「資格試験合格のために毎日勉強するぞ!」
「スキルアップのために月20冊はビジネス書を読むぞ!」
こう決意して勉強や読書を始めたはいいものの、やる気が続かず、いつの間にかやめてしまっていた……そんな経験をしたことはありませんか?
でも、自分を過度に責める必要はありません。これまでは物事がうまく続けられなかったとしても、これからを変えていけばいいだけの話。そして、脳のカラクリを知れば、無理なくやる気を持続させることだってできるのです。
ポイントは、「○○すべき」という厳しい縛りやルールを設けるのではなく、適度に肩の力を抜いて「○○しないようにする」と心がけること。やる気が続かない自分を少しずつ変えるための「10のしないこと」を紹介しましょう。
そもそも「やる気」が続かないのはなぜなのか?
「やる気が続かない」というのは、かなり多くの人が持っている悩みですよね。なぜ、やる気を持続させるのはこれほどまでに難しいのでしょうか。それは、やる気のメカニズムを理解すれば説明することができます。
「やる気」の中核を担うのは、脳の深部にある大脳基底核の一部である「線条体」という部位。しかし線条体には、単体ではやる気を高められないという特徴があります。そこで登場するのが「前頭葉」と「中脳」です。
玉川大学・脳科学研究所の松元健二教授によれば、線条体は、前頭葉から行動に関する情報を、中脳から報酬に関する情報を受け取り、行動と報酬が結びついて初めて活性化するとのこと。つまり、「こういう行動をしたら、こういう報酬が得られた」という経験をしたり、その経験を踏まえて「こういう行動をしたら、こういう報酬が得られるだろう」と期待したりすることを通して、線条体は活性化し、やる気も高まっていくのです。
逆に言えば、やる気が続かないのは、行動と報酬がうまく紐づいていないから。たとえば、はじめから厳しすぎる目標を自分に課したあまり、「こんなに頑張っても目標に到達できないなんて……」とまったく報酬が得られなかったとしたら、やる気が削がれてしまうのも当然ですよね。
やる気を持続させるためには、もう少し肩の力を抜いて、楽しく物事に向き合える工夫をしなければいけないようです。
やっぱり「最初から完璧を目指さない」のが吉
というわけで、やる気が続かない自分を少しずつ変えるための「10のしないこと」を考えてみました。
1つめの「見切り発車で始めない」について。脳科学者の篠原菊紀氏は、これから起こす行動を具体的にイメージすると、前頭葉にある運動野を刺激して線条体をより活性化させられると説きます。そのため、「毎日勉強するぞ!」と漠然とした目標で見切り発車するのではなく、「まずは第1章を1週間で終わらせたい」「そのために1日4ページずつテキストを進めよう」など、あらかじめ具体的な計画を立てておくことが大切です。
2つめと3つめ「きついノルマを設けない」「完璧な出来にこだわらない」は、「不快」をできるだけなくすための戦略です。メンタルコーチの平本あきお氏によれば、脳が「快(=楽しい、充実している)」に傾いたらやる気が続く一方、「不快(=疲れる、苦手)」に傾いたら、どんな一流アスリートであってもやる気は湧かないとのこと。
ここで気をつけたいのは、やりたい行動を「快」に結びつけるために、一気にすべてを変えようとしないことです。たとえば、「7時起きの人がいきなり5時起きに変えて勉強しようとする」「読書習慣がまったくない人が1日1冊本を読もうとする」といった急な変化は、脳が「不快」を感じる原因になります。だからこそ、厳しいノルマや完璧主義はNG。「まずは20分だけ早起きしてテキストを読んでみる」「1日10分だけ本を読んでみる」など、「これならば行けそう!」と思えるレベルから少しずつ日常になじませていくことが大切ですよ。
4つめから7つめの「周囲のスケジュールに振り回されない」「ダラダラと長時間続けない」「息切れするまで頑張らない」「取り組む時間をバラバラにしない」は、時間管理に関わるものです。
仕事が忙しくて自分の時間が確保できない……なんてことが続くと、やる気も持続しないと、平本氏は指摘します。だからこそ、自分の時間の重要度を上げておくべきとのこと。周囲のスケジュールを優先して余った時間で頑張ろうとしても、振り回されがちになるので、得策とは言えません。
あわせて平本氏は、「時間を区切るからこそやる気が湧く」と述べます。気分が乗ってきてどうしても延長したい場合は、未来の自分を想像して、やったほうがよいか判断しましょう。未来の自分が疲れて息切れしているようならば、「不快」につながるだけなので、その日は終わりにしてくださいね。
また、脳神経外科医の築山節氏は、「24時間いつでも集中できるわけではないので、集中する時間を固定したほうがよい」とすすめます。毎日同じ時間に脳を働かせるようにしておくと、その時間帯になれば自然と脳が冴えるようになってくるそうです。脳の活動リズムをつくることは負担減にもつながるので、ぜひ取り入れてみましょう。
また築山氏によると、適度な運動は脳の血流をよくして、やる気につながる作業興奮を発生させるとのこと。そこで、8つめの「家に引きこもって体をなまらせない」をリストアップしました。気分転換にウォーキングをするなど、体を動かせば、のちのやる気の持続につながりますよ。
9つめ「周囲からの評価を期待しない」は、動機づけに関連します。みなさんは「アンダーマイニング効果」という言葉を聞いたことがありますか。これは、「自分が純粋に楽しいから」といった動機から物事を始めたとしても、「ほめられる」「ご褒美をもらう」といった外からの報酬を受けすぎると、当初の楽しさが失われてしまうという心理現象のこと。何事も「それ自体を好きでやっている」という気持ちが根本にあるのが大切なので、「人から評価されるかどうか」はあまり意識しないようにしましょう。
最後の「『でも・どうせ』など、言い訳につながる言葉を使わない」は、メンタルコーチの大平信孝氏が指摘しているものです。大平氏によれば、「普段なにげなく使っている言葉がやる気を奪う」とのこと。
たとえば、「(本を読まなければ……)でも今日は忙しいから本が読めない」などと言い訳したくなること、ありますよね。そんなときは、「それなら」という言葉を加えて、「(それなら)明日の通勤電車を読書タイムにあてよう」など、プラス思考の言葉を続けてみましょう。やる気が続くか続かないかも、ご自身の言葉にかかっているのです。
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「10のしないことリスト」をもとに、頑張りすぎない程度に、でも着実に自分を変えていきましょう!
(参考)
Adecco Group|脳科学から見た やる気とグロースマインドセット
プレジデントオンライン|脳科学者"やる気が出ないと悩むのは無駄" 野生動物も普段はのんびりしている
平本あきお(2017),『なぜ、あなたのやる気は続かないのか』, 青春出版社.
築山節(2009),『脳から変えるダメな自分「やる気」と「自信」を取り戻す』, NHK出版.
東洋経済オンライン|「やる気が続かない人」に多いヤバい口癖6つ
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。