どうしても気が進まない、面倒な仕事ってありますよね。例えば、会社に提出する資料を作ること、課題書籍を読むこと、授業で課されたレポートを書くこと……。こんな時、あなたは後回しにすることなく、すぐに取り組むことはできますか?
面倒なことにすぐに取り掛かるのは、「やらなきゃいけない」と分かっていても、実際にはとても難しいこと。レポートなどを後回しにしてしまって、できあがったのが期限ぎりぎり、もしくは間に合わなかったという経験がある人もいるでしょう。また、やらなくてはならないことを後回しにするのは、罪悪感のような、焦りのような、何とも嫌な気分になるものです。
このようにやらなくてはならないことを後回しにしてしまう癖がある方に、後回し癖を直す意外な方法を紹介したいと思います。それは、「家事」です。
今回は、なぜ私たちが物事を後回しにしてしまうのか、そして後回し癖が家事で解消できるのはなぜなのか、見ていきましょう。
後回しは時間の浪費を招く
後回しにすることは悪いこと。そう、みなさん漠然と感じていることだと思いますが、具体的には何が悪いのでしょうか?
グーグル、ヤフー、マイクロソフトなど、大手インターネット関連企業へのコンサルティングを行い、コンサルタントの間でGuru's Guru(先生の先生)と呼ばれる、リッチ・シェフレン氏。彼は、物事を後回しにするのがよくない理由は、やるべきことの代わりに大事ではないことをやってしまい、時間を無駄にしてしまうからだ、といいます。
試験勉強やレポートが嫌だからといって後回しにするとき、私たちはたいてい、ゲームやSNSのチェックなど、今やる必要のない、たいして意味もないことをやってしまいますよね。このように、やるべきことを後回しにした分の時間だけ、重要度の低い(あるいは無意味な)ことに時間を費やしてしまうため、時間が無駄になってしまうのです。
後回しをしてしまうのは、脳の前頭葉が弱っているから
では、どうして私たちは、やるべきだと分かっていることを後回しにしてしまうのでしょうか?
医学博士で、脳に関する数々の著作を持つ築山節氏は、後回しの原因は前頭葉が弱っていることにあるといいます。
前頭葉は情報を組み合わせて思考や行動を組み立て、運動野を介して体に命令を出すという脳の中の司令塔の役割を果たしています。前頭葉の体力が低下して指示を出し続けられなくなると、面倒くさい、楽をしたいという脳の原始的な欲求に負けやすく、主体的に仕事に取組み意欲が湧きづらくなります。
(引用元:名言DB|築山節の名言)
私たち人間の脳では、大脳辺縁系が「~したい」という欲求を、前頭葉が論理的な判断や思考をつかさどっています。そして、大脳辺縁系は普段、前頭葉の理性によって制御されています。「楽をしたい」という大脳辺縁系を、前頭葉が「今は他にやるべきことがあるから、駄目だ」と押さえつけているというのが、やるべきことを後回しにせずきちんと取り組めている状態です。
しかし、前頭葉の働きが低下すると、「寝たい」「SNSをチェックしたい」などの欲求が抑えられなくなってしまいます。その結果、物事が後回しになってしまうのです。
前頭葉を鍛えるためには、家事がおすすめ
したがって、後回し癖で悩んでいる人は、前頭葉を鍛えればよいということになります。では、前頭葉を鍛えるためには、どうすればよいのでしょうか?
脳を鍛えるというと、計算問題やパズルなど、頭を一生懸命使う脳トレのようなことが思い浮かびますが、そのようなことをする必要はありません。
実は、前頭葉を鍛えるためには、家事をするとよいのです。脳科学者で、諏訪東京理科大学の教授の篠原菊紀氏は、家事をこなすことによって前頭葉が活性化すると述べています。
料理や掃除、洗濯、家中の整理整頓など、家事はまさにワーキングメモリーを多重に使いこなさなければ、スムーズにできません。実際、脳活動を調べると、料理でも窓ふきでも、ボタンつけでも、掃除でも前頭葉は活性化します。
(引用元:篠原菊紀著(2008),『集中力と知力を育てる生活脳トレ』,夫婦の友社, p 47.)
例えば、料理を効率的に行おうとすると、2つ以上の調理を同時に行わなくてはなりません。調理に使える時間や食材の量などの条件も、その時々によって異なります。そのため、段取りをしっかりと組む必要があり、前頭葉が鍛えられるのです。
また、綺麗好きな人は別として、掃除や家の中の整理整頓は、多くの人にとって面倒な仕事の部類に入ると思います。しかし、掃除や整理整頓のような面倒なことを後回しにしないように心がけることによって、面倒な物事を後回しにしない、という耐性をつけることもできます。
このように家事をすることで前頭葉を鍛えれば、後回し癖は解消することができるでしょう。
どうしても後回しがやめられない人へ
家事を積極的に行い、前頭葉を鍛えても、それでもどうしてもやる気が起きないことがあるかもしれません。そんなときは、嫌な課題に取り組むのをやめ、取り組まなくてはならないものと同じくらい重要な他の仕事をしてみてください。
先ほど紹介したリッチ・シェフレン氏は、次のように述べています。
ここで、解決策を1つ教えましょう。仕事Xに嫌々取り組むのはやめて、Xと同じくらい重要な他の仕事をするのです。例えば、「やること」リストの次に載っている仕事YとZに取り組むのです。 仕事YとZが片付いたときに、仕事Xに戻るエネルギーが残っているかもしれませんし、その日の仕事はそれでやめにするかもしれません。 でも、とにかく、何かは達成できました。重要なのはこれなのです。
(引用元:The Response|先延ばし常習者が成功する方法)
どうしても勉強をする気にならないのならば、勉強と同じくらい大事で、やらなくてはならないことに取り組めばよいのです。例えば、先生や上司から勧められた書籍を読んでみる、別で抱えている資料作成のために必要なリサーチに手を付けてみる、といった具合です。同じ勉強のうちでも、英文読解が嫌なら英単語をやるなど、別のことに取り組むのも良いでしょう。
そうすれば、「やりたくない」といって非生産的な行動ばかりしてしまうことだけは防げます。後回しにした分の時間を無駄にせずに済むのですね。
*** やるべきだけれど面倒なことというのは、どうしても後回しにしたくなります。ですが、物事を後回しにする癖がついてしまうと、時間が無駄になるだけでなく、楽をしたい、サボりたいという欲求に負け続けてしまうことになります。
後回し癖がひどいなと感じるようなら、「毎日机の上を整理整頓する」など、簡単な家事を続けてみてはいかがでしょう。
(参考) logmi|「明日やればいいや」はもう卒業–物事を先延ばしにするデメリットとその対処法 The Response|先延ばし常習者が成功する方法 名言DB|築山節の名言 篠原菊紀著(2008),『集中力と知力を育てる生活脳トレ』,夫婦の友社, p. 47. Direct Communication|前頭連合野(Frontal Association Cortex)