難題に直面した。解決の糸口さえ見えない……。そんなとき、あなたならその困難にどうアプローチしますか?
突然ですが、筆者が学んでいる物理学は、さまざまな数学を駆使し、マクロな宇宙からミクロな素粒子まであらゆる自然現象を明らかにしていく学問です。しかし当然ながら、自然は簡単に答えを教えてはくれません。複雑な自然現象に「なぜ」という疑問を抱き、それに挑む物理学者たちは、いかにして問題に取り組み、解き明かしているのでしょうか。
実は、物理学者たちの用いる手法のなかに、ビジネスにも生かせられる秘訣があるのです。
そこで今回は、東京大学物理学専攻の上田正仁教授が教える「地図メソッド」をご紹介。とっかかりさえ見えない問題も、戦略的に解けるようになる思考ツールです。地図メソッドを実践し、物事の本質をつかめるスマートなビジネスパーソンへの第一歩を踏み出しましょう。
地図メソッドとはなにか
地図メソッドは「問題の本質ってなんだろう」「どうやって問題を解けばいいんだろう」という悩みを解決する方法です。東京大学物理学専攻の上田教授自身が考え、名付けたもので、その目的は以下の通りです。
- 膨大な情報の中から「まだ分かっていないこと」を明確にし、問題の核心に迫る
- その具体的な手順を、できるだけシステマティックに処理する
では実際にはどんな方法なのでしょうか。地図メソッドは以下のような6つのステップからなります。
(図は筆者にて作成)
より詳しい内容は、次の章でご説明します。
地図メソッドの活用例
地図メソッドの詳しい方法を理解するために、今回は試しに、「ある企業主催のイベントに1,000人集客する方法」を考えるとしましょう。地図メソッドのステップに沿って説明していきます。
1.情報収集
この企業の過去のイベントにおける集客法や、世の中のイベント開催の際の集客法について調べます。その際、自分の処理できるキャパシティを超えて情報を集めすぎないように注意してください。先のフェーズに進んでから足りないと気づいたときは、またこのフェーズに戻りましょう。
2.情報選別
ここでは情報を流し読みし、突っ込んで読まなくてはいけない情報はどれなのかを選別します。そして情報を読み込んだあとに内容を一文程度で簡単にまとめておくととても便利です。その情報に一文でラベルをつけるイメージです。
3.地図作製
一枚の紙に「分かっていること」「分かっていないこと」を書き込みます。キーワードとして分かっていることを書き、分かっていない未開拓の部分を可視化します。このようにして「情報の地図」を作成します。
(図は筆者にて作成)
4.本質抽出
情報の地図を作成すると、これまで部分的にしか分かっていなかった問題の全容を把握できます。そこで今度は、問題の中で何が分かれば全体の課題が解決するか、問題の本質を抽出しましょう。
5.問題選別
次に先ほど抽出した問題の中から “自分として「分かりたいこと」” を選択します。上田教授は問題の選別のついて以下のようにコメントしています。
「問題の選別」で重要なことは、自分の力を最大限発揮することで解決できるオリジナル問題を選ぶことだ
(引用元:上田正仁(2017),『東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方』,PHP研究所.)
ここでの注意点は3点です。
- すぐに解決できる問題は選ばない
- 流行っている問題は選ばない
- 最大限努力しても解決できそうもない問題は選ばない
こうした観点は、新たな研究やサービスを生み出すときなど、ビジネスでも非常に重要になってきます。身近な業務改善などについての課題のときには、特に最後の「最大限努力しても解決できそうもない問題は選ばない」に注目しておくと良いでしょう。最大限努力して何とか解決できそうなものを選ばなければ業務改善には役立たないからです。ここまでくれば、当初は抽象度が高かった課題が、数段ブレイクダウンできているはずです。
6.問題解決
解決法を考え、試しながらひたすら問題の解決に挑みます。この部分はケースにより実際にどうするかは千差万別なので、詳しい説明は割愛します。
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地図メソッドによる問題解決法、いかがでしたか。
課題が大きく、たくさんの情報があるとき、人は往々にして「あれ、結局何をしているのだろう??」と迷子になりがちです。しかし、この地図メソッドを意識し、情報を図にしていけば、複雑な課題も克服することができます。
問題解決の本質は、「問題の全体感の把握」「問題のブレイクダウン」「優先順位の決定」にあります。そこから先は、粛々とできることをしていくのです。
取っ掛かりも分からない、とても複雑でわけがわからない課題に直面した際は、ぜひ実践してみてくださいね。
(参考)
上田正仁(2017),『東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方』,PHP研究所.
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