書房.
Mentalist DaiGo Official Blog|自分好きな方が勝ち!ナルシストのメリットとは
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【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。